第三話 やばいっ!逃げるよっ!!
「おぎゃーおぎゃー」
「あーまだかねーうちの亭主は・・・」
キヨは延々と泣き続ける赤ん坊を抱えあやしていた。
「母ちゃん・・・お腹空いた・・・」昼寝をしていた8歳の小太郎が起きて来て
言った。
「そうだよねえ。お腹空いたねえ。」
「母ちゃん・・・正太郎・・・ずっと泣いてるよ。」
「今、父ちゃんが食べ物探しに行ってるからもう少し我慢しておくれね、小太郎。」
「うん。わかった・・・」
小太郎はふと部屋の隅を見た。
「うわーすげーここに大きな桃があるよ!」
そう言って小太郎はその桃の器を手に取った。
「いただきまあす!」小太郎は大きな口をあけてかぶりついた。
「痛てっ!!」
「小太郎・・・」
「何これっ・・・」
「桃だよ」
「硬っ!!」
「器だよ」
「歯が折れた」
「折れちまったかい・・・」
「痛いよ」
「あーまいったね」
「ほら!見てよ!これ!」小太郎は落とした歯を拾ってキヨに見せた。
「なんだい!やけに黒いねこの歯・・・」キヨは折れた歯を見て言った。
「ほんとだ」
「ちょうどよかったね」
「なんで」
「虫歯だ」
「そうなの?」
「ああ、父ちゃんに感謝しな」
「何なんだよ!母ちゃんこの桃は!」小太郎は頬をおさえた。
「本当にばかだね!あんたって子は・・・それは父ちゃんが作った桃の形をした器だよ!
食べられるわけがないじゃないか。」
「なあんだ・・・あー腹減ったなー。」
「悪いねえ・・・昨日鬼達が来て家にある食料をありったけ全部持って行っち
まったんだよ。どうしたらいいんだろうねー。遅いねー父ちゃん。」
その時だった。
突然村が騒がしくなった。
「うわー!!来たぞ!!鬼が来た!!みんな逃げろ!!」村の誰かが叫んだ。
「母ちゃん!鬼がまた来たって!!逃げなきゃ!!」
「ああ。小太郎!母ちゃんにしっかりついといでよ!!」
「うん!」
「あーでもこの子をどうしようかね・・・このまま抱えてうまく逃げられるかね・・・」
そのとき小太郎と母親は父親が作った桃を見た。
「そうだ!母ちゃんあの桃!あの中に正太郎を入れて逃げよう!
ちゃんと取っ手だってついてるよ!その方が絶対走りやすいよ!」
「そうだね!よし!あんたの言うとおりにしよう!」