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第五十七話「意外なる援軍」

 昨日、王都から監察官と増援の一行が街に到着した。そう伝えられていたベルナールは、朝から中央ギルドに入る。


 いつもお茶を入れてくれる女性職員がカウンターに座っていた。気が付いて立ち上がったので、ベルナールはそちらに向かう。


「おはようございます」

「ああ、おはよう……」


 いつものようにエルワンが出迎えると思っていたので、少しドキリとしてしまった。


 この女性は素性がよく分からない相手である。おそらくは王都から来ている職員だとベルナールは思っていた。


「待たせたかな?」

「いえ、打ち合わせをしております。どうぞこちらへ」

「うむ……」


 二人は無言で階段を上り、四階のいつもの部屋に入る。そこにはエルワンが座り、二人の女性らしき後ろ姿が向かい合っていた。


 テーブルの上には書類が散らばっている。


「あっ、噂の勇者が来ましたよ。さあ、どうぞ座って下さい――」


 エルワンは明らかにほっとしたように立ち上がる。勇者などとベルナールを持ち上げた後、隣のソファーを進めた。

 女性職員はお茶の準備に取り掛かる。


「だから俺は元勇者で……」


 そう言いながら座ろうとしたベルナールの前で、二人はすくっと立ち上がった。腰を落としかけたベルナールは背筋を伸ばし、エルワンも慌てて立ち上がる。


「あっ、おまえは――」


 ベルナールは正面の、女性と誤解した少女を見て仰天する。


「この街の冒険者では手に負えない魔物が出たそうだな! ふふんっ、手伝ってやるぞ!」


 そう言いながら可愛らしい顔に似合わない不適な笑みを見せる。性格そのものが出た表情だ。


 シャングリラ開拓地に来たあの(・・)自称騎士の少女だった。


「よりによって、なんで子供を――」

「子供だと? 私は騎士――」

「副団長が、俺が行くと言って聞かなかったのです。しかし軍人そのものが来たら目立ちますわ」


 文句を言いかけた少女を制するように、隣に立つ二十代前半と思われる女性が口を開いた。こちらが王都の監察官のようだ。


「それはそうだが……」

「私たち二人でこの案件を担当させて頂きます」


 ベルナールは副団長の風貌を思い出す。確かにあの男は軍人オーラを出し過ぎだろう。


「子供の方が目立ちませんし……」


 この監察官にしても若い娘だ。一見して他の街から来た冒険者程度にしか見えない。軍そのものの兵力が、大量にこの街に入るのは好ましくはないだろう。


「まあ、座りましょうか。さっ……」


 エルワンは二人を前に気を使いまくりだった。ただの職員ではない、おそらくは貴族なのだとあたりをつけているのだろう。


「私はレディスと申します。こちらはアルマですわ。もうお知り合いでしたね」

「ああ」


 職員がそれぞれにティーカップを差し出すと、二人はすぐに口を付ける。ベルナールも茶を一口すすった。


 なるほど、甘い香りがする魔境の味だった。王都ではなかなか味わえないのだろう。あのお茶はこの周辺特有の種なのだ。


「昨日、街に入って今日は朝から来てもらいました。今後の打ち合わせをしたいと思います」


 エルワンの言葉に、レディスはカップを皿の上に置く。


「ゴーストは気がかりですが、先に下への開口を封印いたしましょう。街やダンジョンの状況も知っておきたいですし……」

「そうですね。ゴーストへの対策は時間が掛かる。先に本来の目的を処理しましょう」


 そう言ってエルワンは地図を広げた。ざっと街周辺の概要などを説明する。


「レディス、私は封印に関係ない。すぐにでも森に入りたいの」


 説明を聞き終えたアルマが、我慢できないとばかりに言う。


「いけません。私と共にでなければ! これは団長の命令です」

「そうだ! 勇者の護衛付きならば良いではないか!」

「駄目ですっ!」


 レディスはぴしゃりと言い、アルマはふくれっ面になる。一応、団長とやらの命令は素直に聞くようだ。


「団長とは?」


 ベルナールは答えられない、と知りつつ水を向けた。


「この近郊で活動している騎士団の団長ですわ。私も副団長を拝命しております」

「ふ~ん……」


 やはりあの部隊から抽出された人員だ。


 ただしこの二人を加えて三体のゴーストに対処できるかは――、ベルナールは内心で首を捻る。しかしその団長とやらは可能だと考えているようだ。


 二人の副団長に若年者ばかりの兵。通常ではあり得ない軍の編成だった。


「……面白い」


 レディスは言葉の意味が分かっているのかどうか――、ニッコリと微笑んだ。


 引き続きエルワンは地図を指差しながら、ゴーストの目撃地点などを説明する。四人は今後の手順を話し合った。



「さて、それでは着替をさせて頂きますわ」


 そう言ってレディスは立ち上がり、アルマも慌ててお茶を飲み干して立つ。二人は平民と同じ目立たない恰好で、武器も携行していない。ギルドから借りる予定のようだ。


 そして女性職員に付き添われて、隣の部屋に消えた。


「ふーっ……」


 エルワンは緊張から解放された、とばかりに息を吐き出して天井を仰ぐ。


「どう思います? もっと大勢来てくれるかと思っていたら、たった二人。それも女の子ですよ?」

「さあなあ……、小さい方はシャングリラで見たが力はあるよ。それに大きい方は開口を封印できるんだろ? 戦力にはなるさ」

「しかし、これでは……」


 エルワンとしては、この展開を現場に押しつけるので申し訳ないと思っているようだ。


「なるようになるさ。気にするな」

「あの二人、何者なんでしょうか? 若いしどう接していいのやら……」


 そう言って困ったように苦笑いする。エルワンは組織の人間だ。あの二人の役職と身分を考えれば、若いとは言えぞんざいには扱えない。


「普通でいいだろ。ギルドマスターとして、冒険者として接すればいいんだよ」



 三人が部屋から出て来た。レディスとアルマは少しレトロな女冒険者の出で立ちである。例によってヘソだし、胸元まるだしの衣装だ。


 レディスは立派な大人の女性でサマになっているが、アルマはまだ子供でこの姿は少々早い。しかしそれを気にする者はこの街にはいなかった。冒険者は力で人を魅了する。


「この街の冒険者は皆、こんな姿なのか?」

「昔は皆そうでしたよ。ちょっと古い衣装ばかりで申し訳ないです」


 エルワンは言い訳がましく謝った。一方のレディスは満更でもない表情だ。おそらく幼少の頃に、このような姿の冒険者を見ていたのだろう。


「お腹が見えているな。戦う姿ではないような……」

「魔力で防御するのです。昔からこの姿は強さの証と言われていました」

「うむ、ならば良い!」


 強さと聞いてアルマは簡単に納得する。なんて単純なヤツだと、ベルナールは笑いそうになってしまった。


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