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引き続き、中学時代の彩瀬あやせ視点です。


 授業が終わる頃にはもう夕日が差しかかっていて、夜の訪れを予感させる強い北風がビューっと音を鳴らして吹き抜ける。帰り道の途中までが、光梨ひかりと学校の外で話せる唯一の場所だった。


 季節は秋を越え、冬になっていた。


「今日も冷えるね」

「ねー」

「この冬一番の寒さだって」

「そうなんだ」


 光梨との会話を少しでも弾ませるために、天気予報は毎日チェックしている。おかげで家に傘を忘れるということは一度もない。


 朝のニュースで見る午前と午後の降水確率が、私にとっての一日の占いだった。ラッキーアイテムは常に折り畳み傘。朝は晴れて夕方に雨が降れば、光と相合傘をして下校できるかもしれないと淡い期待を抱いていた。……だけど9月から12月の半ばの今に至るまでその願いが叶うことはなかった。恋愛のドラマやマンガは都合がよすぎると思う。


「あー寒い寒い」

「彩瀬は寒がりさん?」

「そうだよ。光梨、温めてよ」


 肩をブルブルと大げさに揺らし、ガタガタと手首を震わせながら光梨の方へ両手を伸ばす。


「はいはい」


 こすこすと光が私の手を揉んでくれる。このまま今すぐ彼女を抱きしめたいと思った。だけど今より仲良くなったら光梨のお姉さんに殺されるらしい。殺されないにしても今の関係が崩れて光梨が友達じゃなくなってしまうことが嫌で、相変わらず一歩が踏み出せない。


 私の恋愛対象は男の子ではなく女の子なのかもしれない。光梨との距離をどこまで縮めたいかシミュレートしたら、けっこうな所までいった。


「このまま手を繋いで帰っ」

「はい、温かくなった?」

「あ……」


 光梨の手が離れていく。背の低い光梨が私の表情を確認するときは、のぞき込むように上目遣いをする。宝石のようにきれいな眼と長いまつげ。髪の毛は肩にかかるぐらいまで伸びて、前よりも女の子らしくなった。


 反応のない私に対して、光梨は不思議そうに首を傾げた。


「あっ……たかくなったよ、ありがとう」

「どういたしまして」


 光梨の優しさは一体この何倍、いや何百倍「のんちゃん」に盗られているんだろう。

 光梨からのんちゃんの話をしてきたことは一度もなかった。私からも探りを入れることはあったもけど、光梨の前に屈した。のんちゃんの話を仕掛けると、光梨は無言になる。一度だけ、「別の話をしよっか」と気まずそうな笑みと共に拒絶された。


 もうすぐ2学期が終わり、年が明ける。高校からは光梨の学校生活はのんちゃんで一杯になって私の居場所はなくなるだろう。タイムリミットが刻一刻と近づいてくる。そんな中で、一つのアイデアが浮かんだ。思いついた瞬間、確かに私の頭の上で電球が光った。案外ドラマやマンガの描写はリアルなんだなと思った。


「そうだ、光梨にクリスマスプレゼントを渡そう。のんちゃんには……交換会で貰ったってことで光梨から伝えてもらおう」


 光梨に私の気持ちを伝えるだけ伝えたいと思った。

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