第六十話「獲物を横取る話」
「一仕事終えたらスイーツの店でお茶を楽しもうか?」
満足の食事が終り、四人は店を出てダンジョンに向かった。
「ああ、昔入り浸っていた店ですね」
ベルナールの言葉にエルワンが話を合わせてくれる。
「セシリアがせがんでたんでな」
「あそこ、今でも評判ですよね」
会話を聞いていたアルマがよだれをすすった。レディスは苦笑する。
接待なのだから、飢えたる子羊には甘味を与えなくてはならない。かつてのセシリアもそうだった。
「そうなのか? 昔は流行っていたけど、今はそれほどでもなかったぞ」
「いえいえ……」
「ふ~ん、そうなのか」
ラ・ロッシュに到着すると、若い守備隊員が慌てた様子で走って来る。
エルワンは顔パスでバリケードの中に入り、レディスとアルマもそれに続いた。ベルナールも中に入り守備隊長の姿を探す。
「挨拶してくるよ」
「頼みます」
ベルナールは監視小屋に向かった。
「よう」
来客を察知したマークスが中から出てきて、軽く右手を上げる。
「例のヤツだよ」
「ああ、昨日連絡が来たが、ずいぶんと……」
王都からの使者が若い娘と幼女騎士では、違和感はあるだろう。
「封印の力はあるんだろう。まっ、お守りにはならんさ」
「御苦労だな。今日はデフロットたちが入っているが、相変わらずたいした魔物は出ていない」
「分かった。ちょうどいいな。行ってくる」
「おうっ」
ベルナールは開口へと向かう。エルワンは奥を指差しながら何やら説明をしていた。
「中は静かだそうだ。行こうか」
「ええ、それは助かりましたね」
エルワンが先頭になり、四人はかたまって第一階層を進んだ。
「第二までは、今はもう魔物はほとんど出ません。第三は多少出るので、守備隊はそこと第六階層にもいます」
続いて第二、第三階層へと下りる。
「今のクエストのほとんどは第三と第四の隧道深く、それと第五の全般、新たに開いた第六階層ですね」
レディスとアルマはエルワンの説明を聞きながら周囲を見回す。第四、第五まで下りると、あちらこちらから戦いの息吹が流れ聞えて来る。
「今日は戦わないの?」
「様子を見るだけですわ」
「む~っ……」
レディスにそっけなく言われて、アルマは不機嫌に唸る。一行は第六階層に到着した。
「ここがこのダンジョンの最下層です。ついこのあいだ先鋒で突入したのが、ベルさんのパーティーなのですよ!」
「ベルさん?」
「あっ、いや。元勇者のベルナールさんです」
ドヤ顔で言ったエルワンはアルマに突っ込まれ訂正した。
「ほうっ! ベルが一番乗りだったのか」
「アルマ、失礼ですよ」
「良いではないか! 私も三文字に省略してアルマだ。それに戦いではいちいち敬称など付けん!」
それはその通りだ。一瞬で勝負が決まる戦いの中で、軍にはそのようなしきたりがある。
「まあ、いいさ。お前さんはベルと呼ぶがいい」
それにベルナールは、呼ばれ方などはさほど気にはしない。アレットやロシェルには師匠と呼ばれている。
「うむ。ベル、よろしく頼むぞ!」
「こちらこそだよ」
封印作業だけではなくて、これからゴースト狩りも共にしなくてはならないのだ。
相手の性格をつかんで、それに合せるのも冒険者としての能力だ。その辺りは年長者の仕事でもある。
「一通り歩いて下を探しましょう。案内を頼みますわ」
レディスが今日の仕事に軌道を修正する。
「アテがある。弟子がそれらしき場所を見つけているんだ」
「地図にあった場所ですね。すばらしい力ですわ」
「まずは巨大ホールの逆に行き、そこからとしましょうか」
段取りは予め決められているので、エルワンが音頭をとる。四人は魔核が怪しく光る回廊を、奥へと進んだ。
「ここにはないですわ」
レディスは最初の横穴を一瞥して言った。中に入らずとも分かるようだ。ただ主回廊を歩くだけで一行は探査を進める。
突き当たりを引き返しつつ、アルマはまたボヤく。
「戦っているホールもあるのだな。あーあ、退屈だ……」
「そう言うな。ここの冒険者たちの生活の糧でもある。獲物を横取りしやがって! 俺はそう言われたことがあるぞ!」
「うっ……」
アルマは言葉に詰まり、レディスがクスクスと笑った。
「その話は聞きましたわ。アルマ。人の上に立つ者は思慮深くなくてはなりません。ただ魔物を追い回すだけなら、それは騎士でも冒険者でもありませんわ」
「分かってる……」
どうやらレディス、この副隊長は貴族であるアルマの教育係でもあるようだ。
「強者の獲物ならいくらでも、横取りしても構わんと思うぞ! どうかな?」
ベルナールはレディスに気を使う。
「うふふ、冒険者ならばそれも良いでしょう。しかし騎士となるとちょっと違うかも知れませんわねえ……」
「なるほどねえ……」
「むむむ……」
難しい問答をしていると、進入口まで戻り着き、ベルナールたちは更に巨大ホールへと向けて進む。
「ここですね?」
「ああ、そうだ」
ロシェルが発見していた場所で、レディスは立ち止まる。中に入り小ホールの突き当たりまで進んだ。
そして右手をかざす。白い光が発せられ、それは青みがかってから黄や赤色が混ざり微妙に点滅する。魔力で探っているのだ。
「ふう……、ここは開口になりますわ」
「良かった。これで今日の仕事は半分終りです」
エルワンの言う通りで、これから他に開口がないか探る必要もある。
そして四人は巨大ホールまでやって来た。今日も戦いは行われていない。
「むっ……」
ベルナールは魔力が満ちつつあるのを感じた。大物の出ごろ感がある。
「ここでの戦いもそろそろですわね」
「ああ、次は鬼が出るか蛇が出るか……」
レディスほどの力があれば、同じように感じるのだろう。アルマがたまりかねたように口を開く。
「ここには何がいたのだ?」
「ジャバウォックだ」
「おおっ! A級か?!」
「ああ」
アルマは、結局こればかりだ。
「この辺りにも適所はありません。先ほどの場所を開口封印としましょう。魔導具の調整をいたしますわ」
「よろしくお願いします。材料はそろっていますから」
明日は封印の魔導具を制作して、続いて封印の作業となる。




