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12月24日は終業式だった。
プレゼントに選んだのは、ショッピングモールの一角で売っていたネックレス。銀色の細いチェーンにピンク色の小さなハートをひとつあしらったもので、正直大人っぽい感じはしない。
初めて人のためを思って買い物をしたけど、まるで隣で彼女に見られているような気がしてとても緊張した。
ホームルームが終わり生徒が解散する。スクールバッグに入った小さな紙袋を確認して、光梨と合流する。時刻はお昼前、ホワイトクリスマスとは無縁の雲一つない青空だった。心地よい冷気がプレゼントを渡す緊張と今日でしばらく光梨に会えなくなる寂しさを和らげてくれた。
「冬休みだね」
「だね」
「……」
「どうかした彩瀬?」
だけどやっぱり緊張してそわそわしてしまう。それを光梨は見逃さない。私のことを見てくれていることが少し嬉しくて、そわそわからもじもじに変わる。
出会った頃は話すことがなくて、二人でいるのに二人とも黙ったままなんてことが珍しくない、というかそれが普通だった。特別仲良くなろうと思わなかったし、光梨だって私なんか居なくても生きていける。
「光梨、少し時間ある?」
「夕方までなら、あるよ」
「寄り道していかない?」
「不良さんだ」
くすくすと笑いながらも光梨は私についてきた。いつもは通り過ぎていた小さな公園のベンチに腰を下ろす。
「……」
「……」
かつては心地よかった沈黙が、今は焦燥を駆り立てる要素になった。だけどその焦りに孤独は感じなかった。
一人でやったプレゼントを渡す練習の成果を出す時だ。
「クリスマスと言えば、何でしょう?」
「えー……思いつかないや」
その回答パターンは頭になかった。「他には?」で誘導して、「プレゼント」の単語が出たら「ジャーン」って言って渡す手筈だったのに。
混乱して、もう手が勝手にバッグのファスナーを開けていた。
「……」
「……」
「じゃ、じゃーん。光梨にプレゼント」
「……」
光梨は目を丸くして固まった。何秒か経って光梨の視線が私が手に持っている小包から外れて、私と目が合う。
「私に?」
「やっぱり変かな」
「プレゼントなんか初めてもらったから、びっくりして」
「もらったことないの?」
「ないよ。でもどうして彩瀬が私に?」
それは
「それは、私が光梨を大切に思っているからだよ」
照れくささは感じなかった。
自分でもびっくりするぐらいスムーズに包装紙を解いてネックレスを取り出す。
「つける?」
「……っうん」
光梨は泣いていた。人を泣かせたことなんか今までなかったけど、これでよかったと思う。