第二話 桃の形の・・・
一方――――――――
ここは民の住む家・・・
「おぎゃー!!おぎゃー!!」
「よしよし。お腹空いたねえ・・・こう食べるものも無いとお乳もでないよ。
ちょっとあんた!なんとかしておくれよ!」
赤ん坊をあやしながら女が言った。
「ああ!だから今これを作ってるだろ!」
「なんだいそれは?」
「これはな・・・」
得意気に亭主は言った。
「桃型献上桃入れだ!」
「は・・・・・・・?」
「よし!出来たぞ!」
亭主は直径60センチ程ある丸い大きな桃の形をしたピンク色の漆の器を作っていた。
「そんなもの作ってどうするんだい?」
「そりゃあこの中に沢山桃を入れてお殿様に献上すればきっと喜んで下さる。
俺たちを苦しめている鬼と呼ばれる山賊たちも何とかしてくれるに違いないだろう。」
「そうかね?今はそんなことよりも食べ物を何処かで調達してくる方が先だろ?!
違うかい?!赤ん坊が泣いてるんだ。」
「やっと今、出来上がったんだぞ!少しくらい休ませろよ!キヨ!」
「何言ってんだい!この子が飢え死にしてもいいって言うのかい?!赤ん坊は
待ってはくれないんだよ!さっさと行け!!」
そう言って赤ん坊を抱えた女は亭主を蹴った。
ポカッ!!
「痛ってーな!!何も蹴る事ねえだろ」
「そんな金にもなんない事して!馬鹿だろ!!」
「亭主に向かって馬鹿とはなんだ!馬鹿とは!」
「じゃあ阿保だ?」
「なんだよ!もっと亭主を敬えっての!」
「敬ってほしけりゃ早く行け!!」
「えー!?やだよ」
「なんだってー?!」
「いやだめんどくさい」
「あっそ・・・わかったよ」
「お、わかってくれるのか?流石、キ・・・ヨ」
亭主が見るとキヨは漆塗り職人の亭主の仕事道具を手に取っていた
「キ・・・ヨ・・・」
「もう・・・この道具の命はない・・・」
「お・・・落ち着け・・・キヨ・・・道具を・・・置け・・・」
「道具を置け?」
「あ・・・そ・・・そうだ」
「それは命令か?」
「あ・・・い・・・いや」
「ん?なんだい」
「そ・・・その・・・」
「ん?何?!」
「どうか・・・心を落ち着けて・・・その道具を・・・置いてください・・・
キヨさん・・・」
「私を怒らせるとどうなるか・・・」
「・・・・・・」亭主は唾をのみ込んだ。
「分かってん!!だろうねーーーーーーーーーーーーー!!!」
キヨはその道具を今にも壊してしまいそうな勢いだった。
「分かりましたっ!!行きます!!行きます!!」
亭主は家を飛び出した。
「行けばいいんだろ行けば・・・ちくしょーキヨのやつ・・・
なんでいつもいつもこういう事は俺ばっかなんだよ・・・」
そう言って亭主は食べる物を探しに行った。