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第九十七話「再びのゴースト」

 シャングリラの屋上に置かれた椅子に座り、二人は手分けして四方を見張る。ベルナールは周囲に目配せしながら、これからの段取りをディオンに説明した。


「目標が出現した場所には、周囲に配置している冒険者たちが駆けつける。ディオンはここを守ってもらうぞ」

「了解です」


 話をしているとレスティナがシンディを伴いやって来た。


「御苦労様です……」

「すまんな、ここの屋上は監視にもってこいなんだ」

「いいえ、街の為ですもの」


 レスティナはベルナールとディオンを見て微笑んでから、周囲の暗闇を見回す。シンディはティーセットをテーブルに置き二人分のお茶を入れ始めた。


「こんな状況はいつまで続くのかしら?」

「さてなあ……。敵は極めて好戦的だよ。昨夜の快感が忘れられないだろう。やつらの本質だ。そして今夜来れば今夜でカタがつく」


 ベルナールは空を見上げた。月が光り輝き、大きな雲が照られながらゆっくりと移動していた。


「そうなんですか?」


 ベルナールの確信するような言葉に、ディオンは少し驚いたように言う。


「ああ、戒厳令も一晩でお終いさ」

「はい……」


 そして少し呆れたように相槌を打つ。


「今この街に集結している戦力は強力だ。そのど真ん中に飛び込んで来るなど、たとえゴーストであっても自殺に等しい……」

「強い男たちが守ってくれるから街もお店も安全ね、シンディ」

「はい、マダム。心強いです」


 新人の娼婦は感心したような表情で、ティーカップを差し出した。


「では……」


 レスティナは一礼して引き下がった。下に行って今夜は安心だと店の女たち、避難して来た者たちにこの話を伝えるのだ。



 しばし静かな時が続いた後、小さな光球が夜空に上がる。警戒している街の冒険者全てがこれを見ていることだろう。


「さて、ディオン。頼むぞ」

「はいっ」


 予め打ち合わせていたようにディオンが飛行の力をアシストし、ベルナールは夜空に飛び上がった。


 眼下の暗闇では嫌な気配が一体、路地を移動しつつベルナールの担当区域に向かって来る。


 追いかける気配は二人の冒険者たちで、この地区はバスティのパーティーが担当していた。ゴーストにツキはない。だからこそ逃げているのだ。


 ベルナールは滑空の方向を変えてゴーストの鼻先を押さえに掛かる。そして逃げ道のない通りに差し掛かり、急角度で降下した。剣を抜き戦闘態勢をとってから石畳に降り立つ。


 二人の冒険者は猛然と追いかけてくるが、ベルナールはその前に決着を付けてやろうかと欲が湧く。


「さあ、ロートルのおっさんが一人だと舐めるなよ……」


 月明かりの中、ボロボロの布のような服をまとった人間体が、こちらも猛然と迫って来る。だらしなく下げられた両腕が伸びて両刃の剣と化した。生きたまま人を切り刻む狂気の刃だ。


「小物よりも、戦って見せろよ……」


 ベルナールは剣を構えて腰を落とす。もう何度も何度も繰り返した型である。そして二本の腕を狂ったように振り回して突っ込んで来るゴーストの鼻先に、一条の閃光が引かれた。


 黒いのっぺりとした、顔とも言えない顔から斜めにゴーストは裂けるが勢いは止まらない。


「ちっ!」


 ベルナールは後に飛び退きつつ、腕の刃の攻撃を剣で払い除ける。頭部が弱点だと思ったがそうではないようだ。やはりこのゴーストは昔に相まみえたゴーストとは違うようだ。


 本体が停止し、道に落ちた顔面と肩の一部が蜘蛛の魔物に変化する。そして首無しの頭部に取り憑いた。やはりゴーストは一筋縄ではいかない。


「おおおっ!」


 追いついた一人の追跡者が後から斬りかかる。剣を振りかぶるその姿はアレクであった。


 ゴーストは振り向いて蜘蛛の口から糸を吐き出す。気合いがあるのは結構なのだが、背後から斬りかかるのならば声ではなく魔力に込めなくてはならない。


 アレクは急停止し、剣で糸を払ってから一歩後退した。


 魔法使い(ウィザード)のリュリュが追いすがりながら魔導の杖を掲げ、光球が空に舞い上がり周囲を照らす。街中で魔撃や魔弾を打ちまくる訳にはいかないので、この戦いで魔法攻撃は使い勝手が悪かった。


 ゴーストの背面から服を破り蝙蝠の翼が開くと、空にはバスティとイヴェットが現われる。


「下がって下さい!」


 バスティの叫びにベルナールは一瞬躊躇したが、ここは若い者たちに従うこととした。獲物を一撃で仕留め損ない、今の順番は最後尾に下がっていからだ。


「やりますよ~っ!」


 魔導闘士(ソーサエーター)のイヴェットが光球に剣を突き立て、バスティが降りてアレクと共にゴーストを挟み込む。ベルナールは更に下がった。


「それっ!」


 リュリュがもう一度杖を掲げると光球は更に輝きを増し、稲妻が網の目のようにゴーストを囲い込む。攻撃の出番がない魔法使いが防御を攻撃的に使用し、魔導闘士が剣で制御を加えた複合魔法技だ。


 飛びにかかったゴーストは光の網にぶつかり火花が散り、檻に閉じ込められる恰好となった。


 落ちる体をバスティが剣で突き上げ、アレクがたたき落とす。上下左右から振られる剣に、ゴーストはかわすことも出来ずになすすべなく攻撃を受け続けた。


「バスティが仕留めるのか……」


 気が付くとベルナールの傍らにアルマが来ていた。バスティたちは事前にどうゴーストに対処するか考えていたようだ。


「魔力を封じ込めに使うなど非合理的だな。力があるのなら攻撃すれば良いのだよ」

「対ゴースト用だな。完全に退路を塞いでいる」


 しかし持てる魔力には限りがある。それほどの時は稼げない。切り刻まれるゴーストは、切り取られ消滅を繰り返して小さくなっていく。そしてバスティが繰り出した最後の一撃がゴースト体を完全に粉砕した。


 イヴェットとリュリュが明かり用の光球を作り始めると、突然光の檻は消失する。戦いは終わった。


「これは複製体ですね……」


 駆けつけたレディスが両手を光らせ、ゴーストが消失した場所を探りながら相手の正体を語った。


「そうか、本体ではないのか……」


 ベルナールは落胆し周囲からはため息が漏れる。皆がこれで終り、との言葉を期待していたからだ。


「残念です……」


 ベルナールとバスティたちは目撃したゴーストの姿を説明する。特に頭部が弱点ではなかったことを付け加えた。人間体のゴーストはそこだけに顔が張り付いているからだ。


「昨夜の目撃情報によれば、街に侵入していたゴーストは一体でした。姿は合致いたしますわ」

「これで終りだと思うか?」

「次の一体を作り出すのに時間はかかるかと思いますが、それがいつかは……」

「厄介だな」


 大型のゴースト体による北東の森の制圧は、ダンジョンクライシスの発動で不要となった。ゴーストたちは作戦を切り替えたのだ。


「姑息な連中だ……」


 そして複製体を送り込み本体は闇の先に身を隠す。殺戮衝動では動かない、従来のゴーストとは一線を画している連中だった。


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