第六十二話「ゴーストとは?」
翌日、中央ギルドの地下通路をエルワンといつもの職員、そしてベルナール、レディスが歩く。
女性職員が手をかざすと壁の魔法ランプが次々に点灯した。やはりただの職員ではないのだ。
最初の格子扉をエルワンが解錠する。
「今日は、アルマはどうしたんだ?」
「森を適当に飛んでみたいと言ってましたので別行動ですわ」
「大丈夫か?」
「慎重に行動するよう言っておきましたわ。あれでもなかなか、しっかりしているのです」
「うむ……」
ならば深く追求する必要もないと、ベルナールとレディスの会話は終わった。
続いて少し先にあった格子扉の鍵は女性職員が開ける。そしてその先の扉を二人の鍵で解錠した。各ギルドマスターに渡されているカギと、中央ギルドのカギがそろわなければ入れない地下の部屋だ。
中に入り女性職員が再び手をかざすと、部屋の各所にある魔法ランプに明かりが灯る。ここは魔導具を制作する工房、そして特別な魔導核の保管庫でもあった。
「掃除して、必要と思われる部品と魔導核を準備しておきましたよ」
「それは助かりますわ」
机の上には細かな金属部品が並び、色とりどりの魔導核が乗ったトレーが置かれている。
レディスは持っていたカバンから、同じような部品と革の袋を取り出す。トレーから魔導核を摘まんでランプの光にかざした。そして袋からいくつかの魔導核を取り出して同じようにする。
ベルナールたちはその作業を無言で見守った。
「いいでしょう。材料はそろいました。封印の魔導具を組み立てますわ」
以前はベルナールの仲間の魔導士、アンディックがこの作業を請け負っていた。
「良かった……、これで明日は封印。次にやっとゴーストに取りかかれます」
エルワンにとっては人の命と街の安全がかかっている、そちらの方が気に掛かるのだろう。
「あなたが封印の力があるの分かります。しかしゴーストの件はどうなのですか?」
「もちろんそちらにも対処する為に派遣されたのが私とアルマですわ。御安心下さいませ……」
レディスは椅子に座って素知らぬ顔で部品を選び始めた。
「王都は隠し事が多すぎますよ。ゴーストの目的は、いったい何なのですか?!」
エルワンは珍しく声を荒げる。レディスはとぼけているように冷静だったが下を向いた。
「……それは私にも分かりません。ゴーストとはそのような存在。だからゴーストなのですわ」
そして煙に巻くような釈明を続ける。しかしエルワンは珍しく引く気を見せない。
「それでは命を賭けられませんよ。この街の冒険者は――」
「……」
「――私もギルドマスターとして指示を出せません!」
無言のレディスに、エルワンは更に食って掛かかる。ギルドマスターにとってはこちらの話が本命なのだ。
ベルナールは脅威なら排除すれば良いだけだと思っているが、この街の組織を預かる責任者としては、確かにそうはいかないのだろう。
エルワンなりにギルドマスターとしての芯があるのだ。レディスは小さな溜息をついてしばし考える。
「分かりました。個人的にお話できることだけなら……」
気迫に押されたのかレディスは折れた。ベルナールはエルワンに感心し次の話を待つ。幽鬼の正体には、もちろん興味はある。
「ゴーストのほとんどは、ダンジョンの民と呼ばれている者たちですわ」
エルワンもベルナールも、それは噂で聞く程度であった。知ってはいたが王都の監察官に、ほとんどと言われれば確信に変わり得る。
女性職員は表情を変えないまま、この話を聞いていた。少しの沈黙が続きエルワンは前のめりになる。
「それは――分かるとして目的は……」
「私もそうなのです」
「えっ!」
「……」
エルワンは驚きの声を上げ、ベルナールは無言で目を見張る。
「私はダンジョンの民なのですわ」
そしてまたしても沈黙――。ダンジョンの民とはその名の通り、国家体系を持たずに、山岳部とダンジョンを生活圏とする部族の総称だった。
「では俺が昔、殺したゴーストは……」
「おそらくはダンジョンの民ですわ。我らの戒律を破り下界に下りた者たち……」
「ダンジョンの民は様々ですよ。実際に我らが王国と貿易をしてる者たちもいますよね?」
「ええ、平地で国家を名乗る人々に好意的な者がほとんどで、彼らは共存を考えております。しかしそうでない者もいるのですわ」
「それがゴーストですか……」
緊張しているエルワンをそっちのけで、ベルナールは少年の頃、自分を鍛えてくれた師匠との会話を思い出していた。
「ダンジョンの民か……」
ベルナールはこの告白の真意を測りかねていた。目の前の監察官はゴーストの味方ではないが、敵なのかどうなのか……。
「あんたの目的は何だ?」
「私は幼い頃、ゴーストを追う父に連れられこの国にやって来ました。父は故郷に戻りましたが、私は父の意思を継いで今も留まっております」
「ふむ……」
「私の一族は、ゴーストとなり他国に出て行った者を狩る暗殺者。同じ部族の仲間は様々な国で食客となっております。父がそうでした。私はそれを受継ぐ者です」
続けてレディスは幽鬼の特性なども説明する。
「他に質問はございますか?」
「いえ、それだけ聞ければ十分です……」
エルワンの言う幽鬼の目的は個々それぞれなのだろうから、個別にはレディスとて知らないのだろう。
確かにこれだけ聞ければ十分だ。今回この街に現われた幽鬼の目的を探るのは、ギルドと冒険者たちの役割である。




