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第九十九話「終焉の元冒険者」

「ボス、もうそろそろ止めにしませんか? この街の冒険者たちはもう限界ですよ……」

「もう一押しってことだよ。何を弱気になっているんだ」


 根城の三階、いつもの部屋でジェリックとギスランは、いつもと同じ話を繰り返していた。そしていつもと同じように話は通じず、ジェリックはいつもと同じく唇を噛む。


「冒険者ってのはなあ、終りの見えない戦いは苦手なんだ。一仕事終わらせて報酬を手に入れる。その短い繰り返しが体に染みついているんだよ。そこが軍だ騎士だと息巻いている連中とは違うんだ……」


 ギスランは唐突に持論を語り始める。


「街が崩壊すれば金を取りっぱぐれるかもしれない。だったら――ってな。そろそろ嫌気が差しているヤツがいるかもしれんな」

「……」

「城壁まで魔物が迫れば逃げだそうと考えるよ。そこで俺たちの出番さ。一気に押し出して、ブランシャールのお坊ちゃんたちが横合いから突っ込み加勢する。そして街の危機を救う……」


 ジェリックには、あまりにも都合が良いように思える展開だ。


「そうそう上手くいくでしょうか?」

「いくさ! もちろん事前にギルドに話を通して報酬をたっぷりとせしめる。ああ、ブランシャールとも話を通しておいた方が確実だな」

「……」


 もしもギスランの思惑通りにはこんだとしても、このパーティーに貼られるレッテルは裏切り者か、金の亡者か、それとも――……。ことが成就したとしても、待っているのは栄光とはほど遠い現実だろう。



 突然に外が騒がしくなる。一階に詰めている者たちが誰かと揉めているようだ。


「何だ?」

「さあ……」


 こんな時にと思いジェリックは立ち上がり窓の外を見下ろした。十数の隊列を組んだ兵と、ここの冒険者たちが対峙している。


 兵の先頭に立っているのはアンディックであった。元勇者にして魔導師(マスターソーサラー)が兵を率いている。もはやこれまでとジェリックは観念した。王宮の近衛兵団がやって来たのだ。


「全てが終わってしましいました。何もかにもです……」

「ん? 何を言っているんだ?」


 兵団は冒険者たちを押し分け、アンディックを先頭に中に入る。もうじきこの部屋にやって来るであろう。


「ボス、お客さんですよ」

「客? 誰だ?」

「王宮の連中ですよ」

「はあ? 何バカなことを言っているんだ。こんな街に――」


 ギスランは未だに事態が飲み込めていない。


「王都を守りし近衛の兵たちが、ここにやって来たのです」


 多数の軍靴が廊下の床を踏み鳴らす音が近づき、部屋の前で止まった。扉がゆっくりと開かれる。


 先頭で現われたのはアンディックである。王宮騎士団(ロイヤルナイツ)の正装は今の立場を表わしていた。


「お久しぶりですね。ギスラン」

「ふんっ、ベルのお友達がここに何の用だ?」


 その威厳のある服装を無視するかのようにギスランは吐き出す。


 一歩前に出たアンディックの両脇から近衛兵たちが室内に侵入した。こちらもまた特徴のある軍服に身を包んでいて、一般の兵でないのは一目瞭然である。


 一瞬ぎょっとしたギスランはすぐさま立ち直った。虚勢を張る為かソファーにふんぞり返り、この侵入者たちをベテラン冒険者の眼光で睨み付ける。


 魔導師(マスターソーサラー)王宮騎士団(ロイヤルナイツ)近衛兵団ロイヤルガーディアンズを引き連れてこの街へ、この場所へやって来た。この意味が分からなければ本当のバカである。


「御大層な連中が冒険者の根城に何の用だ?」

「心当たりはありませか?」

「なんだと~」

「この危機に立ち上がらない連中の城が、冒険者の根城とは笑わせますね」


 アンディックは部屋の外で様子を伺っているであろう、ここの冒険者たちに聞こえるように言った。


「ふんっ、俺には街を守る大義名分があるぞっ!」

「大義名分? そんなものはクソ食らえですよ」

「ゴーストから街を守る――」

「だからそれがクソなのですよ。あなたはゴーストと結託して街を混乱に陥れた……」

「なに!」

「あなたは国家騒乱罪で告発されていますよ」

「なっ!?」

「ロッティ!」


 アンディックが名を呼ぶとロッティが中に入り、一枚の用紙を広げて見せた。国家と王家の紋章が入った、この国で一番権威がある命令書である。


「どうですか?」

「そっ、それがどうした? 俺様は、この街の冒険者は認めんぞ! そんなものはデッチ上げだ。証拠を出せよ!」

「今まで御苦労だったね」

「??」


 ギスランにも、この場にいる誰もがその言葉の意味を理解出来なかった。しばしの沈黙が続く。


 唇を噛んだジェリックが一歩前に出た。


「礼を言うよ。君に働いてもらえなければ、この街は更なる危機に見舞われていただろう」

「いえ……」

「なっ、なっ――」

「私の部下ですよ。五年もの間、この街で任務に就いてもらいました」

「すっ、間諜(スパイ)だったのかーっ?」

「そんな言い方はないでしょう? あなたの破滅を救ってくれたのですから」


 待ちかねたとばかりに兵たちはギスランを取り囲み押さえ込む。


「よっ、よせ。放せっ! ガハッ! この裏切者――」


 よく意味も分からないまま抵抗するギスランの腹に鉄拳がめり込む。近衛兵団ロイヤルガーディアンズは国家への反逆者に容赦などしない。


 この部屋の主は強引に連れ出されて行った。


「二人共に長い間、本当によくやってくれたね」


 裏切者のそしりを受け、半ば放心状態であるジェリックに、ロッティは寄り添い胸に顔を埋めた。


「お兄様……」

「大丈夫だ。お前にも迷惑をかけたな」


 ロッティは兄のギスランへの思いを知っていた。だからこそ助けになればとこの街に戻ったのだ。


 五年前、街の不穏な動きを知ったアンディックは、王都で働いていたロッティを動かした。そしてジェリックもまた動かしていたのだ。


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