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「ファンタジアケーキ店」  作者: 三久田ウドン
3/4

「ケーキを作ろう」

「ごちそうさまでした!」

黒いローブの青年、ロイロスに助けられたミーレクは、近くの定食屋で牛丼を奢ってもらっていた。

「ホントにいいんですか?」

そう心配げに訊ねるが、ロイロスは「大丈夫ですよ」と人懐っこい笑みを浮かべて返した。

その笑顔に、ミーレクは机にめり込む勢いで平伏した。

「ところで、このチラシのケーキってミーレクさんが作ったんですか?」

「え、えぇ。そうですが…」

頭をあげて頷くと、ロイロスは「やっぱり!」と感心したように目を輝かせた。

そして、急に真剣な面持ちになって

「じ、実はミーレクさんにお願いがあって…」

「お願い…ですか?」

ロイロスは頷くと、胸ポケットからヨレヨレになった紙を取り出した。

そうして机の上に紙を広げる。

そこに描いてあったのは、黒いモジャモジャだった。

なんだこれ…イカスミパスタ?

首を傾げていると、ロイロスが顔を赤くして答えた。

「…猫です。ほら、この青と黄が目の…」

「は、はぁ…」

猫にしてはそこら辺の埃みたいだ。

「実は一昨日に出ていかれちゃって…丘の上の公園で見つけたものの、甘いものを寄越さなければ帰らん!と突っぱねられて…」

カップルかよ!とミーレクは心の中でツッコミを入れる。

「なるほど…それでケーキをってことですね?」

ややため息の混ざった声で聞くと、ロイロスはリンゴのように赤い顔で「はい…」と答えた。

どうしよう… 今日は休みで、下準備した分しか店にない。

しかも、魔物でも食べられるようなケーキなんて…

その時、まるで雷が落ちるようにミーレクの頭にある天啓が降ってきた。

「あっ!」

唐突に立ち上がるミーレクに、店内はシンと静まり返る。

「ど、どうしました?」と戸惑いを隠せずにいるロイロスに訊ねられると、

「私に妙案があります!」

ミーレクは得意げに笑った。


「ケットシーか……彼らは人に化けることができるし、別に人間の食べ物でダメなものとかは無いけど、肥満が心配なら糖質は抑えてあげたほうがいいかもね」

「なるほど」

ロイロスを連れて店に戻ったミーレクは、ルーゼンの話を聞きながらケーキのレシピを練っていた。

「今日は少しあったかいから…あっ、どうせなら、みんなで食べられるものにしましょう!」

皆の喜ぶ顔を想像しながら、頭の中でケーキが出来上がっていく。

それは、ミーレクにとってこの世で最も楽しい時間といっても過言では無い。

「ミーレクさん、楽しそうですね」

ロイロスの言葉でハッと我に返ったミーレクは頬を染めながら、持っていたペンをクルクルといじる。

「お菓子を作ることしか能のない女でして…お恥ずかしい…」

苦笑いで頭をかいているミーレクに、ロイロスはその手をギュッと握りしめて

「そ、そんなことないですよ!お菓子が作れるってことは、それだけ人の笑顔を作れるってことじゃ…あ」

今さら手を握っていたことに気づき、ロイロスはひどく慌てた様子で手を離す。

「す、すすすすみません!つい熱がこもってしまい…」

「い、いいえ」と平常心を保っているように見せかけ、内心では死ぬほどドキドキしているミーレクであった。

そこへ、ルーゼンの威厳のような何かに満ちた咳払いが飛んでくる。

「さて、若人たちよ。早くしなければ日が暮れてしまうぞ?」

「「は、はい!」」

慌てふためきながら準備を再開する二人を見て、ルーゼンおじさんはどこか懐かしげな様子で目を細めていた。



「材料はこれで全部ですかね?」

ロイロスは、調理台の上に並べられた箱やら何やらを指差して確認する。

「ビスケットにクリームチーズに…はい!全部あります」

これから作るのは、レアチーズケーキだ。

まず、ミーレクはビスケットを一つの袋にまとめて入れ、

「まずルーゼンさんは、このビスケットを細かく砕いてください」

とルーゼンの胸に押し付けた。

しかしルーゼンはキョトンとしながら不思議そうに訊ねる。

「え…私も手伝うのか?」

「え?違うんですか?」

逆にそう聞かれ、ルーゼンは渋々ビスケットを砕きはじめた。

「さて、ルーゼンさんが力仕事を引き受けてくれるらしいので」

と、そこでルーゼンの眉毛がピクリと動く。

ミーレクは泡立て器を銀色に輝かせね言い放つ。

「私たちは混ぜましょう!」

ルーゼンがビスケットを玉砕している間、ミーレクとロイロスは生地作りに専念した。

まず、ロイロスの火炎魔法でクリームチーズを熱し、ほどよく柔らかくなったところで砂糖と一緒に練り合わせる。

そこへ溶いたゼラチンを投入し、ロイロスの氷結魔法で少し冷やす。

魔法レンジでバターを温めていると、ルーゼンが肩を回しながら渋い顔でやってくる。

「やっと砕き終わったよ。はぁ、肩が痛い…」

「お疲れ様です、しばらく休んでていいですよ」

ミーレクがそう言うと、ルーゼンは静かにガッツポーズを取ってキッチンの端に座り込んだ。

チン!という音とともに、バターの香りがキッチンに広がり始める。

「いい匂い…」

ミーレクは、小花柄の可愛らしいミトンでバターの入った容器を取り出す。

「あとはこれを、砕いたビスケットと混ぜて…」

文字通りの粉々になったビスケットに溶かしたバターを入れ、よく混ぜる。

ほどよく固まったら、今度はそれをケーキの型に敷き詰めてスプーンでギュッと押す。

「ロイロスさん。それが終わったら、こっちも氷結魔法お願いします」

「了解です!」

ロイロスは笑顔でそう言うと、空いている左手をビスケットに向けて氷結魔法を放った。

すると、すぐさま型の周りに氷の結晶ができた。

「おぉ!」

これには端に座っていたルーゼンも驚嘆の声を上げる。

「す、凄いですね!両手で別々の魔法を使えるなんて」

ミーレクが目を輝かせて拍手すると、ロイロスは照れ臭そうに笑みをこぼした。

「まぁ、これでも冒険者パーティの一員ですから」

そしていよいよ、ケーキ作りは佳境に入った。

ビスケットの敷き詰められた型に、チーズの生地がゆっくりと流れ込む。

全て流し終えたら、ヘラで表面を均し、再び魔法で冷やす。

魔法でケーキ作りを手伝うロイロスは、終始緊張しているような、しかしどこかで、それを楽しんでいるような様子だった。

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