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第七十八話「そろい踏む勇者たち」

「もう何もいないか」

「そうね、完全にこの地を去ったか、あるいは――」

「まだどこかに潜んでいるかだけど、俺たちには探す術もないか……」


 ゴースト騒ぎが収まった北東の森でバスティとアレクが周囲を見回しながら話をしていた。


「ダメですね~。痕跡もありませんよ~」


 東側を探索していたイヴェットが戻り着地する。続けてリュリュも北から帰還した。


「北にも何も感じません。完全に消えてしまった感じです」

「うん、この周辺もさ。もっと北に移動して続ける?」

「いえ、身を隠すつもりならば徹底しているでしょうし、もう無理ね」


 アレクはあきらめたような顔つきで探索の打ち切りを示唆した。


「だよなあ……」


 そもそも気配を消して人間を殺戮するのが幽鬼(ゴースト)である。バスティたちはもう何日もこの場所に来て痕跡を探っていた。そして今日も空振りだったのだ。


「あきらめるか……」

「ただB級の上位が一体いましたよ。ちょっと北の先ですが」


 約束の時間にはまだ少し間がある。リュリュの見つけた獲物を狩るぐらいなら、時間潰しにちょうどよい。


「せっかくだし狩っていきましょう」

「俺たちは冒険者だしね」


   ◆


 軽く魔物を倒した四人は、今度は西へと飛ぶ。眼下の森ではあちらこちらで幾多の魔物と冒険者たちが戦いを繰り広げていた。


 高々度から空気を捉えて滑空しつつ、着地場所を探る。


「いたな、休憩中だ」


 目的の人物を見つけて、四人は降下を開始した。



「よっ! バスティ殿。遅いぞ!」


 ランディーはいつもの口調で右手を上げる。傍らには相棒のアンジェがいた。


「時間通りだよ」

「そうだな、今日はヒマなんでこっちは早く着いた。そっちはどうだい?」

「B級の上位を一体だけ」

「こっちはB級の中位が一だ。アンジェが一人で切り刻んじまった」

「へー、支援もなしで?」

「はい、ランディーがやってみろと言うもので……」

「おー……」


 二人一組の訓練中なのに剣士(フェンサー)のアンジェに単独で戦闘させるのは越権の命令違反ではあるが、ランディーにも考えがあってのことだ。


「二人で戦ってても俺が先に倒されちまう時だってあるだろ? 気を失っていてもアンジェが一人で頑張って二人は助かるって訳さ」


 そう言い、ふざけたように片目をつむる。成長の度合いを見極める、試験のような意味合いがあったようだ。野戦の訓練は順調に成果を上げている。


「そっちの様子はどうだ?」


 そう言ってバスティに話を振った。こちらも重要な話である。


「ゴーストは今日も空振りだね」

「気配を消すのが専門みたいな奴らだからな。副団長が仕留め損なったんだ。これ以上の戦果はちょっと無理だよ」


 ランディーは首を振る。対ゴーストの専門家であるレディスの全力でこの結果ならば最善と言えた。


「それはそうと今日あたり、やっと団長が到着するんだ」

「そうかあ、やっとか……」


 バスティたち四人は、王都の新ダンジョンで何度もその姿を見ていたし会話も交わしていた。ついに三人がこの街、サン・サヴァンにそろい踏みだ。思い出すだけで頬が緩んだ。


   ◆


 一見して冒険者ふうの男が軍の駐屯地を訪ねる。緩やかなウエーブの掛かった髪を後ろで束ね、軽装甲を身に付けマントを羽織ったその姿は冒険者そのものであった。


 作業をしていた兵は一瞬手を止めてその男を見るが、特に誰何(すいか)などはしない。何もないように作業を続ける。



「団長! やっと来てくれましたか!」


 駆け寄るのは副団長のダレンスだ。走らずともと良いだろうと男は微笑した。


「作業は順調のようだね」


 一見しただけでも、開拓地としての整備は進んでいた。団長と呼ばれた男は、そう言って改めて周囲を見回す。


 切り倒した木を馬が引いている。適度の長さに製材され荷馬車に乗せられていた。


「ええ、訓練もですよ。ゴースト討伐の報に兵たちも沸きました」

「うん、王都もだ。この件については王政府も満足しているよ」

「下はいかがですか?」

「ダンジョンは小康状態だよ。守備隊に任せておけば安心さ」


 二人は開拓地を歩きながら話を続け、会議などに使う一番大きな天幕へと向かった。


「報告書は読んだが、詳しく聞かせてもらえるかな?」

「もちろんです。レディスもじきに戻りますから。あっ来たようですね……」


 空に二人の若い騎士を従えて接近する点が見えた。中央がレディスだ。



「ゴースト体は倒しましたが本体には逃げおおせられました。彼らはまだこの地に留まっておりますわ」

「分かった。ゴースト体を倒したのなら上出来だよ。本体の戦力などさほどではない。御苦労だったね」


 悔しそうに話したレディスの表情を見つめながら、男は慰めるように言った。


「いえ、その狙いが何であるか絞り込めませんでした」

「殺人衝動以外の何か、か――。我々にとってロクなことではあるまいがね。まだあきらめていないのならば、そいつ目算は立っているのかな?」



 駐屯地に一泊した男、団長は気ままに森の散策を楽しみながら少数の魔物を倒す。そして森を抜けてからシャングリラ開拓地を訪ねた。


 気が付いた村の者たちが集まり始め、事務棟でひとしきりを過ごした。歓待を受けた男は、女性たちから別れのキスの嵐を受けてその地を後にする。


 昔からモテまくる男であったのだ。そして懐かしい街、サン・サヴァンへと向かった。

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