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白木院さんの息が荒い。私の両肩を掴む力が強くなっていく。やせ細った彼女のどこにそんな力があるのかと驚くほど。ずっと畳に正座していたけど、上から抑えつけられるせいで改めて脛から畳の感触が伝わってくる。
「ひーちゃんは私の1つ下の可愛い妹。私と違って真面目で素直。しっかり者で面倒見がよかった」
「……」
瞳孔が開きハイライトが消えていく。私を見ているけど私のことは見なくなった。
「物心つく前から私はひーちゃんが好き。ずっと一緒にいて、これからも一緒にいる。高校受験合格おめでとう。やっと同じ高校に通えるね。この1年ずっと寂しかったんだ。家では一緒だけど、やっぱり学校でも一緒にいたいじゃない。中学の時は二人でお弁当を食べてたから高校でもそうしようね。そういえばひーちゃんは中学3年生でやっと友達ができたって教えてくれたっけ。その子はどんな子?ひーちゃんはその子といて楽しい?高校は一緒なの?違ってたらいいな」
その「ひーちゃん」は今どこにいるのだろう。生き別れたのか、もう「ひーちゃん」はこの世にいないのか。いずれにせよ、今白木院さんのそばに「ひーちゃん」はいないに違いない。
どうやら白木院さんは、私に「ひーちゃん」の代わりをやってほしいみたいだ。詳しいことは後で聞こう。それにしても羨ましいぐらい愛されてるなぁ「ひーちゃん」
「ひーちゃんは可愛いね。笑顔も泣き顔も。怒った顔も好き。全部、大好き。ひーちゃんも私のこと大好きだよね」
えーっと。妹の振りはもう始めていいのかな。あまりの勢いに圧倒され、白木院さんの世界に引き込まれる。
「う、うん。大好きだよお姉ちゃん」
バチン!
静かだった部屋に乾いた音が響く。私の視界から白木院さんが消えて、夕日に照らされオレンジ色に染まった障子が目に入る。少し耳鳴りがしてから顔が熱くなってきた。自分の言葉に恥ずかしくなって熱くなったのではない。痛みが伴っている。
白木院さんに頬をビンタされたと理解するのには随分と時間がかかった。
「お姉ちゃんじゃない。『のんちゃん』」