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第八十六話「ギルドの喧騒」

 空を飛ぶベルナールは十数の冒険者パーティーとすれ違う。エルワンが早速に第一次の増援を派遣したのだ。


 北と東の中間地点にビッグ・ダンジョンの開口部が開いたとの情報が流れ、街は騒然としていた。街の端に降り立ったベルナールは、人混みをかき分けて進む。


 ギルドに帰り着くと、エルワンは職員たちにテキパキと指示をだしていた。


「あっ、ベルさん」

「状況は?」

「今、増援と斥候のパーティーを何組が派遣しました。森での遊撃戦と指示を出しましたよ」

「それでいい」

「全冒険者に招集を掛けています。さっき開口を目撃した者から聞きました。御活躍でしたね」

「ステイニーたちのおかげさ。あれは物量を叩き込まねば封鎖できん。それまで時間を稼ぐしかないぞ」

「ええ、戦力をかき集めています」


 ベルナールはカウンターに置いてある用紙に開口の図面を描く。


「助かります。よく全景を見られましたね。下への回廊は一つで、二階層分の高低差か――」


 エルワンはその紙を手に取った。奥からギルドマスターを呼ぶ声が飛ぶ。


「ちょっと失礼」


 そして他の職員に呼ばれて奥に行く。ダンジョンの守備隊から来た伝令が慌ただしく入って来て、出迎えた職員と共に奥に行く。ギルド内は喧騒に包まれていた。


「ベルさん……」

「ああ、セシール」

「これからどうなっちゃうの?」


 セシールがそばに来て、アレットとロシェルも不安げにベルナールを見上げる。


「しばらく通常クエストは中止だ。全ての戦力をダンジョン戦に投入する。なあに大丈夫さ……」


 ここがダンジョンの地だと人々が忘れて久しい。本来はいつどこで口が開いてもおかしくない街なのだ。


 再びエルワンが深刻そうな顔でカウンターに戻って来た。


「まずいですね。ラ・ロッシュでは魔物が活性化しているそうです」


 それが新ダンジョン出現の通例であり、他のダンジョンも同じ状況に見舞われているはずだ。大地の震えが、通常より多くの魔力放出を引き起こしたゆえの現象である。


「守備隊は抽出できないし、冒険者も全員はこちらに回せないと言ってきましたよ」

「仕方あるまい」


 ラ・ロッシュには北ギルド全体の三分の一ほどの冒険者が滞在している。マークスがそう判断したのならばそれが限界なのだろう。


「一部の冒険者で森の中を北から東に向けて進撃させるそうです。東からも同様の圧力を期待出来ますよ」


 新開口は北東とはいっても北に寄っている。それぞれのギルドが協力し(マウス)付近を押さえ込むのだ。


「うむ、我々は正面の森に阻止線と警戒線を作ろう。開口封鎖は資材と守備隊の手当がついてからだな」


 しかし東のダンジョン、サント・ロペも西のシス・フールも同様であろう。しばらく援軍は望めない。ベルナールは意外にも冷静に語るエルワンに驚いた。さすがギルドマスターだと内心感心する。


「あっ!」

「ん? どうした?」


 エルワンの反応にベルナールはその視線の先を振り返った。セシリアがゴーストを追い回していた時の姿でギルドに入って来たのだ。傍らにはあの時の女性職員が同じような恰好で付き添っている。


「どうしたんだ?」

「また借りてきたのよ」


 セシリアはそう衣装の話をしたが、本題は別にある。


「協力してくれるのか?」

「当然じゃない。こんな状況じゃ営業なんて出来ないし、店を守る為なんだから」

「ふふっ、そうだな」


 隣の女性職員は頑固なほどに相変わらず無駄口を開かない。あの(・・)衣装部屋から装備品を引っ張り出したようで剣も下げている。


「あんたも戦うのかい?」

「はい、このような状況ですから。中央ギルドからは北ギルドの指揮下に入り、マスターを補佐するように言われました」

「助かるぞ!」

「いえ……」

「ロッティ、早速だけど君には警戒線の指揮をとってもらいたい。これが計画書だ」

「はい」


 エルワンが一枚の用紙を手渡す。王都から来てるとベルナールが睨んでいた女性はロッティという名だ。


「外に集まっているベテランたちが協力してくれるよ。なあに、要領を知っている人ばかりだから上手くやってくれる。早速取り掛かってくれる?」

「分かりました」


 エルワンの説明に、返事を返したロッティは外に飛び出して行った。


「セシール、ベルの面倒は私がみるから。あなたは子供たちと一緒に行って」

「分かったわ」

「私たちが行ってもいいんですか?」

「い~の~?」


 アレットとロシェルは意外な顔をしたが、今はたとえ駆け出しであっても重要な戦力である。


「総力戦だからな。ただしお前たちは警戒線までだ。慎重にな……」

「大丈夫、無理はしないから」


 本来は前線で戦いたいであろうセシールは、不満を口にも顔にも出さずに気持ちよく了承してくれた。姉貴分として責任を感じているのであろう。


「ロッティさんの指示を聞けばいいのね。さあ行くわよ!」

「はいっ!」

「はい~!」


 セシールたち三人もロッティを追って外に出る。


「ベルさん、追加の部隊の編成が完了しました。一緒に行ってくれますか?」

「もちろんだとも、俺たち行くぞ!」


 ベルナールが外に出るとギルドの前では大勢のおっさん(・・・・)たちがたむろしていた。


「その切は御世話になりました」


 そう声を掛けてきたのは食肉を手広くやっているレイラスだ。


「最近は御無沙汰で申し訳ありませんでしたね」

「いや、よく考えたら誰かの仕事を横取りしたみたいだしな。今もクエストの手伝いで十分食えてるよ」

「すいません」

「気にするな」

「ウチらも動員されましてね。昔の冒険者仲間たちに声を掛けました」


 レイラスは後ろには十数人の元冒険者たちがいた。昔見た顔もある。


「しばらく肉の配達は中止にしてね。騒動が終わったら、また頼むわ」


 セシリアはこんな状況でもマイペースに商売の話を始める。


「はい。こっちも仕入れが出来ませんから……」

「それもそうね」


 酒場のマスター、エレネストもいた。


「おっ、のマスターも出るのか?」

「私たちは警戒線の手伝いですよ。封鎖に加えろ、って言ったら、客の若造たちに怒られる始末です。無理するなって」

「はは、長引くかもしれんしボチボチやろう」

「小物くらいは狩れますから、少しはこっちにも回してまわして下さいよ」

「ダメよ。全部私が倒しちゃうわ」


 セシリアの軽口に皆が笑う。元冒険者で同じ飲食関係の同業者同士でもある。


「さあ、こんな騒ぎは早く終わらせて、さっさと商売に戻りましょうか」


 警戒線の部隊がロッティに率いられて移動を開始した。


 ベルナールとセシリアは空を飛び先行する。他のギルド、ダンジョンの街から集まった冒険者パーティーがそれに続いた。新ダンジョンを巡っての、長い厳しい戦いが始まったのだ。


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