俺が女になった日【2】
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みなさん。やっぱりTSに飢えてますねぇ!?
では、続きをどうぞ
さて、準備ということで自室に戻った訳だが、現在の俺の体は幼いながらも女である。部屋のクローゼットを開いてもあるのは男物の黒っぽい服だけ。もちろん、女性物の下着など1着も持ってない。というか、持っていたらそれは俺は変態である。間違ってもまだ性の目覚めなどを起こしていない10歳の俺は健全な人生を送ってきていたので、困っている。つまり、服はどうするべきか?ということだ。
トイレを済ました際、手洗い場の鏡で少しだけ自分の姿を見たが、正直自分で自分に惚れた。それほどの美人さんというか、将来は絶対可愛いであろう顔がそこには映っていた。若干俺の名残のようなものは残ってはいたが、ほぼ別人と言っても過言ではなかった。なるほど、これは戸籍を変えなければなるまい。と俺を納得されるには十分であった。
そんな俺の姿に似合う自然な服などない。いや、正直俺としてはなんでもいいのだが、どうしたものかと考えていると俺の部屋のドアがノックされた。
「ねぇ、服着た?」
ドア越しの篭った声が聞こえた。姉の叶である。
服を着たかと聞かれて俺は一瞬考える。最も無難な服はなんだ?と。パーカーだと後ろに髑髏なんかが入っているものしかないので却下。ってか、なんだこのパーカーはいつ買ったものだよ。俺が選んだのか?いや、そう言えば選んでたわ。
ズボンにしたって黒いやつしかない。俺は基本的に黒が大好きであったので仕方が無いし、そもそもの話、黒というのは組み合わせを考えなくても良い色だから楽でよかった。
と、そんな具合にクローゼットを漁っているとある服に目が止まった。
そうか。これなら行ける。
「もう少しで決まるから待っててー」
俺は慣れない自分の声に違和感を得ながら答える。若干高くなった俺の声は綺麗であった。どこまでも透き通りそうなソプラノの声。歌なんか歌えば一気に人気歌手だろう。いや、盛った。俺は歌が下手であった。去年、10歳の誕生日に初めてカラオケに連れていってもらったが、家族揃ってお前は歌を歌うなと警告されていた。まったく、あの時の俺の歌はそんなにおかしかったのだろうか。なんか、今になってムカついてきた。
それは置いておいて、俺は決めた洋服に着替える。というか、ジャージである。全身基調は黒で肩や足のサイドに青いラインが入っている。太陽の光を沢山吸収しそうだが、寒がりであった俺にはちょうど良い代物だ。しかし、この格好でマラソンはしたくないな。絶対に熱中症になる。
するすると脱げる寝巻きによって俺の体が少しばかり細くなっていることを感じながらの作業はとても気が気じゃなかった。どことなく俺の体とも思えない俺の体を傷つけまいとこれまでの脱いだ服をぶん投げるなんてことはせずに畳んで脱いでいった。パンツはどうしようかと迷ったが、ブリーフならいいかと思い、とりあえず、しばらく使っていなかったブリーフを履いた。締め付ける感覚がウザったらしかったが、幸い(というか不幸にも)俺の立派な竿はない。全く問題なくブリーフは履けた。正直泣きたい。
さて、そんな着替えという名の格闘を数分でこなし、静かに待っていてくれた叶に感謝しながらドアを開ける。叶は俺の格好に若干驚いたようであったが、俺の部屋の中の惨状を発見し、その表情は優しげな笑みへと変わった。
「お疲れ様。さ、ご飯でも食べる?さっき食べてなかったでしょ?」
そう言えばそうであった。ついさっき居間に集まったのは家族会議をするためでもあったが、それ以前に朝食を摂るためである。それなのに、つい先程は食事を疎かにし、俺をどうするかで終わってしまっていた。道理でさっきから若干お腹が減っているなぁと思っていたが、なるほど、うっかりしていた。
「食べる」
俺は小さく一言だけ言った。姉に対して申し訳ないことであるが、しかし、俺だって姉の言う通り疲れているのだ。仕方もないだろう。それを察してかは分からないが叶は頷く。顔の笑みは忘れていない。さすが、完全完璧なお姉ちゃんである。俺が男だったら惚れてたね。いや、今は女か。あははは。笑えない。
姉に従って再び食事を摂るために居間のテーブルに座って両親が来るのを待つ。我が家は基本全員が揃わないとご飯を食べない決まりになっている。もちろん、親が仕事で忙しかったりしたら俺は先に頂くが、だいたい親は早急に仕事を切り上げて一緒にご飯を食べてくれる。そういう所が俺は大好きであった。まぁ、直接言葉で伝えることなどはしないが。
数分待っていると両親が現れた二人とも仕事用のスーツに身を包み、髪型もセットされている。つい1、2時間前に叫んでいたとはとても思えない凛々しい姿である。しかも、二人揃ってなかなかに美形なのだ。もはや、雰囲気から違うからな。ビビる。
そんな社長と秘書は格好は変われど両親である。その仕草はまだお家モードなのか、仕事らしいものは感じられなかった。表情も柔らかい。俺の着替えた格好についても何も言わない。ほんとに俺は幸せなのだろうな。と両親の気遣いに人生で最大の感謝をした。
「さて、それじゃあ、今日は少し忙しくなりそうだが、みんな。頑張っていこうな」
テーブルに着き、4人揃ったところでお父さんが告げる。それは毎日お決まりの挨拶である。そして、今日に限って言えば俺の身の安全を確保する大切な日であるとも言える。いつもより声が硬いのはそのためであろう。
「じゃあ、いただきます」
お母さんは、お父さんに続き、ご飯開始の合図をする。その顔はどこか楽しげでもあった。姉のいる食事というのが嬉しいのだろう。普段は俺と両親のみの食卓であったから。なんとも、わかりやすい母だ。
「はーい、いただきまーす」
対して姉は母の喜びを知ってか知らずか、普段(3年前)と同様に食べ始めた。まるで、自分がここにいるのは当然だとでも言うように。いや、実際当然なのだろう。姉がいて、母がいて、父がいて、そして俺がいる。家族の中では特別優れている訳でもない俺ではあるが、何故か姉以上に両親から愛されて育った。理由は分からないが、何となく俺は思う。両親は俺のような普通の子供が欲しかったんじゃないかと。まぁ、これはただの凡人による迷推理でしかないが。
と、そんなことを思いながら俺は今日の朝食を食べた。献立は目玉焼きとベーコン、そしてコーンスープであった。もちろん主食はご飯である。
まぁ、いつもの事ではあるが、美味しかった。
「じゃあ、俺達は先に出るよ。すこし会社に寄らないといけないからね」
食事も終わり、時刻は10時を回ろうとしていた。社長モードになった父と秘書モードになった母は表情を固め、俺に言った。
俺は隣の姉を見てから「行ってらっしゃい」と言った。姉は自分を見る俺に気づき、なてなマークを頭の上に出しながら俺に習って「行ってらっしゃい」と言った。そして、付け加えてた。
「頑張ってね。父さん、母さん」
なにを頑張ってなのか、10歳の俺には分からなかったが、常識的に考えて戸籍を秘密裏に変えろなんて犯罪である。それをさせようとするということはつまり、俺のために犯罪者になるということである。姉はそんな両親に最大限の激励を送ったのだ。
そんな姉の言葉に2人は振り返ることなく、「頑張ってくる」と言って玄関のドアを閉めた。表情は見えなかったが、2人とも笑っていた。不思議なことだ。これから修羅の道を進もうとしているのに笑うとは。
しかし、当時の俺はその姿をただ単にカッコイイと思っていた。
次回「俺が女になった日【3】」