番外(3)かくして俺は女子小学生になりました
番外(3)です。
番外は主人公以外の視点で語ると言ったな。
あれは嘘だ(ごめんなさい)
10月7日 巡の口調修正
俺が生まれてから10年と3ヶ月。女になってから7日目になった。俺はあのあと、叶からの知らせを受けた医者による触診や、面談を受けた。良くはわからないが、医者が言うには俺は記憶を若干失っているらしい。つまり、なにかを俺は忘れているということだという。それなら思い出さないといけないと思ったが、医者は続けて無理に思い出す必要はないと付け加えた。その理屈はどこかおかしいことを感じ、恐らく目の前の医者よりも頭のいい叶に面談後、聞いてみた。
「お医者さんの言う通りよ。記憶喪失っていうのは本来は外傷とかを伴って起きることが多いの。それの場合は思い出した方がいいに決まってる。でも、外傷のない記憶喪失に関しては違うの。そのタイプの記憶喪失というのはその記憶があることによって本人に耐え難い心的傷を付けてしまうから脳が排除したっていう記憶なの。それを下手に思い出してしまって自殺してしまった人もいるのよ」
つまり、俺はなにか自殺したくなるようなことを受けたということか?記憶のない時になにかされたということか?それは一体どういうことなんだ?俺はその叶の回答を受け、よりその疑問を強めていった。しかし、思い出せないものは仕方がない。俺は記憶を思い出そうとするのをやめた。と言うよりは諦めたと言う方が正しいだろう。幼い頃の俺は自分で言うのもあれだが好奇心が旺盛で、結構知りたがりの性格であった。そんな俺が諦めるのだから本当に何も思い出せなかったのであろうことは想像に難くない。
さて、以上のような経緯を経て、俺は退院となった。まぁ、そもそもの話、それほど、長く入院する予定でもなかったようだ。それもそうだ。俺からしたらただ、気づいたら寝かされていて、体に傷も何もないのだから。長く入院すること自体がおかしい迄ある。
退院する際、正面玄関を出て、高くそびえる病棟を振り返る。叶に言われて知ったことだが、この病院は叶の所属する大学の敷地内に存在する大学病院であるらしい。俺はどうりで設備が綺麗だったり豊富だったりしたのかと、数日の入院生活を振り返る。正直言って家より快適であった。もういっそここに暮らしたいと思ったぐらいだ。しかし、俺がそう思ったところで病院側からしたらそういう訳にもいくまい。俺は無事に退院を果たした次第である。
だが、俺は1週間の入院生活で忘れた学校という存在を再認識することとなる。つまり、俺はどういう形で小学校に復帰すればいいのか。ということだ。
分かっているとは思うが、今、現在進行形で俺は女である。男にもどれる術も見いだせておらず、これから女として生きていかなければいけないと思うと泣きたくなってくる。というか泣く。
男の時ならこんなことで泣くことはなかった。いや、そもそも前提がおかしいか。女になったことに関して男は泣くことは出来ない。なぜなら当事者になることが出来ないからだ。あぁ、全く簡単で単純な定理である。嘆かわしい。
しかし、今女であるなら俺は女として小学校に向かうしかない。あぁ、だったらやってやるよ。
俺は女だ。覚悟を決めろ。
そうして俺は家に向かう。目的は小学校の準備。それに限る。
さて、そんなわけで自宅到着。両親は相変わらずいない。どうやら今日は出張らしい。まったく人が女になって困っているというのに。いや、両親は両親で頑張ってくれていたことは俺が無事に退院できたことからも明白だ。これ以上求めるのは贅沢というものだろう。
ほんと、いい親だ。
しかし部屋に来たのはいいものの、女子小学生はどういった服を着るのが正解なんだろうか。いや、小学生なんだから男物も女物もたいした代わりはないだろう。うん、大丈夫なはずだ。
「姉ちゃん、俺の服男物でもいいかな?」
俺はそれとなく聞いていた。叶は俺よりも多く年を重ねている。俺が一人で考えるよりも有意義な案が聞き出せるだろう。
叶を見ると彼女は俺と目を合わせて言った。
「女物あるよ?」
....あ、そっすか。
俺の感想はそんなもんだった。
スカートと、半袖パーカー、黄色いTシャツにはでかでかとハートマークがプリントされている。俺はこれらを着せられていた。決して着た訳では無い。俺は着せられたのだ。俺は男物で大丈夫だったのに。
女になり、女の服を着る必要性はなんだ?俺は男なのに。例え体が女であっても心は男なのに。
俺の姿を見て、叶は笑っていた。どこか満足気なその表情をしている。しかし、その目には寝不足なのか隈が出来ていた。そう言えば叶は俺が入院してからどこかよそよそしいというか、普段より気を遣っているような気がする。絶対に俺を視界から外すまいというような、そんな感じ。
一体何がそうさせているのかは分からない。でも、叶のその顔は俺に有無を言わせない迫力を伴っていた。そのため、俺はその事について特に疑問を発することなく接してきていた。もちろん、今もそうである。
「そう言えば俺は小学校ではどういう感じになるの?女として行くの?」
俺は叶に尋ねる。
叶は俺の質問に対し、上を見て、少し考えるような仕草をしてから答えた。
「そうだねぇ、たぶん女の子になりましたーって紹介されるんじゃないかな?」
俺はその叶の答えに顔をしかめる。
「えぇ、それでいいの?」
この言葉は本音である。だって、同級生が唐突に性転換だぞ?そんなに簡単に受け入れられることではない。実際俺本人がが受け入れきれていないような状態だ。なのに、同級生が受け入れられる道理があるはずがない。
「んー、まぁ、大丈夫でしょ!なんとかなるって!」
適当である。あの時のしおらしい叶はどこへ行ったのか。
「……はぁ、分かったよ」
俺がこう言うのも納得であろう。
かくして俺は女子小学生になりました。
予定を変更して次からは【女子小学生編】をお届けします。
8話書いているのに未だ本編(女子高校生)にたどり着いていない不思議をどう解決してやろうか!
活動報告にて、【女子小学生編】のキャラクター紹介をしています。
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