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「藤原さん、次あなたに会ったら、私はどうにかなってしまいそうで、それで部活は行かないで……ごめんなさい」
多分、私のことを「藤原さん」と呼ぶとき彼女は取り繕っていて、無理をしている。自分を無理やり社会に適応させようとすると、色々考えて、常識人の枠に近づける。だけどどこかでズレてしまう。首を絞めたことじゃなくて部活に行っていないことを謝ってくる所がズレている。
白木院さんが私に暴力を振るったのはこれで2回目。そして2回とも……気持ちがよかった。ズレてるなあ。
「だから私、言ったじゃないですか」
「へ?」
「私が白木院さんの妹に、のんちゃんのひーちゃんになるって」
「信じていいの?」
たしかひーちゃんの口癖は……
「のんちゃんは忘れんぼさんなんだから」
そういえばのんちゃんは私より背が低い。ひーちゃんはのんちゃんより背が高かったのだろうか。もし低かったら、ちょっと面倒だ。
固まったのんちゃんの目が真っ黒になっていく。瞳の光彩が消えていく。
「うわぁぁぁぁぁぁぁああああっっ!!!」
ひーちゃんになった私はのんちゃんからたくさんの愛を貰える。今だってのんちゃんは泣きじゃくりながら抱き着いてきて、顔を私の首に擦りつけている。少し鼻水がついたのか、粘っこい水気が皮膚を通して伝わってきた。
「うみゃあ!」
一回離れて、今度は笑顔になって、肩にもたれ掛かってくる。人気がない場所でよかった。まるで幼児のような甘え方をされると流石に恥ずかしい。
「えへへ。よろしくね、ひーちゃん」
「こちらこそ。ねえのんちゃん、これからどうしよっか」
二人で手を繋いで、夜の街を歩きだした。駅とは逆方向でやがて住宅街に差し掛かる。私たちの家はこの辺りみたいだ。
「ずっと会えなくて寂しかったから、その分一緒に居ようね、ひーちゃん」
「うん」
バチッ!
普通に答えたら、繋いでいない方の手で私の頬っぺたがぶたれた。
「ひーちゃんだったらもっと喜んで」
「……うん!一緒にいようね、のんちゃん」
「ね!」
ルンルンとのんちゃんはスキップを始めた。置いて行かれないように、手は離さず、ぎこちない早歩きでのんちゃんについて行った。
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