表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/116

第九十一話「離反する冒険者」

 ロッティがやって来てベルナールの姿を見咎めた。戦いは小休止であるが情勢は今も動き展開している。


「ベルナールさん。中央からの伝令を持って来ました。ギルドマスターから御同行して頂くように申しつかっております」

「分かった」

「私も行きます」

「ええ、ぜひ」


 ベルナールに続きセシールも立ち上がった。ロッティとセシールは、今日は一日同じ配置で警戒していたのだ。


「二人共、学校がお休みなら明日もギルドで待ち合わせね」


 この騒ぎの中で学校は休校となるだろう。アレットとロシェルを見送ってから、三人は作戦室になっている二階へと階段を上がる。


 エルワンがベルナールたちを出迎えた。後では中央、東西北の職員が冒険者パーティーのリーダーらと打ち合わせをしている。


「各ギルドの機能の一部をこちらに移したのです」


 隣室に案内され、皆は大きなテーブルを囲む丸椅子に腰掛ける。


「この建物がレ・ミュロー対策本部となります」

「ん?」

「ああ、レ・ミュローです。北東新ダンジョンの名前ですよ」

「そんなことばかりギルドは仕事が早いな」

「もう決まっているんです。リストを初めて見ましたが順番に十いくつまで名称があるんです」

「何だと?」

「昔はここに次々と新ダンジョンが開くと考えられていたんですね。たぶんその名残ですよ」

「これから次々に開くなんて、冗談じゃないぞ……」


 あるいは人為的に開口するつもりだったかだ。しかしその計画は中止された。そして今日、何者かの手により新たな(マウス)が現われた。


「それはさすがにないでしょう。それにしても困りました。思ったよりも人が集まらないんですよ。明日になれば――」

「すぐにこれ以上の増援は期待出来ません。しばらくはこの戦力で戦って欲しいと中央ギルドで言われました……」


 エルワンの言葉を遮り、ロッティは自分の責任ではないが、申し訳なさそうに言った。続いて指示書を差し出し、受け取ったエルワンの顔が怪訝(けげん)に歪む。


「ギスランのパーティーは参加しないだって?」

「はい、街の防衛に徹するとかで……」

「ばかな!」


 それは、かつてベルナールと共にダンジョンで戦っていたベテランの名前である。今は同じく元冒険者となり、パーティーを組織して多くの冒険者たちを束ねていた。そのリーダーが中央ギルドの指示に逆らっているのだ。昔からそんな奴だったとベルナールは思い出した。


「しかし無理矢理戦いに参加させる訳にはいかんだろう……」


 ギルドと冒険者は主従関係にはないので、無謀なクエストは断れるし無理強いは出来ない。その辺りは命令系統がはっきりしている軍とは違うのだ。だから戦わないとの選択もある。


「おかしいわ?」

「ん? どうした?」


 セシールは思い出したように言う。


「フィデールたちのパーティーも来ていないのよ。それにあの辺りの領地出身の冒険者たちも姿が見えない」


 なかなか人手が集まらないのはそのせいなのだ。二つの勢力が独自の考えで動いている。


「彼らはブランシャールの領地を防衛すると言っているそうです」

「なんて勝手なことを……」


 ロッティの説明に、街が壊滅してなんの領地かとエルワンは憤る。二人はギルド側の人間だ。気持ちは分からなくはないが、ベルナールとしてはギスランの判断も完全な間違いとは言えなかった。


「仕方ない。しばらくは手持ちの戦力でやるしかないだろう」

「しかし……」


 エルワンは今後のやりくりを思ってか、半ば呆然としていた。


「しばらくは現状の維持に徹する。アンディックが連れてきた者たちは強力だ。時間を稼ぐぞ!」


 戦わない選択。しかし冒険者の本質はそれを許さないであろう。いずれ所属する冒険者たちが、この一大事に続々参加するとベルナールは考えていた。


 入室して来た職員が青ざめた表情でエルワンに報告書を差し出す。


「死亡が一名に怪我人が三名です――」

「何だと!?」

「森で出会い頭にB級と遭遇したそうです……」


 久しぶりにこの街が経験する犠牲であった。


   ◆


「それじゃあ、私も帰るわね」

「ああ、また明日にな。セシリアに、明日も出ろって念を押しといてくれ」

「あはっ、街の――、店の危機だし機嫌が悪くても来るわよ」

「まあな」



「ベル……」


 セシールを見送ったベルナールは後から声を掛けられた。


「レスティナ、御苦労だな」

「ううん、私たちにはこんなことしか出来ないし……。私は先代からの決まりを受継いだだけ」

「立派だよ」


 シャングリラは今夜もいつもと変わらずに営業する。激しい戦いのあった夜に、店は客で賑わう。


 そして今日死の淵に立たされ、心が折れた冒険者たちも明日は再び立ち上がり、魔物の群に挑むのだ。



 薄暗くなった街の通りをベルナールは歩く。昼間は外に溢れていた民衆は、今は家に閉じこもっているようだ。


「ギスランか……」


 あの男は自分とは違うタイプの冒険者であった。ベルナールは昔なじみの冒険者の顔を再び思い出す。


 ギスランのパーティーとおぼしき冒険者たちは、街の城壁の上に点在し松明を掲げていた。いかにも街を防備していると振る舞っている。


 これはこれで街の住人の安心に繋がるので良い。探査を使い警戒をするのでまったくの無駄ではないのだが、問題の本質は城壁の外なのだ。


「あいつ、何を考えているんだ……」


 そして森の中に踏み留まり戦う、冒険者と若き騎士団たち。本来街を守っているのは彼らで、ギスランのパーティーは実質無為なアピールをしているだけだった。


「いや……」


 しかし夜間に活動する魔物もいる。先日退けたばかりの最悪の連中だ。


   ◆


 ベルナールはいつものようにギーザーを訪ねた。こんな時でも習慣は変わらない。


「聞いたよ、御活躍だったそうじゃないか?」

「でもないよ。アンディックとセシリアに助けられてばかりさ」


 そして今夜も出されたビールを美味そうに飲む。


「昔と同じでけっこうじゃないかい」

「ああ、しかし犠牲が一名でた」

「そうか――」


 マスターは沈痛顔つきになる。どこかの店の常連客が一人消えてしまったのだ。ベルナールもその店の今夜の状況に思い至った。


「ギスランのパーティーがだんまり(・・・・)を決め込んでいるらしい。何か聞いてる?」

「いや、あいつは昔から計算が先に立つんだよ。魔物は本能で狩るものなのにな。今もそうなんだろう」

「計算か……」

「大組織のボスにはお似合いなんだがな。こんな時にも計算さ……。バカな男だよ」


 ベルナールも本能で戦い、デフロットとて本能に従いゴーストとの戦いを避けたりもしていた。しかし本能に従わず、つねに計算して行動する冒険者もいるのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ