第五話 流れた桃と親子の血
「あともう少しだ・・・」
小太郎は鬼に気づかれないようにそっと桃の方へ行き引っかかている取っ手部分を、
その身を草の中に隠しながら桃から外そうとした。
「お?何だあのデカい桃は・・・うまそうだな・・・ん・・・」
鬼は川に落ちた枝のそばでゆらゆらと動く桃を見つけた。
「あ・・・やばいっ」
小太郎は地面に身を伏せた。
鬼は草の間から見え隠れする小太郎の姿を見つけてにやけた。
「その桃は俺様が見つけたんだ。あんな小坊主に横取りされてたまるかよ。」
そう言って赤鬼は桃と小太郎の方へと歩いてきた。
あ・・・小太郎・・・
キヨは手元にあった石を赤鬼に向かって投げつけた。
バシッ!!
「痛てっ!誰だ!!」頭に石をぶつけられた赤鬼はそれが飛んできた方向を向いた。
その時、小太郎は桃の取っ手を外し大きな桃はその川を流れて行った。
「こっちだよ!」キヨは叫んだ。
赤鬼はキヨを見つけてその傍まで歩いてきた。
そして持っていた剣を振りかざした。
ギャーーーーーーーーー!!!
キヨの叫び声がその場に響き渡った。
赤鬼の剣はキヨの身体をつらぬいていた。
「ヤメローーーーーー!人殺し!!!!」
小太郎は赤鬼に向かって叫んだ。
赤鬼は剣を持ったまま小太郎の方へやって来た。
小太郎は一目散に逃げた。
「待てー!!クソ坊主!」
赤鬼は走る小太郎を追いかけた。
「助けて!父ちゃん!!」
追い詰められた小太郎は鬼とキヨの血の付いた剣を目の前に腰をぬかしてしまった。
鬼は再び小太郎にもその剣を振りかざした。
そして――――――
キヨを刺したその剣は小太郎の身体さえも斬り割いた。
「くそう・・・せっかくデカい桃・・・見つけたのに・・・流れていきやがった・・・」
赤鬼は二人の遺体をその場に置き去りにしたまま立ち去った。