番外(2)大人達の仕事
更新遅れてすみませんでした!
今回は両親の視点です。
会談部分は大雑把だけど許してー!
更新遅れた2ヶ月分はだいたいこの部分で時間取ったのが原因。
俺の所有している車は2台ある。普通の乗用車と仕事用に用意した高級車である。その価格差はなんと1000万にもなる。俺としては別に乗用車でもいいとは思うのだが、妻であり秘書であるみるか曰く見た目が重要なんだそうだ。やはり俺なんかよりも彼女の方が社長に向いているのではないか?つい先ほども高級車の中でいつものように軽く言ったらみるかはいつも通り真剣な顔をして強く否定されてしまった。俺のどこに社長らしいのか。やれやれ、まったくわからん。
「それで?巡のこと一体どう扱うの?あの子、たぶん混乱してるわ」
隣に座っていたみるかが運転手に聞こえない程度の声で耳元で囁く。みるかの息が耳に触れ、なんとなくこそばゆい気持ちになる。全身に鳥肌が立つ。何度やられてもこれは慣れないな。彼女の時からいつもみるかは俺をこうやってからかうのだ。いや、みるかはからかっているつもりはないのだろうが。
いや、それは置いておいて、だ。巡の件はなかなかにセンシティブな問題だ。俺的にはむさ苦しい男よりは可愛い女の子に将来的になるのだからウェルカムではある。しかし、よく考えろ。俺はこれでも立場のある人間だ。そんな短絡的な考えで巡の問題を放置する訳にはいかない。
巡の体が女になってしまった謎についてはとりあえず放置するべきだ。まずは巡がこれからの人生において女として生きやすくする必要がある。今回、俺が役所に行って話すのはそれを主目的としている。
「あぁ、とりあえず巡は女の子として過ごしやすくしないとな。そのためにも俺らは向かってるんだろ?」
俺は動揺を隠して言った。少したどたどしく、言葉少なにはなってはしまったが、実際これは間違ってはいない。巡の周囲の環境をできるだけ整える必要がある。
「でも、あの所長が戸籍の書き換えに同意してくれるかどうかだよなぁ。これは犯罪だし、バレたら下手じゃ済まないぞ」
「いいえ、性別変更に関しては犯罪ではないわ。まぁ、本人の同意が必要とかなんとか言ってたけど、その辺は適当でしょ?」
おいおい、こんなんで交渉できるのか?
「できるわよ。私にはあの人の弱みを少なくとも5こは握ってるわ」
俺の表情を読んで、みるかは俺が発言するより前に言ってのけた。
「さすがは俺の秘書だ。誇らしいなぁ」
俺はふざけて言ってやる。
「でしょ?」
みるかは整った顔を綻ばせて笑う。俺は彼女のこの顔が好きで、そしてそれ以上に彼女が俺の言葉足らずな物言いを補助してくれるのが楽で付き合ったのだ。
そして今となっては彼女は妻になり、俺はいつの間にか社長になっていた。時というのはやはりすぐに経ってしまう。悲しいが、同時に楽しみでもある。将来の巡の姿を想像する。少女になった巡は幼い時の叶とどこか雰囲気が似ていたから、巡も将来は叶のような美人さんになりそうだ。父親としては子供がどちらも家から出て行ってしまうのはかなしい。しかし、俺は中途半端な男には絶対にうちの娘たちはやらん!絶対にやらんぞ!
「ねえ、顔がこわいわよ」
おっとつい考え事をしてしまった。というか話がずれたな。
「あ、あぁ。大丈夫だ。少し考え事をしてしまってね」
「そう。まあ、いいわ。はやく準備しましょうよ」
「準備と言うよりは覚悟だろ?」
俺は言った。そう、これはまさしく覚悟が必要な仕事だ。
「だから頑張っていこうぜ」
そのとき、運転手が「到着です」と告げる。道路の脇に停まり、運転手が車のドアを先に出て開ける。
「にしてもいつ見てもでけぇなぁ」
俺は目の前にそびえる高層ビルを見上げる。たしか50階とか100階とか言ってたっけか?その辺は微妙なんだが、俺の会社の本社よりもデカイのは確実だ。ほんと、この街の上の人たちは神様にでも会いたいのかね?まぁ、高すぎる塔はそのうち崩れるものだ。このビルが未だ立っているってことは神様に許されたってことだろうさ。
「バベルの塔じゃないからね。というか、現代の無信仰者が多い日本においてそんな考え方をするとはどうゆうことよ。なにか変なスイッチでも入っちゃった?」
変なスイッチねぇ。
「確かにそうかも知れんなぁ」
「嘘つけ」
「バレてしまっては仕方がない。ほら、敏腕秘書さんよぉ、行こうぜ」
俺はみるかの左手を右手でぎゅっと掴む。みるかは突然の俺の行動に反応を遅らせ、顔に動揺を見せた。しかし、それも一瞬である。他人が見たら特に変化を感じることは出来ないだろう。俺がそれに気づいたのは全て一緒に過ごしてきた時間の賜である。
みるかはすぐに俺の手を振りほどいた。
「て、手は外しなさい。今は仕事よ」
言葉を若干つまらせながらもそんなことを言われてしまった。仕方ない。
俺は大人しく手を掴むのを諦め、みるかと共に歩を進めた。
1時間後、私のスマホに連絡が入った。
「助けて」
叶からの連絡だった。私はそれに返信はしなかった。場所は大体予想がついている。あの子はこういう時、つまりはどこか特定の場所に来てほしい時はいつも場所を先に連絡をする。それをしないということはあの子はいつもいるところにいる。あそこだ。
私が会談中にスマホの電源を切っていないことに対して疑問に思ったのか、夫である雄輔が私の方を怪訝な目で見る。普段の優しい目ではなく、社長の厳とした目であった。
「あの子からの助けてってメールよ」
途端に彼は表情を変えた。そしてすぐさま目の前の男に向かって言った。
「すみません、どうやら少し事情が変わってしまいました。戸籍の件、どうかよろしくお願いしますね?」
男はそれだけで何を言いたいのか察したようで、うなずいた。
「わかりました。私にすべて任せてくださいよ」
すぐさま、私たちは席を立った。
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