俺が女になった日【1】
TS作品もっと増えろ
世の中、どんな奴がいるか分からないものだ。
かく言う俺だって正直自分でもよく分からない人物である。
名前を玉石巡という俺は精神面においては男であるが、玉がない。竿もない。それに加えて胸には立派な膨らみがある。
さて、どういうことか、説明するには俺の過去に遡る必要がある。
16年前、俺は至って正常に生まれた。予定日に生まれ、平均体重であり、その時にはきちんと玉も竿をあった。胸だって膨らんでなかった。ぺったんこだ。
両親は元気に泣いて生まれてきた俺を大層可愛がり、愛でた。そりゃあ、そうだろう。子供が生まれて逆に悲しむ親なんていない。2人の愛の結晶だ。愛でずにどうするというものだ。
そんな両親の無償の愛に育まれ、俺は順調に育っていった。10歳の時、公園でお父さんと遊んだことは今でも最高の思い出だ。
しかし、その帰りに俺は男じゃなくなった。
帰り道、俺はお父さんと手を繋ぎ、学校で何があったとかそんな他愛もない話をしていた。幸せだった。
しかし、そうして話している最中、突然に俺の意識は失われた。お父さんの言うところには俺が誰と友達になったとかそんな話をしていると突然に俺の手に力が抜け、同時に喋り声も失せ、お父さんが手を繋いでいなければそのまま倒れていたらしい。
奇遇にも手を繋いでいたために倒れることは無く、お父さんは俺を抱えて家に帰ったそうだ。翌日に病院に連れていくつもりだったらしい。
しかし、翌日。俺が目を覚ますとすでに俺は「俺」では無くなっていた。その事に気づいたのはいつも俺を起こしてくれるお母さんだった。その日は昨日のこともあり、病院に連れていくために起こしたそうだが、俺が寝ている姿を見た瞬間に違和感に気がついたそうだ。曰く、「寝相がきれいだった」らしい。
普段の俺がどれだけ汚かったのか?とかそういう疑問を投げかけたくなるほど失礼な物言いだが、実際俺は人から綺麗だと言われるほどいい寝相はしていなかった。なら、仕方ないね。うん?本当に仕方ないのか?
まぁ、それはそれとしてだ。俺が何の因果か何もかも不明な状態で朝起きたら女になっていたのだから我が家は朝からパニックになった。平たく言えば近所迷惑レベルの叫びを朝一発にさながら産声のごとく上げたのだった。
さて、一呼吸置いて混乱も静まってきた頃。ようやく俺も自身が変化していることに気がついた。それは朝一番のトイレであった。子供らしく便座に座ることを怠って便座カバーを上げてジョローっとしようとした時、パンツをずり下げてようやくそれがないことに気がついた。本来ならそれを支えて狙いを定める棒がなかった。つまり、竿がないことに気づいたのだ。
その時の俺の絶望がわかるか?長年(と言っても10年ほどだが)連れ添ってきた大切な相棒を失ったのだ。というか、いつの間にかどこかに忘れてきてしまったのだ。嘆いた。いや、まず先に叫んだ。そして、落ち着いた。
次に思ったのは既に違うことだ。つまり、「仕方」が分からなかった。竿がなければ狙いが定められない。どうすればいいのか3分ほど格闘し、結局俺は座ってすることに決めた。
場面変わって、居間。トイレを済まし、ようやく自身の状況を幼いながら理解する俺が俺以外の家族が既に囲んでいた用意された朝食の置かれているテーブルに着き、所謂家族会議が始まった。
最初に口を開いたのは姉の叶であった。ここ最近は家に帰ってこず、大学の研究室に閉じこもっていた彼女だが、親からの連絡が会った途端に帰ってきた。当然その顔はニヤけを混ぜはしているものの、いつものような余裕のある笑みではなかった。どことなく珍しい真剣さを感じる表情であった。
「なんで、私の弟が妹になっているんだ?」
口にしたのは当然の疑問。しかし、当事者である俺も含め、連絡した張本人である母親すら答えられる人間はここには存在しなかった。
「よく、分からないし、病院で検査してみるか?」
そう言ったのは俺の父親、雄輔である。いつもは俺に向けている微笑みも今は鳴りを潜めている。やはり、どこか責任を感じているのだろうか。俺が倒れたことに自分と遊びすぎたことが原因とか思っていては気の毒である。が、この時の俺にそんな気を使うことは言えなかった。自分のことで既にお腹いっぱいである。
「いいえ。それはダメだと思うわ。巡が実験体とかで連れていかれちゃうかも知れないもの」
優しく、しかし、確かな意志を持って告げたのは母親のみるかである。普段から固く噤んで家族以外には笑顔を見せることも少ない口を今は家族である俺たちにすら噤んでいる。つまり、彼女はいま真剣で、本気で、真面目にそんなことを言っているのだ。この状況における考えうる最も最悪の事態を想定している。家族の危機の予測。その点においては家族で1番優れている。家事なども卒無くこなすスーパーお母さんとして近所では有名だ。
そんな母親の言葉を聞き、姉ちゃんが口を開いた。
「なるほどねぇ。じゃあ、その辺の身体の異常の検査に関しては私に任してくれない?」
俺も含め家族みんなが叶を見る。叶の顔は大真面目であった。
「どういうことだ?叶、お前の研究はたしか遺伝子についての何だかってことだっただろ?それと巡の身体検査のどこに関係があるんだ」
父親が疑問を投げかけた。すると叶は大袈裟に手を広げて笑った。
「そうだよ。私の研究は人の遺伝子に関する全て。もちろん、漫画のように女体化する事象についても調べてる。実は世界的に知られてないけど100年前ぐらいに実際に突然女になっちゃった男がいたって記録もあるんだ!だから、巡もちゃんと研究対象なの」
そして、一呼吸を置く。そして、これまた大袈裟にアピールする。
「あ、もちろん。そこらの奴には触らせないから大丈夫だよ!私だけの部屋で検査するし。あと、私個人で検査装置いろいろ借り出せるんだよねぇ。だから、検査関係なら私が請け負うよ。でも、戸籍とかは無理かな」
戸籍。つまり、公的な俺の情報についてだ。俺は戸籍の上では男となっている。しかし、現実の体は女である。つまり、現在戸籍と実態とでズレが生じている。これをどうするか。そういう問題は俺の目の前には横たわっているのだ。
すると、これまで口を閉じていた母親のみるかが口を開く。
「戸籍に関しては私に任せてちょうだい。ちょうど役所の上の人と話す約束があったから。隙を見計らって言っておくわ。それが出来れば、いえ。出来るからそれで解決よ」
母親のその力強い宣言には理由がある。というのもこの母親、実は社長の秘書だったりするのだ。それも敏腕である。また、そのためかは分からないが噂では社長よりも権力があるとかないとか言われている。正直、この母親ならやってくれるだろうという謎の安心感があった。
「それは、心強いな。それじゃあ、俺は出かける準備でもしてくるか」
言うと父親は部屋に向かった。お察しかもしれないが、この父親が社長である。まったく仕事でもプライベートでも一緒とは仲の良いことこの上なく、ある意味理想の夫婦像であろう。
「それじゃあ、巡。親が頑張ってくる間に私たちも私たちのすべきことをしに行こうよ」
姉の言うことはつまり、大学への検査のお誘いである。俺は渋々ながらもその誘いに乗ることにした。というか、この状況で断れるほど空気が読めない訳では無い。俺は素直に姉の通う大学へ向かう準備のため、自室に向かった。
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