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第七話 「猪鹿狩り」

 山と森の奥から太鼓を打ち鳴らす音や、人の気勢が響いて来る。


 しばし待つと追い込まれた獣の群れが木々の間から飛び出した。


「さーて……と」


 ベルナールは力を抜いてスピード優先で剣を振るった。次々とその剣技から発した閃光が直進し、あるいは弧の軌道を描き猪に穿(うが)たれる。


 続いて現れた鹿の群れは、脅威を察知したのか方向を変えた。その先頭の鹿たちに光を放つ矢が次々に突き刺さる。


 セシールが後方から援護しているのだ。正確で無駄がないとベルナールは感心した。


 混乱する獣たちに追いすがりながら、ベルナールは更なる攻撃を加える。


 ひるんだ群れに肉薄しつつ剣を振るい、暴れる鹿を確実に一頭ずつ仕留める。脱出を試みる獲物には魔法のきらめきを(まと)った矢が突き刺さった。


「セシール! 右翼は牽制程度にしろっ! 打ち漏らした左翼はレイラスの手前で仕留めろっ!」

「了解!」


 ベルナールはより右に移動する。獲物をもう少し左に誘導する為だ。


 続けて森から飛び出してきたのも鹿の群れだった。


 ベルナールたちを見とがめ方向を変えるが、先頭の鹿が打ち倒され慌てて逆に走り出す。そしてまた先頭に矢が命中した。


 混乱する群に剣を振り下ろすと、無数の光が飛び鹿の首筋に命中する。


 右翼側に遁走をはかる大鹿の胴体に、大きな穴が穿たれもんどりうって倒れた。


「やりすぎだ……」


 魔物を一撃で仕留める力だ。セシールはセーブしていたが、ついつい本気を出してしまったようだ。


 散発的に現われる獣の群を、ベルナールたちは微妙に位置を変えながら次々に屠っていった。



 森は静けさを取り戻し狩りの終りを告げる。勢子(せいこ)役の男たちが次々に木々の間から現われた。


 倒れた獲物にトドメを刺して血抜きを始める。輸送の為の荷馬車が何台もやって来た。


「さすが現役は違いますなあー。いつも二、三割は打漏らしがあるが、今日はほぼ完璧だった! さすがです。今日はこれで終わりですね」


 レイラスが剣を納めながらベルナールに歩み寄る。


「この程度の戦いなら、今の俺の魔力でもなんとか間に合ったな」


 昔は無限に湧くと思っていた魔力も、歳と共に弱くなった。


 その代わり状況に応じて制御する技術は向上している。弱い敵ならば弱い攻撃を繰り出して戦えば良いのだ。


 セシールも終りを察してこちらに来る。


「ベルさん、私はどうだった?」

「十分だろ。ただし食肉用の獲物だからなあ……。もっと弱い攻撃の方が良かったな」

「そうよねえ。魔物相手とは勝手が違うわね。難しいわ……」


 常に強力な獲物を狙う若いパーティーは力不足に悩む場合が普通で、逆を考えることなどあまりないのだ。


「いやあ、さすがですよ。搬出もずいぶんと楽になった」

「ああ、獣の狩りなんて初めてだったが上手くいったな」

「次は西の森でやるんですが、また手伝ってもらえると助かるんですがね……」

「俺は暇な失業者だ。ありがたい話さ」


   ◆


 仕事も終わりベルナールはお礼がてら、セシリアの店を訪ねる。


 セシールとは途中で分かれた。新たなパーティーに加入する為の情報収集で、エルネストの店に行くと言っていた。


 あいつは昔から若い者の面倒見が良かったと、ベルナールは思い出す。ロートルに付き合う必要もない。



「で、どうだったの?」

「けっこうな稼ぎになったよ。ただ今の時期だけの仕事だからなあ……」

「それはよかったわ……」


 セシリアはほっとした表情を見せる。ベルナールは仕事の後の一杯目を飲み干し、二杯目のビールを注文した。


「今月の家賃も払えるよ。ところで、どうしてこんなつて(・・)があったんだ?」

「ウチもこのハムやベーコンを仕入れているのよ。その関係。食べる?」

「そうだな、ちゃんと食事するか」

「そうよ、ここは食堂で酒場じゃないのよ」


 セシリアはそう言って厨房に引っ込み、食事が載ったトレーを運んで来た。


 堅いパンにたっぷりの野菜と、香ばしく焼かれた分厚い猪のベーコンが挟まれている。鹿肉のシチューも野菜たっぷりだ。


「次はワインにするか」


 ベルナールはパンにかぶり付いてシチューをスプーンですくう。


「うん、こいつは旨いよ! なかなかだ」

「これからはお酒ばかりじゃなくて、食事もちゃんと取りなさい」


 その通りだった。今日は息切れしながら鹿を追いかけていたのだ。気が付けばもうおっさんなのだ。


「まったくだ。これからは気を付けるよ」


 そう言ってからベルナールは赤ワインをガブリと飲んだ。



「ところで子供が使う弓矢のお古はあるかい?」

「う~ん……、セシールが使っていた私のお下がりは彼女が持って行ったし――、ただ成長に合わせて安物の中古を色々と試したから……」

「譲ってもらえるか?」

「もちろんよ。だけどボロよ」

「構わない。俺が修理して調整するよ」

「どっちのお嬢さん?」

「ロシェルだ。弓使い(アーチャー)の才能があるよ」

「もう一人の方は?」

「アレットだ。あの()剣士(フェンサー)だな、純粋な剣士だよ。楽しみだ」


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