第八十三話「仲間との絆」
ディオンの休校とアンディックが休暇の一週間、ベルナールたちは森やダンジョンでクエストをしつつ訓練に励んだ。
アンディックの指導により、ロシェルは弱いながらも障壁魔法を使えるようになった。アレットは剣に帯びた魔力を飛ばせるようになり、ディオンは双方共に元々出来たのだが、更に残存させる技術を身に付ける。
一週間はあっという間に過ぎ去った。
「また顔を出せよ。近くなんだからさ」
「ええ、部下の訓練も順調ですし、ぜひそうさせてもらいます」
いつものようにギルドの前で待ち合せた朝、今日は一時の別れの場となった。
「ディオンも強いので驚いた」
「いえ、僕なんてまだまだです」
そう言って謙遜するが実力はなかなかである。日々森の中での、たった一人の訓練が実戦で開花したのだ。
「今度会う時は私たちの方が強くなっているわ」
「また戦お~!」
戦うたびに強くなる少年の姿を見て、アレットもロシェルも今まで以上に真剣になった。
「うん、また来るよ」
受け入れられたとの安堵か、自分の強さを確認出来たからなのか、ディオンの表情は晴々としていた。
「君たちがもし、もう少し大人になって王都に行ってみたいと思ったら、ぜひ挑戦して欲しいな」
「おいおい、引き抜きは勘弁してくれ。俺がまたひとりぼっちになっちまう」
アンディックとしては、戦力は少しでも欲しいところだ。しかしベルナールは仲間が一人二人と、この街を離れていった寂しさを思い出してしまった。
「はは、そうですね。だからベルも王都に来ればいいんですよ」
「俺はこの街が好きなんだ。いや、王都がほんとにヤバくなったら声を掛けてくれ。その時は駆けつけるぞ」
「はい、そうならない為の、部隊の訓練でもありますけどね。その時は声を掛けますよ」
別れの握手を交わしてからアンディックとディオンは歩き出す。二人は一度振り返ってから手を振って帰って行った。
「ベルさんもお母さんも、昔行ったことがあるんでしょ?」
「ああ、期間限定だったし、この国の危機だったからな。好き嫌いは言ってられない」
「王都ってそんなに危険なのかな?」
セシリアの子供、セシールの二人の兄は、今は王都で暮らしている。心配なのであろう。
「いや、そんなことはないが、時々危機に見舞われる」
「ふーん。王都なんだから普通は安全だって思うけど……」
「理由は色々だ。他国の陰謀を疑う奴もいるが、そもそもこの国で一番危険な場所だからこそあの地を王都にしたとの説もある。本当のところは分からんよ」
セシールも王都に行きたいのかと思ったのか、しかし母親と二人で店を守るが彼女の思いだ。あそこは死んだ父親との思い出の店でもある。
もし本人が行きたいと言えば、セシリアは背中を押すであろう。それが分かっているからこそ、互いに言えないのかもしれなかった。
「あれが噂の勇者かい?」
「ん?」
いつもの声に、ベルナールが振り向くとデフロットが立っていた。ギルドの前にはパーティーの仲間たちが待っている。
「ああ、昔の仲間だよ」
ふとベルナールは彼らもいつか別れて、そしてまた再会するのだな、などと思った。
「ふん、俺たちは死ぬまでパーティーを解散したりしないぜ――」
「そりゃけっこう……」
「――とは言っても色々あるか……。俺一人で決めることじゃないな」
「そんな気持ちが大事なんだよ」
先のことまで考えるとは、若いのに感心ではある。デフロットも色々と苦労してきたのかもしれない。
「……」
「どうした?」
「いや、ステイニーが挨拶したいな、なんて言ってたんだよ。魔法使いだしな。俺は王都の偉いさんに媚びるみたいだから止めとけって言ったんだ」
王宮魔導師たちはこの国の魔導士と魔法使いを束ねる存在でもある。
「バカだなあ、つまらない意地などはるな。話すだけならなんのことはないさ。俺の仲間だぞ」
「バカはねえだろ。そのうちにって思ってたら……」
「近くで訓練の面倒を見ているんだ。また顔を出すからその時に声を掛けろ」
「悪いな」
「お安い御用だ。気にするな。ところでバスティたちは最近見ないが――」
せっかくなのだからアンディックとバスティたちの再会も見たかったが、結局この一週間で会うことはなかった。
「西の森や山岳部に行ってるそうだ。酒場には来るけどな」
「そうか……。仲間が待ってるぞ」
デフロットはチラリと後ろを伺う。
「ああ、じゃましたな」
そして手を上げながら仲間の元へと駆けて行った。
「母さんの結婚が解散の理由だったの?」
「いや、そればかりでもないよ。離れていても仲間には違いない。本当の仲間になった時パーティーの解散はやってくるのかもな」
我ながらおかしな持論だと思ったが、今にして思えば本物の絆が出来たからこそパーティーと呼ばれる単位が不要にもなった気もする。それともパーティーが解散したからこそ、今のセシリアやアンディックとの絆が深まったのかも知れない。
「さて、今日はどこに行くか?」
ちょっと感傷的になりすぎだと、ベルナールは明るい表情を作って二人の弟子を見る。
「ダンジョンに行きたいです」
「ダンジョン~!」
あの狭い空間で魔物と戦う楽しみが少しだけ分かったらしい。ここはダンジョンの街、サン・サヴァンである。




