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藤原瞳…高校1年生。「ひーちゃん」として希と暮らすことになった。
白木院希…のんちゃん。高校2年生。妹依存症の気質がある。
白木院光梨…ひーちゃん。希の妹。先日事故で亡くなった。
深森彩瀬…瞳の友達で、中学時代は光梨の友達。恋愛対象は女の子。
新章です。これからもよろしくお願い致します。
たどり着いたのは、ワンフロアに4戸ずつで2階建てのよくある木造の古いアパート。夜になる直前の紫色の空が、アパートのおどろおどろしさと私にとっての非日常感をより高めていた。
前を行くのんちゃんは、住んでいるから当たり前だけど、なんてことなく錆かけの階段を上っていく。一段上るごとにコツンと音が鳴り、足元がわずかに軋む。思わず掴んだ手すりは、錆のせいでチクチクしたし、手を離すと茶色い粉が付着した。そして階段よりは安定感のある廊下を突き当りまで進む。
「ここがお家。今日からまた二人暮らしだね」
簡素な玄関扉を開きながらのんちゃんが私の方を向いて笑みを浮かべた。手を振るジェスチャーで私に先に入るよう促す。
「おじゃまし……ただいま!」
家族だから家族の挨拶をしなきゃいけない。恐る恐る振り返ると、のんちゃんは満足そうに頷いていた。
間取りは1Kで、奥の部屋は和室だった。キッチンには小型の冷蔵庫とその上に電子レンジ。シンクとコンロはまるで使われた形跡がなく、年季の入ったオブジェと化していた。
ガチャ、ガチャ……ガチャッ。……鍵を閉める音が3回聞こえた。振り向くと、のんちゃんは扉の鍵とチェーンに加えて、内側からも鍵をかけるタイプの後付けのドアロックを施錠していた。のんちゃんは2つの鍵を玄関のそばに置いてある小箱に入れた。その小箱には番号で解除する南京錠が仕掛けられていた。これで私は、のんちゃんなしでは外に出られない。
「ただいま~、ひ~ちゃん!」
なるほどセキュリティばっちりだなと感心して突っ立っている私に、のんちゃんが全身でハグをしてきた。勢いよくやってきたから、おっとっとと私ものんちゃんも声を出して畳の部屋まで抱き着きながら移動する。言葉がシンクロして嬉しい。
ボスンと押し倒され、私の上にのんちゃんがうつ伏せで寝転がる。後ろ向きだったから気づかなかったけど、あと何センチか場所がずれていると、部屋の真ん中に置かれた白いローテーブルに激突していた。後頭部に寒気が走る。
「のんちゃん?」
声をかけても返事がない。程なくして静かな呼吸音と共にのんちゃんの体は膨らんだり萎んだりしていた。今日も疲れて寝てしまったらしい。私も寝るのは好きな方だけど、今日はお花見部で昼寝を済ましてしまったから眼が冴えている。
行き場がないし居心地もいいから、しばらくそのままでいることにした。
傷んだ髪が少しでも癒えますようにと頭を撫でた後、今度は私の鼻を彼女の首に押し当てて上下させてみた。
冬服を着こんでいるせいか、ブラウスの襟から下は少し汗ばんで蒸れている。これからこの香りに包まれて生活することになったら幸せだなと思える、甘い甘い香りだった。




