第一話 好物は桃・・・
ここはある城の城内…
何やら言い合いをする大きな声が響きわたっていた。
「知らぬ!!」
「そんな事言わないでくださいよ!
お殿様!」
「そう言われても私にどうしろと
いうのだ!」
「お殿様しかいないんですぞ!!
鬼が島城の鬼達を
なんとか出来るのは・・・」
殿様はしばらく黙り込んだ
そして腕組みをしながら応えた。
「だがな、じい・・・」
「だが・・・?」
「策がない・・・」
「確かに・・・」
「どうすれば良い?」
「私めに聞かれましても…」
「はあーーーーーーっ」
と、殿様とじいは溜息をついた。
ふすまの向こう側から女性の声が聞こえてきた。
「お殿様・・・」
「何用だ?」
じいが答えた。
「お殿様の大好物の桃が民から届いております」
「おお!そうか!苦しゅうない戸を開けよ!」
殿様が言った。
ふすまが開かれ3人の女中がそれぞれ大きな盆に山盛りの桃を殿様の前に並べた。
「おお!それ見てみよ!じい!民からこの私に桃の贈り物だ!
私はいつも民を大切に思っている!民はようわかっておるのだ!
その証であるではないか!はっはっはっ」
「お殿様・・・」
「よし、それではひとつ・・・頂くとするか・・・」
「お殿様!!」
「うまいな」
「ですから・・・」
「まあじいも食え」
「もう!!」
「うまいぞっ!」
「とのーーーーーーー!!!」
「あーーー分かった分かった!!頼むから耳元で怒鳴らないでくれ」
殿様は耳を塞いで言った。
「お殿様・・・これは民からの日頃の感謝などではござりませぬ。
むしろこれは早く鬼たちを何とかしろと言うお殿様に対する抗議ではありませぬか!
今までどれだけの者が命を落としたとお思いになっておられるのですか!
女達はてごめにされ、家は燃やされ、食べるものも奪われ・・・
民たちももう我慢の限界が来ているに違いないのでございますぞ!」
殿様は食べかけの桃をそっと置いた。
「はあーっ・・・せっかくの桃だと言うのに
・・・食えんではないか・・・じい」殿様は再び深いため息をついて言った。
「そうですな・・・」
「私もつらいのだよ・・・
どうしてよいのか、わからぬ…」