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「高校生活でやりたいことが何もないの?」
そう問いかける上級生は、顔も整っていれば声も透き通って綺麗だなと思った。
「はい、部活動が強制だなんて知らなくて。どこでもいいからとりあえず入らないとって思って」
顔と声に惚れて、思わず本音が出てしまった。少しでも興味があるように言わないと、この前みたいに追い出されてしまう。だけど「お花見部」って何をするんだろう。部室は一応畳張りの和室だけど、お茶の道具や生け花は見当たらないし、そもそも人もいなくて私たちは二人きりだ。
「へえ、変わってるね」
家庭科部に見学に行ったときは「教室から家庭科室が一番近くて通うのが楽なので」と動機を語ったら「茶化さないで」と怒られた。他の部に見学に行ったときも大抵そんな感じ。
入学してもうすぐ2か月。親しい友達もいなければやりたいこともない。何もしないことが私のしたいことなのかもしれない。
白木院希と名乗ったお花見部の部長は、顎に手を当てて何かじっくり考えこんでいる。
改めて白木院さんを見ると清楚な顔立ちと長い黒髪が、病的なまでに細くて白い肌と合わさり、浮世離れした雰囲気をかもし出している。制服は着崩してニーハイソックスにひざ上スカート。なのに「ギャルな感じ」は全くしなくて、むしろアンバランスなように感じる。
ぽけーっと感心していると、白木院さんは大きく深呼吸をして両手で頭を掻きむしった。軽く咳払い。そして口を開く。
「藤原瞳さん、私の妹になってほしい。少しの間でいいから」