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第六十六話「再度の要請」

「あらあら、これは新パーティーなのかしら? また若い娘さんばかりで……」


 出迎えたセシリアは開口一番でベルナールをからかう。


「冗談はよせよ。聞いてるんだろ?」

「ええ、セシールからね。カウンターに座って」


 店はそこそこの混雑だった。セシリアはそのまま、客のいないテーブルから食器を下げて厨房に引っ込む。カウンター席はいつものように空いていた。


「今のが元勇者なのか?」

「ああ、名はセシリア、弓使い(アーチャー)だ。もう戦わないが、今も冒険者ではあるな。それとこの店のオーナーだよ」


 アルマが一番奥に、続いてレディス、ベルナールが並んで座った。セシールが厨房から料理を各テーブルに運ぶ。こちらをチラリと見た。


「あれは――」

「親子なんだよ。娘は、昼は冒険者として戦い、夜はこの店を手伝っている」

「ふーむ……」


 貴族の騎士ともなればあまり庶民と接触はないのだろう。アルマは感心したように、セシールの姿を目で追う。


「お待たせいたしました」


 手が空いたセシリアがカウンターの中に入り、客向けのセリフを言った。今夜のベルナールは客扱いしてもらえている。


「今夜は食事だ。コースを三人分頼む」

「はい、ありがとうございます。ちょっと待っててね」


 待つ間にベルナールは、昔はパーティーを組んでいて、共にゴーストも討伐したなどと二人に説明した。


「う~む。あの人が勇者で、ベルも勇者だったのか――。ここは勇者の店だな……」


 アルマはよく分からない感想を言う。


 ほどなくして料理が運ばれ、セシリアはカウンターの中に戻る。三人は一列に並び、夜のコースに舌鼓を打った。


 食事が終り、ベルナールにはビール、レディスたちにはお茶が出された。ベルナールは二人の名前を紹介する。


「いよいよなの?」

「ああ、早速明日やる」

「ふーん、若いのにたいしたものねえ。あいつら(・・・・)の退治に抜擢されるなんて……。ベル、頑張ってね。昔みたいに簡単にやっちゃって」


 セシリアは感心したあと世間話でもするように簡単に言う。いつもの調子だった。


「昔だって簡単じゃなかっただろ?」

「今回のは格下よー。三体くらい楽勝でしょ?」


 あくまで簡単に言うがあの時とはベルナールの力も違う。セシリアはレディスたちをチラリと見た。


「このお嬢さんたちも強いしね」

「分かるのか?」

「女の勘よ!」

「勘か――、当たってるんだろうがな……」


 そう言ってベルナールはビールジョッキをあおった。セシリアの勘は昔からなかなかの的中率なのだ。レディスは微笑み、アルマは満更でもなく不適に笑う。強いと言われて嬉しいのが顔に出た。


「王都では、強力な弓使い(アーチャー)の協力が得られると言われておりましたわ」

「だからセシリアも参加だ」


 レディスの振りにベルナールもすぐに反応する。今夜の主目的であるからだ。どうやら互いに思惑は一致していた。


「へー、王都にも私の名前が轟いているのねー」

「ただの噂話だろう。かつてそんな冒険者がいたとか――、つまり昔話だな」

「この街に存在していた勇者パーティーは一種の伝説ですわ」


 バスティの態度を見れば、確かにその通りかとも思う。多少の尾ひれがついている気もする。


「セシリアはまだ現役の冒険者だろ? ギルドの特命クエストは断れない。それに昔の約束もあるしな」

「うーん、まっ、仕方ないか。私も死ぬまで冒険者だしね。分かった」


 その言い方からして、強く断るつもりはなかったようだ。ベルナールは頷いた。


「蒼穹のお手並みを拝見させて頂きますわ」

「何度も悪いな。明日はいつもの時間に中央ギルドに来てくれ」

「いいのよ。早くかたづけて商売に専念したいわ」


 最近ではサン・サヴァンの街にも不安が広がり、民衆は夜の外出を控えるようになっていた。警備の冒険者たちが物々しく警戒しすぎの弊害もあるようだ。


 この店にしても今夜は混んでいるが、確実に客足は落ちてきていた。


   ◆


 ベルナールはいつものように一人、静まり返った部屋に戻る。暗闇の中で明日はどうなるやらと考えてベッドに横になった。


 ふと昔、師匠との、ダンジョンの民についての会話を思い出す。



「ダンジョンの民はなあ、危険なのだよ。奴らは魔力こそがこの世界の力だと考える。かつて力だけを求めてダンジョンに潜った連中だ」

「俺たちのように?」

「ふふっ、ちょっと違うな。お前も俺も自身や誰かを守る為に強くなりたいと考えている。彼らは誰かを倒す為にだけに力を欲しているのだ」

「ふ~ん……」

「民が良きリーダーに恵まれれば問題はない。しかしひとたび間違った方向へ進めば、他国の害益にしかならんのだ」



 その時のベルナールは、既にゴースト事件については知っていた。師匠は意識してか、ダンジョンの民について説明しながらもゴーストには結びつけなかった。


 その師匠は山岳部の村を修行と称して渡り歩き、ダンジョンの民とも交流があった。旅の途中、この街にふらりとやって来て気まぐれにベルナールを鍛えたのだ。今にして思えばベルナールの潜在能力に気が付いて導いた、とも思える。


 そしてベルナールの成長を見届けてから、再び放浪の旅に出た。


「まだ生きてはいるか。そう簡単にくたばる人じゃあないしな……」


 ベルナールは暗い天井を見つめていた目を閉じる。


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