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第九十六話「再戦の幕開け」

「やっくれたなゴーストめ! どうだ? これで街を守る大義名分が出来たぞ!」


 ギスランは今夜も上機嫌であった。最悪の脅威が夜の街を包み込み、事態は新たな局面を迎えている。


「……」


 対するジェリックは何を言うべきかと考える。街に手を出さないとの当初の約束をゴーストたちは破ったのだが、それは彼らが追い詰められてきたとの証でもあった。


「中央ギルドの奴ら、外に出て戦わないのは冒険者として背信行為だ、なんて言ったがなあ――、それでこのゴースト事件だ」


 ギスランは今までたまっていた鬱憤を晴らすかのようにまくしたてる。


「今度は街を守れと言いやがった! 俺様をクビにしたくせにな。言ってやったよ、もう俺は冒険者じゃあないってな! 冒険者ギルドのお偉方が偉そうに何を言うかってな。その時にあいつらの顔ったら――」


 今日もギスランは中央ギルドに出向き、交渉と言う名の圧力を掛けていた。


「ゴーストの名前をだしたら真っ青になってブルブル震えていたぜ。それで俺に頭を下げるんだ。何とか街を守って下さい、てなあ――、わはははっ!」


 街中の安全神話は完全に崩れた。ゴーストに何かの意思があるのならば、街の防衛の要であるギルドの人間を意識して襲う、とも考えられる。


 そして一般職員よりも、より上に立つ管理職、要職に付く者が標的になる可能性が高かった。震える気持ちも分かる。それでゴーストたちは一暴れしたのかと、ジェリックは勘ぐりたくなった。


「我らはどう動くのですか?」

「城壁の警備だ。街中にゴーストを侵入させないように警戒する」

「それだけですか?」

「いや、出没の報には人員を派遣すると約束した。契約はそこまでだ」


 ギスランは中央ギルドと打ち合わせた内容を説明し、ジェリックは部下たちをどう動かそうかと思案する。


「分かりました。実力者で派遣のパーティーをいくつか編成します」

「無理はさせるなよ。俺たち以外の冒険者で街を巡回するそうだ。戦いはそいつらにやらせるんだ」

「……はい」

「適当に間を置いてから行かせろ」

「分かりました……」


 ギスランは、未だ待ちだと読んでいる。


   ◆


 ベルナールはジュリアを伴い再びシャングリラに入った。昔、店で働いていた馴染みの女性である。


 そして店はディオンに任せて街に出た。普段は歩かないような路地を行きながら、自分の守備範囲を確認する。


「おっ、ベル……」


 アルマとおなじみの相棒にばったりと会う。二人もゴースト担当になったようだ。アルマはその戦闘経験があるので当然ではある。


「ふふっ、似合うじゃないか……。下見か?」


 二人は平民服姿であり剣も下げていない。


「そうだ、王宮正装で街中をウロウロでは目立ちすぎる。そういえば紹介がまだだったな。オーウェンだ」


 アルマはぞんざいに相棒を紹介しする。互いに信頼し合っている関係だとベルナールは納得した。


「うむ、知らない街を守るのは、気が乗らんかもしれんが、よろしく頼むぞ」

「いえ、この国の街ならばどこも故郷のようなものです」


 この少年もまた貴族であり騎士なのだ。


「さて、状況は分かった。どこかでスイーツを食べてホテルに戻って武装だ」

「なんでスイーツなの?」


 アルマはまだ甘味にこだわっている。街のホテルを宿舎代わりとしているが、デザートだけでは物足りないのだ。


 私的な外出は制限されているので、私服姿でこのような下見でも、羽を伸ばしたような気分にもなれるのであろう。


「夕食は各自とること、とはレディスの指示である」

「それでスイーツ?」

「グズグズ言うな!」

「僕はマーケットの屋台が良いんだけどな」

「野戦食とたいして変わらんではないかっ!」

「いーや、ずっと美味しいよ!」


 これから伝説の殺人鬼と対峙するのに、なんとも呑気な少年と少女であった。貴族とは恐怖を克服する為に、幼少の頃から鍛えられているのだ。気が付けばそれが普通の少年少女になってしまう。


「ベルはどうするのだ?」

「俺は担当する店で賄いをもらう」

「おおっ、私はそれでも良いぞ」

「ここからちょっと遠いな。それにもう時間がないぞ」


 さすがにあの(・・)店に子供は連れて行けない。もう時間がないのは事実である。


「スイーツでもなんでも早く食事を済まして戻ろうよ」

「それは残念だな……」


 ベルナールはみるみる青さを増す空を見上げた。宵闇はゴーストの世界への入り口だ。


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