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のんちゃんは病んでいて、ひーちゃんは壊れてる。  作者: れも
5章 死がふたりを分かつまで
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-46-


「私はひーちゃんだもん。ずっとのんちゃんのそばにいるって、前に言ったでしょ」


 のんちゃんの隣に私も寝そべって、力なく伏せられた彼女の右手の甲に私の左手を重ねた。


「もう寝よっか。おやすみのんちゃん」


 のんちゃんからの返事はなかった。

 抑えつけるように手に力を入れて、彼女の指に絡める。離れ離れにならないように私の爪を畳に食い込ませその手を縛り付けた。




 眠りについたのがいつもより早い時間で体内時計がズレたこと。空腹、そして暑さで目が覚めた。

大量に出た汗によってブラウスやスカートが肌にへばりついて気持ちが悪い。熱中症になりかけていたのか頭がガンガンと悲鳴を上げる。

 のんちゃんと絡めた手はそのままだった。私が離れてもそのまま動かないようにと、わざと爪に力を入れて彼女の指の間を擦りつけながら手を解いて立ち上がった。


 制服を脱ぎ散らかして浴室に入る。ひんやりと冷えた床と全開にした水のシャワーが気持ちいい。

 体を拭くのが煩わしくて、脱衣所兼キッチンのフローリングが水浸しになるのも気にせず、浴室から出た姿のまま冷蔵庫から水を取り出して喉に流し込む。


 余分な熱が抜けて頭痛も収まるのを待ってから、ショーツとキャミソールだけ身に着けてリビングの和室に戻る。

 熱帯夜の空気が肌にまとわりつく。窓を開けて換気をしてもげんなりとした気持ちになるのには変わりがなかった。


 とりあえず扇風機を回して再びのんちゃんの隣に寝そべる。

 私が離れている間にのんちゃんは猫のように体を丸めていた。

 本能的に拒絶された気がして胸がざわついた。


「のんちゃん、起きてる?」


 昨日とは立場が逆だった。目の前ののんちゃんが立てている寝息ももしかしたら演技なのではないかと疑ってしまう。

 もう一度、今度は彼女にまたがって、その小さな耳に私の声を注ぎ込むようにささやく。


「希?」


 のんちゃんが私にキスをした気持ちがわかった。相手が寝ていると自分が拒絶されることはないから、何をしても構わないと錯覚する。

 気を迷わせた末、わざわざひーちゃんに成り切らず自分の欲望を彼女にぶつけようと決めた。昨日の仕返しだという大義名分を掲げて。


 一旦その場を離れ、水を少量口に含んで暗闇を往復した。

 もう一度四つん這いになって、決して彼女には触れないよう慎重に覆いかぶさる。


 見慣れたはずの可憐な寝顔。いつもと違う感情を抱くのは、泣いた後で目の周りが赤いのと少し汗ばんでいるという外的要因によるものではない。

 緊張で胸の鼓動が加速する。

 口内の水が零れ落ちないよう力を込めた唇がにわかに震える。

 右手で彼女の髪をかき分ける。

 首を傾けて角度を調節する。


 姉妹ごっこではない、正真正銘の白木院希は、今だけは自分のものだった。

 数秒後の自分をイメージする。唇を重ねて、舌でこじ開けて、息を吐いて、注ぎ込む。


「………………っ」


 やろうとしたこと、やろうとしたことができなかったことに対する罪悪感が二重でのしかかる。

 王子やラナや希ほどの勇気は私にはなかった。


 身を引いて、横に転がり込むとスーッと胸が落ち着いていった。

 ごくりと飲み込んだ液体は自分の唾液が大量に混じっていて不味かった。


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