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第六十九話「対ヒュドラ」

「レディス、分かる?」

「ええ、この先に二体……」


 目標へ飛びながら前方の森に集中していたレディスが言う。アルマは後方を伺った。


「ベルも戦っている」


 下の二体は仲間の戦に加勢するか、様子をみるか躊躇しているようだ。森の中で動きを止めている。そして――。


「こちらに気が付いたようですわ」


 レディスはゴーストの放つ探知魔力を感じた。二人の出現に相手はどう動くかと考える。


 突然ワイバーンの黒い影が空に舞い上がった。こちらの分断を狙っているようだが、これは乗るべきだと二人は判断する。


「行くっ!」

「気を付けて……」

「うんっ!」


 この意見にレディスは同意した。アルマは嬉々として飛行速度をトップに上げ、ワイバーンに向かって飛ぶ。



「さて……」


 レディスは手を空に向かって掲げ魔法信号弾を放つ。赤い光が高空へと上がり、気が付いた別働隊がじきに駆けつけるだろう。そして動かない一体に向けて降下を開始する。


 地上に降り立ち少し歩くと森の草地にヒュドラが鎮座していた。


 でっぷりとした体躯は無数の魔物を取り込んでいる証だ。九本の蛇首(じゃとう)はそろってレディスを見つめ、時折赤い舌が顔を覗かせる。そして中心の頭部には人の顔が張り付く。ゴーストだ。


《匂う、匂うぞ、同族の血が……》

「あなたたちと私は違いますわ。ただかつて(・・・)同じ環境下で生きていたゆえの同じ匂い。ただそれだけ……」

《貴様とてこの姿になれるぞ。永遠の命、取り替えがきく体、好き勝手に自由に生きる道……》


 ヒュドラの蛇が体からせり出してきた。その体は狼で素体はフェンリルを捕食しているようだ。


 頭部が蛇のフェンリルが八体。そして一回り小さくなったヒュドラは二本の足で立ち上がる。前足が手のように変化した。


「好き勝手? 自由? 上位種に使われるだけの駒がそんなに幸せなのですか?」

《なんだと?》


 レディスの長い銀髪が風になびくようにキラキラと輝きながら広がった。これが魔導士としての本来の戦い方だ。話しながらも互いに戦闘態勢をとる。


「それに永遠の命も嘘ですわ。あなたはこれから死ぬのですから」

《その物言いが気に入らんのだよ。勝手な理屈で私たちを狩るだけの奴らがっ!》


 ヒュドラはしゃがれた声で吐き捨てるように言う。レディスはなぜこの民がゴーストになったのか分かる気がした。


「あなたは人間の敵ですから……」

《貴様が我々の敵なのだ》


 このゴーストは力に溺れ、殺人鬼となったゴーストではない。あくまでも確固たる意思を持ってゴーストになった民だ。


《全てが私の体なのだよ。人間が進化した姿だ》

「その醜い姿が人間?」

《人間を支配する体だ》

「もう心も魔物ですわね……」


 八体の獰猛が飛び掛かるがレディスは剣を抜かない。広がった銀髪が、まるで意思を持ったように動きそこから無数の針の魔撃が飛び出した。


 異形のフェンリルは障壁を作ってその攻撃を阻むが後方に押し戻される。レディスは輝きをまとい抑えきれない魔力が体を中に浮かせた。美しい顔が怒りに歪む。


「同族の面汚しが……」

《それは貴様たちだよ》


 互いに相容れない理屈がぶつかり合うのは必然であった。



 立ったまま浮かび上がるレディスは髪色と同じきらめきをまといながら攻撃を続ける。一方蛇頭のフェンリルは障壁でヒュドラ本体を守りつつ数頭が攻撃の機会を伺った。


 一頭が後方に回り込み飛び掛かるが、レディスは振り向きもしないで剣を抜きざま切り捨てる。


「雑魚を束にしても無駄ですわよ」

《ふんっ、ならば》


 変形ヒュドラの右手が長く伸びてレディスを襲う。浮かび上がったまま攻撃をかわしつつ機動し、巻き込まれた大木が次々に倒れた。


 そのレディスに残り七頭変形フェンリルが追いすがる。


「面白みのない攻撃ですこと……」


 攻撃をかわしたレディスは、フェンリルの腹背(ふくはい)に手を突っ込んだ。もだえ苦しむ使い魔に己の記憶(メモリー)の一部を刻み込む。そのまま空中に放り投げると、それは小型のジャバウォックに変化した。


「頂きましたわ」

《ちっ……》


 ゴーストが使役していた使い魔を乗っ取ったのだ。レディスもまたゴーストと同じ力を使える。味方となったジャバウォックは、一直線にアルマに向かって飛んだ。本来は飛べないジャバウォックの、これもまた異形である。


「さて、どういたしますか?」


 残り七体となったフェンリルの蛇頭から魔力の光線が伸びる。レディスを守る球体の障壁に十字に浴びせられたが、それは弾かれるのではなく屈折して集中した。


 そしてレディスが手をかざした先、ヒュドラの本体に向かって飛ぶ。


《舐めるなよっ! 小娘がっ》


 ヒュドラは残っていた右手を突き出し、光線を更に弾き返した。再びの攻撃に襲われた球体障壁は、今度は粉々に砕け散る。


 キラキラと魔力の破片が煌めく中、フェンリルたちはヒュドラの傍らに引きレディスは地上に立つ。


 この場に接近する一体のゴーストと二人の強力な冒険者を感じた。ここはしばし他の登場人物の来訪を待とうと決める。更にそこに合流しようとする数名の力。どうやらヒュドラも同じ考えのようだ。


 空での激戦には既にバスティたちが加わっていた。


「今回の目的は何ですの?」

「お前たち人間を殺戮してこそのゴーストさ」


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