第七十二話「別種の同部族」
バスティとデフロットのパーティー、それとアルマは広範囲に広がった小物のゴースト掃討を続ける。
ベルナールたちは未だ姿を残すヒュドラ、ドラゴン、サイプロクスの合体残骸を取り囲んだ。死して元の体、ヒュドラに戻りつつある。
「ゴーストは倒しました。しかし逃げられましたわ」
レディスは唇を噛んで溶けゆくゴースト体を睨んでいる。恐ろしさを感じるほどの表情だ。
「ん?」
「本体は仕留められませんでした……」
紛らわしい言い方ではあるが、その通りである。目の前に横たわっているのはただの抜け殻だ。
「仕方あるまい。これがゴーストだ。気にするなよ……」
「相手は逃げる気だったしこれで十分よ!」
ベルナールとセシリアは落胆するレディスを慰めるように言った。その執念とも呼べる感情は、やはり出自なのだろう。
一人が降下しつつ接近して来たので全員が空を見上げる。小柄な金髪が木々をぬってストンと地面に降り立つ。
「レディス。探知内にゴーストはもういない。本体はたぶん逃げた」
「そうですか……。作戦は終了といたしましょう」
戻ったアルマの報告に、レディスは苦々しい表情のまま打ち切りを決める。
くまなく探索すれば、とも思うが相手もバカではないだろう。気配を消して穴蔵に入られたら、もう他の魔物と区別がつかないのだ。
「先に帰還させていただきます。あまり目立ちたくないもので……」
「分かってる。後は任せてくれ」
「ベル! 先に帰らせてもらうぞ」
アルマは戦の余韻を引きずっているのかまだ興奮が残っていた。思う存分戦ったのであろう。
「ああ」
先にエルワンに報告してもらえればベルナールの手間も省けるというものだ。レディスとアルマの二人は控えめな高度で街に向かって飛んで行った。
程なくしてバスティ、デフロットたちも合流し、その残骸を気味悪そうに眺める。
「おっさん、いや、王都から来たった奴がヤったのか?」
「さあなあ……」
「ちっ! だんまりかよ。まあいい、これが幽鬼か! 俺が見たのはワイバーンだったがな」
デフロットは溶け始めたヒュドラの周囲を歩いて観察する。
「おかしいな? 人の顔がどこにもないぜ……」
「こいつはA級下位のヒュドラ――、と言ったところかな?」
「それとワイバーン、サイプロクスは共にB級上位かしらね」
「うむ、エルワンにはそう報告するか」
「あん、何を言ってんだよ。こいつはゴーストなんだろ?」
示し合わせたように話すベルナールとセシリアに、デフロットは反論する。
「いや、大型だがただの魔物さ。俺たちはそれを討伐したんだ。幽鬼なんていなかったのさ」
「俺の誤認だったって握りつぶすのかよ! そう言えば前も誤認で処理したんだよな? なんだか気に入らねえな!」
「そういきり立つな。王都の方針だ。文句があるならそちらに言え」
「ちっ……」
「それにこいつはゴーストだがゴースト特有の狂気はなかった。こいつらはゴースト崩れの連中、とも言えるな……」
「なんだかよく分からねえなあ……」
「ふふっ、それで良い。俺とて分からんよ」
バスティもまた、それを観察しながら首を捻る。
「こいつら結局は街に近づかなかった。伝えられている幽鬼伝説とは違う。新種なのかな?」
「そうね。殺人衝動があってこそのゴーストなのにね。今回は人殺しよりも優先する何かがあったのかしら?」
アレクの疑問は示唆に富んでいる。確かに何かの目的があったはずなのだ。そしてゴーストたちはまだ生きている。
「さて、俺たちも帰るとするか」
「ええ、これで街も安全。お店にもお客さんが戻るわ」
セシリアの戦う動機は第一に店である。デフロットたちとてギルドから十分な報酬が支払われる。中途半端な終り方だが戦果はそれぞれにあったのだ。
◆
バスティとデフロットたちは報酬を受け取る為に、中央ギルドの一階の入り口に降りて行く。
ベルナールとセシリアは屋上に降りてから三階の部屋を訪ねる。既にレディスたちの説明は終わっているようだ。
「御苦労様でした。話はレディスからだいたい聞きましたよ」
エルワンは肩の荷が下りたのか上機嫌である。二人はソファーに座った。
「取り逃がしたんだ。そう喜んでばかりもいられないさ」
「あれほどのダメージならば元の魔物体に戻るのには数年はかかります。当面の脅威はさったと王都に報告いたしますわ」
レディスの説明は、ベルナールにとっては初めて聞く話だった。それならば安心はできる。そして次の話題に移った。
「駐屯地は引き払うのか?」
「いえ、開拓はまだ終わっておりません。もうしばらく訓練は続けますわ」
「ふむ……」
「明日戻ります。この街の様子も見つつ、完全な安全を確認するまで訓練を続けるべきと意見具申いたしますわ」
「うむ、ギルドとしてもそのほうが安心するだろうさ」
「助かります。これで平穏が戻りました。北東の封鎖は解除して明日からは通常クエストとしますよ」
エルワンはあくまでお気楽である。悩みの種が消えたのだから当然ではあるが――。
「まあ、いいか……」
色々と引っ掛かりはあるが、明日はセシールと弟子とで北東に行くかとベルナールは考えた。
「王都ではなく駐屯地に帰るのか」
「はい、私もあちらに合流します」
四人は連れだって街の石畳を歩いた。ベルナールとセシリアは有名人なのでどうしても注目を集めてしまう。
「この街の近くでも訓練はできるだろうに――。そうだ、意見具申してみよう!」
「無駄なことはおやめなさいな、アルマ」
「む~」
森の中での野営より、この街のベッドが快適なのは当然である。アルマは無駄な提案を試み即否定されてしまった。
「明日はスイーツの探索もしようか?」
アルマは別案件に切り替えて更に食い下がる。
「それくらいは良しとしましょうか。アルマも働きましたから」
「うむっ!」
レディスは部下の人心掌握もそつなくこなすのだ。




