第一話
病気で発作が起きる話
「ハルカ!」
ヒジリが叫ぶ。
「くっ……はぁはぁ、大……丈夫だ……い、つもの……だ」
ハルカが答える。意識はまだあるようで胸を押さえ、悶え苦しんでいた。
飲み物を飲んでいる最中に発作が起きたのだろう。
ガラスのコップの破片が飛び散っており、破片が落ちている床にハルカはうずくまっている。
破片でハルカの足と手が傷ついていた。
ヒジリはすぐにハルカの近くに駆け寄った。
「発作、苦しいね。ここ危ないからソファに運ぶよ」
ハルカの体を持ち上げソファに運ぶ。
ガラスの破片がハルカの身体に刺さっていないか注意深く観察する。
その間もハルカはずっと苦しんでおり体を硬直させている。
身体に食い込んだガラスの破片はなさそうだった。
(良かった)
発作中、ヒジリに出来ることは少ない。
せめて発作が落ち着くまで背中をさすり続けるくらいだ。
変わってやれるものなら変わりたい。
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その後、ハルカは苦しみ続けそして発作が治まった頃には疲れ果て寝てしまった。
最近のハルカはこんな感じだ。
いつ発作に遭遇するかわからない。
こんな状態では外出だってできないし、今回だって発作中にガラスの破片で首や頭を切っていた可能性があった。
(今日からガラスの食器はやめよう)
他にも、火を使っていて発作が起きて火事になるかもしれないし、頭をどこかに打つかもしれない。
心配は絶えない。
もうハルカを一人で置いておくことはできない――
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<数日後>
ハルカは、今回の発作は危険だったと自身で分かったのだろう。ベットから出なくなってしまった。
行うことはベットとトイレの往復のみ。
これでは病んでしまう。
そう思い、外に出ようとヒジリはハルカを誘った。
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「ハルカ。ねえちょっとだけ、ちょっとだけ散歩いこう!」
ヒジリの誘いに対して、あまり乗り気ではなかった。ハルカ自身の体力に自信がなかったのだ。
だが折角誘ってくれたのだからと思い、重い腰を上げた。
歩いてみて分かった。
体力は明らかに弱っている。
近所を散歩するだけなのにえらく息苦しい。
走っているわけでないのに軽く息切れしていた。
ヒジリにバレないように、息を漏らさないように押さえていた。
「大丈夫?」
ヒジリが聞いてくる。定期確認だろうか。
「ああ」
平然を装った。
「……顔色が悪いね。もう帰ろ」
ヒジリが俺の顔を覗き言った。
「……悪い、折角連れてきてもらったのに」
折角外に連れ出してもらったのだ。心配させるのは悪いと思い、体調を隠したが、察しのいいヒジリは気づいてしまったようだ。
「ぜんぜん!俺には遠慮しないで」
少し寂しげにヒジリが言う。
「ああ。オレがもう少し長く散歩したかったんだ」
遠慮したわけじゃない。そう思わせてしまったら逆に悪いと思った。
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家に帰る最中。
そこに、『ハルカの歩くところ事件有り』とはこのことだ。
今日も今日とて事件に遭遇した。
ヒジリは、体調のすぐれない俺を配慮して今日は未解決のまま帰ろうと何度も訴えていた。
だがハルカは心臓の鈍い痛みを感じながらも事件解決に勤しんだ。
ヒジリはひどく心配していたが、ハルカは探偵である自分を譲れない。たとえこの身が朽ち果てようとも自身が遭遇した事件は何があっても解決しなければ気が済まないタチだ。
(心臓が痛い、めまいがする……)
着々と証拠が揃い、ここからだというときに、ハルカは発作が始まってしまった。
「ハルカ!」
ヒジリが発作に気づき、ハルカに近寄る。
「発作?ねぇ、もういいよ。帰ろ」
ハルカは立っていられなくなり壁に寄り掛かる。今にも座り込みそうだが現場の者が心配するから上手く退出しなければと探偵としてのプライドにより極限状態で痛みに耐える。
何とかヒジリの手を借りながら人の目のつかないところまで移動することが出来た。
そのまま崩れ落ちるがヒジリがしっかり支える。
「ぐはっ……はぁ……はぁ、うぅ……か、いと……ハン、カチ……ポケ、ット……口、紅……」
遺言のようにヒジリに事件解決を託し、ハルカは失神してしまった。
ハルカは事件解決のためには身を削る。
ヒジリにはそれが見ていられない。
なぜそこまでする必要があるのかヒジリには不明だ。
だが、だからこそハルカの傍に居たいと思う理由なのだろう。
ヒジリはハルカになりすまし、見事事件を解決へと導いた。
そして、いまだ目を覚まさぬハルカを回収し、ハルカの家へと帰宅したのだった。
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<数時間後>
「……ヒ、ジリ?事件はどうなった?」
ハルカが目をさまし、未覚醒状態でヒジリに事件がどうなったのか質問する。
「ん?もちろん俺様が解決しといたぜっ」
ヒジリが答える。
「……そうか、助かった。せっかく外に連れ出してくれたのに悪い。台無しにした」
「いや、俺の方こそ無理やり連れだして悪かった」
ヒジリはしょんぼりとハルカにかぶせるように謝罪した。
「良い息抜きになったよ。楽しかった」
ハルカが笑顔を作りながら言う。
「……それならいいんだ」
ハルカの本心はわからない。
無理やり連れ出し、結果ハルカにしんどい思いをさせてしまった。
弱っていた体に無理をさせて悪化させた。
俺の責任だ。
良かれと思ったことが裏目に出てしまった。
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ハルカは病気だ。
発作が徐々に増えていき、今ではベットがハルカの生活空間となってしまった。
ハルカはこうなってしまったことを受け入れ、諦めているようだ。
今では残りの生涯、少しでも人のためになりたいとベットの上でもできる仕事をする。
仕事と言っても、精々警察に助言をする程度だが。
幸い、必要としてくれる人がいる。
そのことに希望を見出していた。
しかし、居ないなら居ないで世界は回る。そういうものだ。
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ヒジリは目的を達し、ごくごく一般人として平穏な生活を送っていたが、ひょんなことからハルカの介護をするようになった。
ヒジリはハルカに命を拾われた。
だから恩返しがしたいと、ずうずうしく家に上がりこんで来た。
ハルカはそんなの必要ないと突っぱねていたが、体調も悪化し、だんだんなあなあになってきた。優しい彼に甘えてしまっている自分がいる。
頭の回転が速い同族との会話は楽で楽しい。
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