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俺は10歳で女になった。  作者: ミーケん
1章 女になる
5/9

俺が女になった日【5】

最後です。

 気がついた時、俺はベッドに寝ていた。ジュースを買いに行ったあと何があったのか、俺はすっかり記憶が飛んでいる。ベッドひとつを囲むようにカーテンレールが設置されているのを見るに、ここは病院のようだった。

 しかし、病院ということは俺は実験体なんかにさせられたんだろうか?もしくはこれから実験させられる?両親の戸籍の改変が無事に済んでいればそんなことにはならないだろうが、大丈夫だろうか?

 と、そんなことを考えていると頭が冴えてきたのか俺の右手が誰かに握られている感覚があることに気づく。ちらりと首を動かし、視線を向けてみると普段着の叶が俺の手を両手で包み込むように優しく握りながら寝ていた。あまりにも綺麗で自分の姉ながら見とれてしまったが、間違っても惚れることは無い。大丈夫。

「姉ちゃん。起きろよ」

 俺は上半身を起こし、叶の頬をつんつんとする。していて気づいたが、叶の頬にはなにか液体が流れた後が目から顎に掛けて続いていた。どうしたのだろう。俺は心配になる。なにか叶が泣くようなことがあったのだろうか。あの完全完璧の叶が弱みを見せるとは。

 しばらくつんつんしていると叶が僅かに動いた。

「…ん」

 叶は寝落ちが悪いことで家族内では有名だ。だから俺が叶を起こす時はだいたいこうしてつんつんと頬を突いてゆっくり目覚めさせる。これが1番面倒くさくない起こし方なのだ。まったく世話のかかる姉である。

「ご……めんね」

 叶は寝言を言うタイプではなかったが、どんな夢を見ているんだろうか。なにか食べ物でも残してしまったんだろうか?と俺はつんつんしながらくだらなくつまらないことを考えていた。


 時刻は朝の8時を回る。

 起きてから約10分、叶をつんつんして8分がたった頃、叶がハッキリと目を覚ました。そして、途端に俺のことをガバッと抱きしめる。俺は突然のことに戸惑いを隠せないが、しかし、しっかりとその抱擁に答え、こちらからも叶を短く、小さな手で背中に回し、抱きしめた。

「ごめんね……ごめんね………ごめんね……」

 叶は涙声で繰り返しそう言った。一体なんのことを謝っているんだろうか。あれか?検査の時に変態チックな格好にした事か?まったくそんなこと気にしなくていいのに。心配性な叶を見て将来が不安になってしまう。いや、こんなに美人なんだから相手はすぐに見つかるだろう。

 ともかく、俺は叶が検査時に変な格好を俺に強要したことを謝っていると考えて声をかける。

「姉ちゃん。大丈夫だよ?俺別に怒ってないしさ?泣くのやめようぜ?」

 俺は言い聞かせるように優しく言った。しかし、それがダメだったのかどうなのかは分からないが、叶はより一層激しく泣き始めてしまったのだ。もうその姿に完全完璧な姉の面影はなかった。そこで泣いているのはただの可愛い女の子であった。


 さて、叶が落ち着いた頃。ようやく俺は叶に尋ねたかったことを聞く。しかしそれにしても聞きたいことが山ほどある。どれから尋ねればいいのだろうか?とそんな風に考えあぐねていると叶が俺の先を越して口を開いた。

「大丈夫だったの?」

「うん、あんな格好ぐらい大丈夫だよ。それにあの格好については姉ちゃんが金属はだめだからって説明してたじゃん」

 俺は叶が満足するように優しく答える。これで叶は自分の責任であんな格好をさせてしまったと後悔することはないだろう。そう思っての発言であったが、しかし意図が伝わらなかったのか叶はキョトンとした顔をした。ん?言葉が間違っていたかな?

「だから─」

「覚えてないの!?」

 俺が付け加えて説明しようとすると叶は叫ぶと同時に俺の両肩を掴んだ。俺はその接触に何故か不快感と嫌悪感を感じ、ビクッとする。何故だろう。以前ならこんなことは無かった。あれだろうか?女になった影響がこんな所でも発現しているということだろうか。

「あ、ごめんね?怖かった?」

 叶は俺のその僅かな怯えに気づき、手を離す。いや、大丈夫だよと声に出そうとするが出ることは無かった。

「いえ、ごめんなさい。なんでもない」

 どこか女性らしさを含んだ、大学に行く前のような口調に戻っている叶に俺は若干の違和を感じる。今日の叶はどうしてしまったんだろうか?

 叶に声をかけようとするが、しかし、なぜか声が出ない。ただ空気が盛れるだけである。なぜ?なんで声が出ない?何故か出ない声に俺は何故か泣きたくなる。いや、実際に涙があふれる。しかし、俺はなんで泣いているのかがわからない。

 突然に溢れた涙に戸惑う俺の頭を叶は気遣うように優しく撫でる。

「大丈夫よ。私がずっとそばに居るから。もう巡を1人になんてしない」

 なんでそんなことを言うのか。分からずじまいではあったが、叶のその言葉は俺を救ってくれたように感じた。

 叶の綺麗な手によって俺に着いた穢れが拭われたような、そんな感覚が俺を包んだ。


「気がついたことを先生に伝えないと」

 しばらくして落ち着いた後、叶はそう言った。

 確かにその考えは正しいのだが、今の俺は病院ではどういった扱いになっているんだろうか?全く把握出来ていない。というか、俺はなんで病院にいるのか、そもそもの話根本から意味不明である。

 俺は叶が病室から立ち去ろうと立ち上がるためにベッドについた右手首を掴む。叶ははっとしてこちらの顔を見る。

「俺はちゃんと女になれたのか?」

 今回は滑らかに声が出た。女になれたのか、つまり、俺の戸籍はちゃんと弄れたのかということだ。本来なら両親のどちらかに聞くべきことではあるが、当事者がこの場にいないのだから叶に聞くしかない。叶は俺の言葉をちゃんと理解してくれたようで、俺の望む回答をする。

「父さんがちゃんとしてくれたって言ってたよ。母さんは疲れたらしくて帰ってすぐに寝ちゃったけどね」

 そうか。これでとりあえず身の安全は確保出来たという訳だ。先程の声が出ないなどの奇妙な現象から始まる緊張感が緩まる。

「よかった。これで安心できるよ。父さんと母さんには感謝してもしきれないよ」

 俺にしては珍しく素直な感想を言う。普段ならこんなことは言わないが、今回に関しては本当に感謝している。それに昨日は朝から疲れた。正直今日は安心して生きたい。

「ごめん。なんか、ダルいからまた寝るよ」

 俺は底知れない疲れに襲われ、寝た。

「おやすみ」

 叶はそう言うと俺の体に布団を被せてくれた。暖かく、そして、とても心地よい感覚が俺を包んでくれた。

次回「番外」

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