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年が明けて3学期になった。
光梨は私と下校するときは、門を出てからわざわざネックレスをバッグ取り出して、それを私がつけて歩いていく。
限られた時間じゃ喋り切れないぐらい、たくさん会話をした。
少しずつ光梨とその家族について知った。
生まれた時から父親がいなかったこと。
母親から暴力を受けたこと。
姉の「のんちゃん」が守ってくれたこと。
ある事件があって、里親に引き取られたこと。
今はのんちゃんと二人暮らしだということ。
推測できたのは、のんちゃんはひーちゃんが大好きで、ひーちゃんものんちゃんが好きなんだろうなってこと。
―――
2月14日。
その日、光梨はネックレスを持ってこなかった。クリスマスの時と同じ公園で私がバレンタインの手作りチョコを渡したとき、彼女はこう言った。
「ねえ彩瀬、ほしいものある?してほしいことでもいいけど」
光の経済状況だとたいそうな物は頼めないと思った。
「そうだねえ、光梨がほしいかな」
おどけて言ってみると、隣に座っていた光梨は立ち上がり、ベンチに座る私に覆いかぶさった。
「っ……」
「…………」
光梨の唇が私の唇に触れる。キスをされたと理解したときには光梨は立ち上がって、私を見下ろしていた。いたずらをしたみたいに笑っていた。
「じゃあね、彩瀬」
その日、光梨が電車に轢かれて亡くなったことを、次の日の学校で知った。
本を読みながら歩いていたから、電車の接近に気づかず踏切に侵入し事故になった……ということらしい。
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光梨との思い出はそれでおしまい。
私だけ高校生になり、瞳という新しい友達ができた。
一人で抱え込むのが辛かったのかもしれない。私が光梨を好きだったことだけ暈して、瞳に光梨のことを教えた。
光梨がこの世に存在したことを一人でも多くの人に知ってほしかった。
「だけど、なんで瞳は光梨のことを知りたかったの」
「それは……」
瞳は「ふぅ」と一息ついて答えた。
「さっき学校で言ってたお花見部の先輩が白木院希さん、のんちゃんだから」
「そう、なんだ」
「先に言えばよかった。ごめん」
本当にいたんだ、白木院希。それも私の手の届きそうな場所に。
「いいよ。そろそろ帰ろっか」
学生で賑わっていたファストフード店は、日が暮れるのと共に閑散となっていく。
明日、瞳に頼んでお花見部に連れて行ってもらおう。私と光梨の関係は秘密にして。




