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とある兵器の終末劇

作者: chee

暗い暗い奈落の底のそのさらに下、そんな洞窟の奥深くで私は生まれた。


生まれながらにして両手足は鎖につながれ、身動き一つとったことない。生れて始めた出会った(私を創った)悪魔はこう言った。『お前はこの国の最終兵器だ。来たる戦争であの残虐な(人類)を滅ぼしてくれ』と。それだけのために作られたと聞かされた。特段何も感じなかった。



それから、長い月日が流れた。


どれだけの時間が経ったかはわからないが、とても長い時間が流れた。


結局そんな戦争は起こっていないらしい。私は何もわからぬままただ洞窟の奥底で無の時間を過ごした。昔は定期的に様子を見に来たあの悪魔はもう来ない。これだけの時間が経てばいくら長寿の悪魔であろうとも死ぬだろう。


そして、誰もが私を知らず、誰もが私を知らない。そんな世の中になって。



未だ洞窟の奥深くに封印されている私の元に一匹の小さな悪魔が迷い込んできた。




「……ここはどこ?あなたはだれ?」

「A"ogg……VRuaa"a"a"……」

「言葉、わかる?」

「Go"aaa、y"ha"auuu」



小さな体、欠けた角。私の知らない言語を話したその少年は、無邪気に笑った。



「じゃあ、今日はしりとりをしよっか」







「子供は家から出るなって言われちゃった。最近戦争が始まったんだって」

「デモ…キミ…ココ…イル」

「みんなにはないしょだよ?」



あれからまた幾ばくかの時間が過ぎた。あの少年は定期的に私のいいる洞窟に姿を見せ、毎回少しの言葉遊びをして帰った。おかげで私は少しずつこの言語を習得しつつあった。


「……センソウ」

「そう。戦争。わかる?」

「シッテル。センソウ」


知ってる言葉だった。ずっと昔に聞いた言葉。


「何で戦争なんてすると思う?」

「シラ、ナイ」

「だよねぇ……あっ!時間ヤバ!そんな訳で僕もう帰んなきゃいけないんだ!じゃあね!」


その日は、それだけ話して君は帰っていった。





それ以来、君がここにいる時間が日に日に短くなっていった。どうやら、人類の“勇者”なる生物兵器が悪魔を惨殺して回っているらしく、より魔界にも緊張感が走っているそうだ。君がここに来る頻度もどんどん少なくなった。もうすぐこの近くの村まで人類が攻めてくるそうだ。



「……だから、僕も逃げなきゃいけないんだって」

「逃ゲて。命、だいジ」

「うん。僕も死にたくない……あと、あなたにも死んでほしくない」


君は懐から何か鈍器の様な物を取り出した。そして、私のの体をこの洞窟につなぎとめている鎖に打ち付け始めた。


「あなたも、逃げて」

「……なんデ?」

「危ないからだよ」

「死なナい、ワたし」

「嘘。この戦争では、みんな死ぬ」


カーン……カーン……


誰もいない洞窟内にただ鎖を壊そうとする音だけが木霊する。何百年も放置されて劣化した鎖は思ったよりも簡単に砕け始めた。


「どこでもいいから、逃げて、生き延びて、また、ここで遊ぼうよ」

「ニゲる。ドこニ?」

「どこでもいいよ。戦争が終わったら、またここに帰ってこよう」


右手首と壁をつなぐ鎖が砕け、左手首と壁をつなぐ鎖が千切れ、そして、ついに両足をつないだ鎖は叩き潰された。体が完全に開放され、君の方へと倒れこむ。君はそれを受け止めた。



「ほら、これで君は自由だから。どこへでも行けるから」



そう言った君は、声が、体が、震えていた。私はそれを知らないが、その感情に恐怖という名前がついていることは知っている。



「怖イの?」

「……怖いよ」

「ナニが?」

「戦争」

「ナンで?」



「死ぬから。…………だっておかしいもん!僕たち魔族を皆殺しにする人類が怖い!殺されるのに僕らを戦いに行かせる魔人様たちが怖い!喜んで戦いに行く大人の魔族たちも怖い!なんでみんな逃げずに殺しあうのさ!!」



その悲痛な叫びが洞窟内を駆け抜ける。ずっと反響して、何度も私に語りかけてくる。


「ミンナ、が、怖イ?」

「みんながこわい」

「わかっタ」



私は知っている。私が戦争をオワらせるために生まれてきたことを。


私は知っている。私が(ミンナ)を滅ぼす力を持っていることを。


私は知っている。私にはできることがあることを。











殺した。



名前も知らない人間が死んだ。何も感じなかった。興味がなかったからだ。


名前も知らない魔族が死んだ。何も感じなかった。興味がなかったからだ。


“ユウシャ”とやらが死んだ。“マジンサマ”とやらが死んだ。何も感じなかった。


死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。殺した。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。殺した。死んだ。殺した。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。殺した。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。殺した。殺した。死んだ。死んだ。殺した。殺した。殺した。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。殺した。死んだ。死んだ。殺した。殺した。死んだ。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。殺した。



ミンナが死んだ。



何も感じなかった。











一人暗い道を歩く。


暗い暗い奈落のそのさらに下、そんな洞窟の奥深くへとただひたすらに歩いていた。


戦争は終わった。戦争をする“ミンナ”が居なくなったからだ。


だからもう、怖くない。


だからもう、逃げなくていい。


壊れた鎖の代わりに新しい鎖を生み出して、私は再びその壁に磔になる。





「じゃあ、今日は、しりとりをしよう」





私の声は誰に届くでもなくただ洞窟の中に響き渡った。








もう、誰も来ない。









もう、誰もいない。


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