第九話 桃太郎・・・育ての親
「ヤアーッ!!」
桃太郎は育ての父、翔太朗に木刀を振りかざした。
が、まだ剣の腕は父親には太刀打ちできなかった。桃太郎10歳の春だった。
「はあっ・・・はあっ・・・」桃太郎は激しく息を切らせていた。
「なんだ!情けない!!さあもう一度だ!桃太郎!!」
「ヤアーッ!!」再び桃太郎は翔太朗に向かって木刀を振った。
翔太朗はその木刀を受け、突き飛ばして桃太郎は尻もちをついた。
「まだまだそんなんじゃダメだ!桃太郎!!そんな事じゃ強くはなれん!!」
「もう嫌だ!!」桃太郎は木刀を投げ捨てた。
「何!!」翔太朗は怒鳴った。
「僕もういいよ!強くなんてならなくても!」桃太郎は翔太朗に言い返した。
「強くならなくても・・・?いいのか・・・」
翔太朗は桃太郎の傍により、片膝をついて言った。
「いいよぉ」
「なんで?」
「なんでって・・・」
「お前・・・女にモテたくないのか?」
「え・・・」
「モテモテだぞ・・・強いと・・・」
「本当に?」
「ああ・・・本当だ」
「父ちゃんはモテたの?」
「当り前だろ」
「で・・・結局母ちゃん?」
「え・・・あ、ああ・・・」
「ちょっと!!今なんか悪口言ったのかい?」
近くで洗濯ものを干していた桃太郎の育ての母キミエが突然声を張り上げた。
「え・・・?あ・・・いや・・・なんでもない」翔太朗がキミエに答えた。
「で・・・かあちゃんなんだ・・・」桃太郎は再び翔太朗に聞いた。
「そうだ。悪いか」
「・・・・・」桃太郎はキミエをじっと見た。
「ん・・・?」翔太朗はキミエをじっと見る桃太郎の様子を見ていた。
「・・・やっぱいいよ!!強くなんてなんなくったって!!無理無理!!」
「何だと!!こいつ!!お前のその腐った根性を叩きなおしてやる!!」
そう言って翔太朗は桃太郎を木刀で殴った。
「痛いよ!!父ちゃん!!やめて!!」
「このやろー!!」
「痛い!!痛い!!」
「あんた!やめてよ!!」キミエが桃太郎の前に飛び出した。
「どけ!」
「どかないよ!!いい加減にしな!」
桃太郎はその隙に何処かへ逃げて行った。
夜―――
「あんた・・・ちょっと桃太郎に厳しくし過ぎじゃないの?」キミエは言った。
「ああ。でもな・・・俺たちはあいつを本当の親に断りもなく勝手に育ててるんだ
立派な男に育てなきゃ申し訳ないだろ。」
「そうだけど・・・」
しばらくして桃太郎が帰って来た。
「ただいま・・・父ちゃん・・・母ちゃん・・・」
「桃太郎・・・さあこっちに来てご飯食べな。」キミエは桃太郎のそばへ寄り頭をなでた。