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第九話 「レベルアップへ」

 ベルナールはアレットとロシェルを伴い北の森へと入った。


 まだこの戦力でダンジョンには潜れないので、地底から湧いた魔物が出没する地域へと向かう。いつも小物を狙っていた場所だ。



「ロシェルはこれを使ってみろ」


 ベルナールは自身で修理調整したセシリアのお下がりを差し出す。


「弓~~?」

「うむ、おまえの魔力はこれ向きだ。弓使い(アーチャー)を目指してみろ。使い方を教える」

「はいっ~!」

「あの、師匠! 私は……」


 様子を見ていたアレットは不安そうに言う。


「今まで通りに剣を使え。おまえは剣士(フェンサー)を目指すべきだよ。今の短剣で訓練すればそのうち剣に持ち替える時期がくる」

「はっ、はい!」


 ベルナールは弓の基本動作をロシェルに教え、巨木を的に近くから射る練習をさせる。


 まだ魔力を利用しての攻撃ではなく、ただの射的だ。


 実際の戦いは、矢に様々な魔力を充填して魔物を狙うのだが、それはまた次の段階だった。


 続けてアレットには剣の基本動作を教える。


「いいか、小物は地上を走り攻撃を仕掛ける。この場合は剣を低く構える。やってみろ」

「はい」


 アレットはベルナールの型をまねる。


「そして低く剣を振る」


 更にまねる。彼女の剣はまだ短剣だが今、少しでも重い剣を使えば型は崩れ、かえって剣筋は乱れ回り道となってしまう。


 まずは構えと振る動作を覚えることが必要だった。


「この時、剣は向かってくる敵の動線に合わせるように振る。斜めでもいいぞ」


 アレットは真剣な表情で動作を繰り返した。


「斜め切りは左右交互に試してみろ。剣は振り抜く場合もあるが、敵に向けたまま止める場合もあるな。その時は突きの動作に移るが、今は振り抜くだけをやればいい」


 接近戦の場合は常に切っ先を敵に向ける必要がある。


 ベルナールはロシェルの元へ行き、もう少し的から離れるように伝えた。当たるか当たらないかの微妙な距離の方が、より緊張感を持って訓練できる。



 午後は獲物になる小物を探した。魔力を持つ者同士、冒険者は魔物を探知できる。


 地から湧き上がる魔力が核を作り、森の小動物に擬態し魔物に変わる。


 それは、今は小物であっても大物まで成長する場合もあった。ダンジョンの下層では地上の数倍の速度で魔物は大きくなる。


 獲物を見つけてロシェルに射らせ、ベルナールが矢に魔力を掛ける。


 目がついているように獲物を追尾した矢は見事に命中し、ロシェルは驚いたように目を見張る。言葉が出ない。


「これがパーティーにおける弓使い(アーチャー)の仕事だ。矢と共に魔力を放った後も、目で目標を見据えて集中するんだ」

「はいっ~」

「この程度の小物でも矢で仕留めるのは難しい。(とど)めは剣士(フェンサー)の仕事だ」

「はっ、はいっ」


 (ほうけ)たようにけたように成り行きを見ていたアレットが、慌てて獲物に駆け寄り止めをさした。ベルナールはその場に歩み寄る。


「もう少し魔力が上がれば、お前も剣を使って魔力を飛ばせるようになるぞ。魔撃だな」

「私でもできるようになりますか?」

「もちろんさ」


 アレットは弾けるような笑顔を見せた。



 実戦も兼ねながら小物を何匹が仕留めて、ベルナールは、今日はもう終りだと二人に告げる。


 三分割してもけっこうな報酬になるだろう。農家の貴重な現金収入だ。


「今度ダンジョンに潜ろうか?」


 矢を回収しながらベルナールは二人に向き直る。今日の出来ならば上層の見学ぐらいならば問題はないと判断した。


「私たちにはまだ早いです~」


 ロシェルが抗議するように両手を握りしめて言う。アレットは元来の性格か目をキラキラと輝かせていた。


 この二人の違いはパーティーを組めばよい相乗をもたらすと、ベルナールは思う。


「心配するな、見学だけさ。中を見ておけば訓練でも戦いをイメージしやすいからな」


 ところで、と思いベルナールは周囲を見回して集中した。


 風に揺れ、ざわつく木々の囁きが聞こえるだけだった。魔力は聴覚に作用させることもできる。


「それにしても今日は同業者の姿が見えないな?」


 午後のここは、いつもは大物に会敵できなかったパーティーが、帰りがけ訓練も兼ねて小物を狩っているのだ。


 戦っている物音が何も聞こえなかった。


「あっ、師匠。実は今日、未確認開口部(ロスト・マウス)からAかB級らしき魔物が何匹か出てきたらしくて、皆そこに行ってるみたいですよ」

「なんだと?」

「私たちの村でも皆が話してたよ~」

「そうか……」


 やはり毎日ギルドに行っていないと情報過疎になってしまう。


 そう思ってからベルナールは苦笑した。もう冒険者ではないのに、長年体に染みついた癖はそう簡単には消えはしない。


「場所はどの辺だ?」

「ラ・ロッシュの北東だと……」

「よし、おまえたちは魔核を持って帰れ」

「師匠はどうするんですか?」

「AかB級の件、ちょっと様子を見てくるよ。苦戦している冒険者たちがいるかもしれんしな」

「私たちは……」


 アレットは少し行きたいそぶりを見せた。


「俺一人なら逃げるのも簡単だ。おまえたちは帰れ」


 足手まといと言うつもりはないが、さすがにこんな危険が伴う気まぐれに巻き込む訳にはいかない。


 ロシェルとアレットの二人は渋々といった雰囲気だが素直に従った。


「まあ、もう遅いしちょっと様子を見に行くだけさ。しばらくはここで特訓だ。これからの予定を合わせよう」


 打ち合わせをして学校と農作業が休める日を確認する。明後日の早朝にギルドで待ち合せとした。報酬の精算もその時とする。



 ベルナールは一人で間道に出て北東へと向かった。途中、引き上げてくるパーティーに様子を聞く。


 どうやら敵はとてつもないスピードを持ち、移動しているようで捕捉が困難な相手のとのことだった。


 北だけではなく東の開口からもパーティーが来ているそうだ。


 更に進むが人気はもう感じない。北東に散らばったパーティーたちは、そのまま様々な間道を引き返しているようだ。日が傾き森に宵闇が迫りつつあった。


「今日はここまでにしておくか……」


 ベルナールは一人そう言って踵を返す。


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