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第七十三話「それぞれの惜敗」

幽鬼(ゴースト)が討伐されただとっ?!」


 巨大冒険者パーティーの根城。その三階にある執務室で、ギスランはいつもの胴間声で叫んだ。


「はい、先ほど北東の森が封鎖解除されたそうです」

「何なんだ――いったい……」


 腰を浮かせて驚きの声を上げたギスランは、呆れ顔で再びソファーに身を沈める。


「A級下位のヒュドラ、B級上位のワイバーン、サイプロクスを討伐したそうです」

「ゴーストめっ! 口ほどにもない。これで終りだと?!」


 ギルドは、ゴーストは誤認であり脅威は去ったと正式に発表した。誤認は欺瞞だが脅威の排除は本当なのだろうし、そうならばジェリックとしても歓迎できる。しかし――。


「我々の前に現われていたのは小鳥でした」

「むっ、そうだ! その通りだ」


 殺人鬼とまで言われて、伝説となったゴーストが小鳥の訳がない。それでは冒険者などの脅威にはならない。排除されたのは脅威となっていた別の体だとジェリックは想像した。


「倒されたのは大型の魔物体。しかしあの小鳥こそが本体なのでは?」

「まだ終わってはいない、と言うことか……」

「はい」


 そう、まだ終りではないとジェリックは考えを巡らせる。何としてもこの組織を守り通さねばならない。


「俺たちはどうすれば良い?」


 ジェリックは窓を見た。今日の今夜であの(・・)小鳥はやっては来ないだろう。


「元々が奴らから持ち込んだ話で、無様をさらしたのは奴らです。何も言ってこないのなら無視しても良いかと……」

「ああ、生意気なことでも言ってくれば、こちらが優位に話を進められる。それにしてもベルの野郎め――」


 ギスランはこのうえないほど苦々しい表情を作って吐き捨てるように言う。そしてジェリックは呆れを顔に出さないように、いつものようになだめるのだ。


「仕事をしたのは、たぶん王都の援軍ですよ。もういいかげんに……」

「そうだなあ、あいつも引退組だ。気にする必要もないか……。ところで――」


 そう言ってから、珍しく何かを言いたいのかギスランは口ごもる。


「――ところで蒼穹は出たのか?」

「水色の髪の弓持ちが飛んでいるのを見た者がいますが」

「そうか……」


 ギスランの表情は複雑である。


 街の人々に、冒険者の全てに愛されたのが蒼穹の髪色の少女であった。他の三人は運が良いだけのおまけの添え物、がギスランの持論なのだ。


 あの頃、誰もが聖弓を掲げ、大空を駆け抜けていた少女の傍らにいたいと思っていた。


 今は子持ちのおばさんなのだが、人の記憶とはいつまでも美しいままなのだ。いや、あの人は今も美しい。ジェリックの記憶とてそうなのだ。


   ◆


 サン・サヴァンの酒場、エレネストの店ではいつものように冒険者パーティーの反省会が開かれていた。


「まったく――、なんだかイライラするぜ!」


 そう言いつつバスティはいつもと同じように杯をあおる。


「けっこうな報酬でびっくりだったよ」

「そうよねー、私たちはたいして働いてないのにね」

「支援だけだったしね」


 ドルフィルとローレットの二人はそう言って笑い合った。


「いや、あの遠距離の攻撃は上手くいったよ。皆のおかげさ」

「とんでもない魔力アシストだったわ。あれが勇者の力なのねえ……」

「セシールのお袋さんか……」


 ステイニーは感心するように言い、デフロットは自分の中に流れ込んだ膨大な魔力と、ベルナールの仕掛けを思い出す。


 デフロットたちがこの街に来た時には、もうとっくの昔に勇者パーティーは解散していた。


「全部おっさんの手助だよ……」


 デフロットは悔しさを隠しつつ、またビールジョッキをあおるのだ。



 バスティは後ろの席のそんな会話を聞いていた。


「勇者二人の戦を間近で感じるなんて夢がかなったよ!」

「伝説のゴーストが目の前で倒されたのにそっちなのかしら?」

「そう、それも重要だね。奴らは常に王都を狙う存在さ。貴重な情報を得た。だけど羨ましい……」

「何が?」


 落胆の色を見せた顔をアレクが覗き込む。この女性の前では子供のようなわがままも話せると思い、バスティは少し照れた表情になった。


「支援してもらったのが、俺たちのパーティーじゃなかったってこと」


 バスティは後ろのパーティーを気づかって小声である。皆がいつものように呆れ顔になった。


「バスティ! 私たちの支援じゃ満足できないの?! ひっどいわ~」

「いやいや……」


 イヴェットはあくまで冗談っぽく言うが、バスティは真面目な顔をして返した。このパーティーでは一番の下っ端なのだ。


「四人で飛行魔力を最大限に高めて、そのまま攻撃に転じる移動。上手くいきました。この技は使えます」


 今回バスティが仕掛けた最初の一撃はリュリュの発案であった。


「その通りだよ。本来なら剣闘士(グラディエーター)のアレクが使うべきだった。礼を言う」


 バスティはそう言って頭を下げる。アレク用にと試行錯誤していた複合魔法を、直前に無理を言って譲ってもらったのだ。


「まあ、良いでしょう。私が動けない時もあるし、その時はあなたが使えばいいのよ」

「悪かった――、でもやっぱりなあ……」


 未練がましくもバスティは、再び後ろのパーティーをチラリと伺った。


   ◆


 レディスたちはセシールの店で食事をすると言い、ベルナールは一人でギーザーを訪ねる。情報の拡散は必要だ。


「ゴースト騒ぎは収まったんだったて?」

「早いな。知ってたのかい? もう大丈夫だろうさ」


 マスターはいつものように聞きもしないでビールを差し出した。


「助かるよ。警備は大袈裟だし皆が不安になっちまってなあ。酒場組合(ギルド)の会合でも問題になってたんだ」


 売り上げの低下は店の死活問題である。森の一部封鎖で冒険者たちの実入りも減っていた。街に色々な影響を与えていたのだ。


「駐屯地の軍はまだ居座るそうだ」

「そうか、ならばまだ何か続きがあるのかもなあ……」

「うん、だな……」


 ベルナールは元ベテラン冒険者、マスターの意見に同意した。この人の勘はまだ鈍っていないと思ってからビールジョッキをあおる。


 決着は付かなかった。気を抜ける生活は、まだもうちょっと先のようだ。

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