第十二話 翔太朗のお気に入り
「お帰りぃ!桃太郎!」家の庭にいたキミエが言った。
「ただいま母ちゃん。」
「あれ?その子は?」
「ああ。道に迷ったんだと。」桃太郎はそう言って家に入った。
「え?そうなの?」キミエは女に聞いた。
「あ・・・はい・・・」
「そう。どこから来たんだい?上流の方の村から?それとも、
山のふもとの町からかい?」
「あ・・・町のほうからです。」
「あーじゃあもう今からそこに帰るのは日が暮れちまうね。
今日はここに泊まった方がいいね。」
「いいん・・・です・・・か?」
「ああ、きれいなお嬢さんは大歓迎だよ!さあお入り!」
「はい!ありがとうございます!!」
「なんだよ母ちゃん家に入れんのかよ!」桃太郎はキミエに言った。
「何言ってんだい!人でなし!そんな子に育てた覚えは無いよ!!」
キミエは桃太郎の頭を叩いて言った。
「痛ってー!!ちっ!」
「お、きれいなお嬢さんじゃないか桃太郎!どこで捕まえてきたんだ!?」
翔太朗が言った。
「捕まえる?!こいつが勝手についてきたんだよ!」
「お嬢さん!是非是非ゆっくりしていってくれ!」
「あ・・・すみません。」
「で・・・お嬢さんの名前はなんていうんだ?」
「あ・・・ユウと言います。」
「ユウちゃんか可愛い名前だ。で・・・年はいくつだ?」
「あ・・・16です。」
「おおそうか、そうか。」嬉しそうに翔太朗はニコニコした。
「何だい!鼻の下伸ばしちゃってさ」キミエは翔太朗の様子を見ていた。
「え、あ、キミエ・・・いや・・・そんなことは・・・」
「ユウちゃん!今日はきび団子を作ったんだ。食べてみて」キミエがユウに差し出した。
「あ・・・はい・・・いただきます!」
ユウは一口食べてみた。
「あ・・・美味しい・・・」
「ホントに?」
「あ!はい!これ!すごく美味しいです!こんなの生まれて初めて食べました!」
「調子のいいやつだな。」桃太郎はユウに言った。
「何よ!本当に美味しいから美味しいって言ったんじゃない!」
「なんだお前たちは今日初めて出会ったんじゃないのか?えらく仲が悪いな」
翔太朗は桃太郎とユウを見て言った。
「ああ。最悪の出会いだ!明日になったらさっさと帰れ!」桃太郎は怒鳴った。
「言われなくてもそうしますから!!」ユウが答えた。
「何いってんだい桃太郎!この子は道に迷ったんだろ?
お前が町まで送っていくんだよ!」キミエが言った。
「え?何で!嫌だよ!」
「バカ言うんじゃないよ!父ちゃんは足をケガしてるんだよ!あんたが送って行かないで
誰が行くって言うのさ!」キミエは再び桃太郎の頭を叩いた。
「一人で帰らせればいいだろ!」
「あーもう何言ってんだろうね!この子は!ユウちゃんごめんね!まったくどうしようも
無い子だよ!明日ちゃんとユウちゃんを家まで送って行くこと!
でなきゃ当分晩飯抜きだからね!」
「えーまじかよ!母ちゃん!!」




