第七十七話「新たな剣」
ギルドで待ち合せたベルナールたち四人は馴染みの武器屋を訪ねる。
「これは、これは……。おそろいだな。今日は何だ?」
小さな店の壁には剣、弓などの武器が掛けられ、店主の老人はいつものように店の奥に座っていた。
「この娘用の剣が欲しいんだよ」
「いつものだろ? 勝手に見るんだな。言っとくが掘り出し物はないぞ」
「分かってるさ」
ベルナールたちは建物横の路地に入る。この店は一階の奥と二階が老夫婦の住居となっていて、更にその奥には倉庫があった。
ベルナールはかんぬきを抜いて扉を開ける。そこには古びた武器が山のように置かれていた。
剣、弓、防具などかつて戦に使われ、持ち主がこの世の者ではなくなってここに来たいわく付きも含まれているに違いない。
「もしかしてこの中から探すの?」
「ああ、掘り出し物があるぞ!」
「呆れたわ……」
パリッとした新品を買ってプレゼントするなど考えるのが女子なのだろ。しかしベルナールはこんなことがたまらなく好きなのだ。
程度のサイズを指定して、全員でボロ剣漁りが始まった。
「魔導剣の区別はつくか?」
「もちろんよ」
一般人の使う剣は鉄器だけとなるが、冒険者が使う剣は中に魔核を仕込んでいる魔導剣だ。弓も同じで魔導弓となる。
「これはどうですか?」
「違うなあ……」
「これ~」
「違うわねえ……」
アレットはベルナールに、ロシェルはセシールに聞きながら全員で剣を探した。
結局、候補が五本、地面に並ぶ。
「う~ん、これがねえ……」
セシールは見た目を気にするが、錆びて薄汚れているがこれを手入れすれば見違えるのだ。
「今、アレットとロシェルが使っている短剣もこうやって手に入れたんだぞ」
「そうでしたか」
「凄~い!」
「そうなの?」
アレットとロシェルは驚きで感謝を表すが、セシールはまだ懐疑的だ。
「さあアレット、一本ずつ手に取って振ってみろ」
「はい」
その動作を見つつ、重さとバランスが適切か判断するのだ。
「両手でもやってみてくれ」
アレットは言われるままに、訓練での動作を繰り返す。教えを頑なに守り崩さない。
「うむ、他の剣もやってみてくれ」
五本全てを試してからベルナールはその中の一本を手に取る。
「どう思う?」
セシールは剣を受け取って何度か振った。
「魔核が大きいみたい。それに変な癖もないわ。ただこれじゃあねえ……」
そう言いながら錆びて薄汚れた剣を眺める。
「俺が手入れすれば新品同様だよ」
◆
休みとなった翌日、ベルナールは早速剣の手入れに取り掛かる。水とブラシで泥と錆を落として研ぎをかけ、グリップやガード部分も入念に磨く。
細身の両刃剣で重心はやや中央寄りである。簡易な装飾も施されていて、魔核は三つほど内蔵されているようだ。
内部の魔核は使用者の発する魔力を一時的に溜め、そして攻撃力となり放出される。
手入れをしながらベルナールは前の持ち主はどのような人物だったかと考えた。
「やはり女だな。切っ先の早さが持ち味でこの剣を選んだか……」
そのように剣を振るアレットの姿が頭に浮かぶ。偶然にもこの剣に出会えたことを喜んだ。
「こんにちは、やってるわね」
顔を上げると街娘姿のセシールが立っていた。昼食の入ったバスケットを持ち、年相応の可愛らしい装いである。
「もうこんな時間か」
「食事にしましょう」
「ああ」
セシリアが作ってくれた、カットされた果物と野菜にチーズ、分厚いベーコンが挟まったサンドイッチ。心づくしの昼食である。
二人で食事を済ましてから再び作業に戻る。セシールは剣を手にとり、そして構えて振った。スカートがヒラヒラと揺れる。
「これ、いいわね! 見違えたわ」
「だろ? 鞘もだぞ」
武器屋でお古の鞘を手に入れ長さを調節した。磨き上げた革は光沢を帯びている。
「まるで使い込まれた、ベテラン冒険者の愛用品みたいね」
「これがいいんだよなあ……」
ベルナールは褒められ満足げに頷いた。それにしてもと、改めてセシールの服装を眺める。
本当は弟子のために服でも買ってあげれば、と思わなくもないが、俺は戦の師匠だとその考えを打ち消す。
「何?」
「いや、俺は師匠で、お前はセシール姉さんだよな」
「そう、二人は可愛い妹よ! 何よ、突然……」
「いや、今日はお姉さんらしい服装だなと思ってな」
「そんな褒め方しか出来ないのねえ……。そうだ、今度冒険者の女子会に二人を呼びましょうか。それがいいわ!」
「なんだ、そりゃ?」
「女の子で集まってパーティーの男の悪口を言い合うの。ストレス解消の会よ」
「勘弁してくれよ……」
恐ろしい集まりがあったものである。
◆
新しい剣を手にしたアレットは、気持ち的にも動きが一段上がった。今日のクエストも既にB級下位の魔物を二体倒している。
「良いわね。アレット、ちょっと重いでしょ?」
「はい、セシール姉さん。でも大丈夫です」
「うん、その重さに慣れたらまた強くなれるわ」
「はいっ!」
一方ロシェルは、のんびり屋さんに見えて、ちょっと複雑な心境のようだ。今までアレットと共に横並びに成長してきたので、置いてきぼりにさたようにでも思っているのだろう。
「ロシェルの場合は弓使いだから魔導弓が必用だが、もう少し身長が伸びてからだな。その時は俺がとっておきのを選んでやるよ」
「はい~」
サン・サヴァンでは穏やかな日々が続いていた。




