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第五十四話「脅威の行方」

 中央ギルドに戻り、セシリアは店の準備があると、茶の葉が入った袋を抱えて帰って行った。


 ベルナールは四階の部屋でエルワンと向かい合う。朝の女性職員も同じようにいて、再びお茶を入れてくれる。


「いかがでしたか?」


 他の職員もいるのに幽鬼(ゴースト)の話をしても良いものか、とも思ったがエルワンは気にはしていないようだ。おそらく中央ギルドの秘書課あたりに在席している、北ギルドとの連絡員も兼ねている女性なのだろう。


「うむ――」


 これは報告なので、ベルナールは見たことに脚色は加えず正確に話す。エルワンは難しい顔で聞いているが、セシリアの活躍には少しだけ頬を緩めた。


 全体として、ベルナールの出番がまるでない話ではある。


「分かりました。まとめますと、敵はやはり三体で一体はワイバーン。殺人鬼ではなくて何か目的を持っている。いたずらに戦わないが、ただしそのワイバーンは別――。そんな所ですかね?」

「ああ、その三体は性格も違うようだ。ワイバーンは単独で行動したし、軍のような命令系統があるような組織でもなさそうだ」

「しかし、すぐに二体が救援に来るなんて、まるで冒険者のパーティーみたいですねえ。若いのが無茶してリーダーと参謀が助けた、みたいな」


 的を()たエルワンのたとえにベルナールは納得する。バックにはそれなりの組織があるかも知れないが、あの三体はただの先兵のようだ。


「そのワイバーンは仕留めたかったですねえ……」

「セシリアの魔力炸裂が押さえ込まれた。俺の攻撃とて同様だろう。二人じゃヤツら三体を相手には出来んよ」

「分かりました。やはり王都からの応援待ちですね……」

「牽制にもなるから偵察は続けるよ」

「頼みます」


   ◆


 翌日から二日間、ベルナールとセシリアは北東の森を散策したが、再びの接触はなかった。


 懲りた幽鬼(ゴースト)たちは鳴りを潜めている。森のどこかで魔力の行使もなく、ひっそりと息を殺していれば発見は困難だ。



 その後、ベルナールは一人で時々探索を続けた。魔力の消費を抑える為に跳躍はほどほどにして、一日徒歩で森の気配を探った。。


 そして弟子たちとのクエストもこなす。変わらず目標との接触はなかった。


 平穏な日が続いたが北東の森の閉鎖は変わらず続いている。


 ベルナールは北ギルド、エルワンの執務室で成果の上がらない報告を済ませた。


「今日も出ませんでしたか……」

「完全に鳴りを潜めたな。戦力不足の俺たちには、長期戦は助かるがな」


 あの三体が夜間に街を攻撃すれば、ベルナールやセシリアとて無理を押して立ち向かわなければならないのだ。


「時間稼ぎは幽鬼(ゴースト)たちにとっても得策ってことですか?」

「そうだ、時間は奴らにも味方するんだろう。目的か……」


 そう言ってから、少し考え込む。


幽鬼(ゴースト)たちの目的なんぞ、人殺し以外には検討もつかん……」


 ベルナールは腕組みして天井を仰いだ。この街を伺っている理由など、何も思いつかない。


「探索の強度はこのままで、王都からの監察官を待ちましょうか?」

「それがいい。新しい情報があるかもしれないしな」


 積極策に出るには、戦力も動機も足りなかった。


   ◆


 北東の閉鎖は狩り場の減少を意味する。冒険者たちは気味悪がって付近のクエストも受けず、ダンジョンのラ・ロッシュに集中ぎみだった。


 ベルナールと弟子たちは混雑を避けて、西の森で訓練も兼ねた安価なクエストに精を出していた。



「来るぞ! アレット」

「はいっ!」


 草藪から二匹の小物が飛び出した。先行する魔物の鼻先に魔撃が炸裂し後退させるが、倒すには至らない。


 アレットは返す剣で続いて迫る敵を切り裂く。そして再び襲い来る最初の獲物も、実剣で仕留めた。


「う~ん、やるもんだな……」

「剣の実戦も練習しているのよ」


 セシールはさらりと言っているが、単にそうやれと言って出来るものではないのだ。体の動きと魔力の制御を無意識に制御するコツは人それぞれ、その時によって違う。


「ロシェルにも剣を教えているのか……」


 一方のロシェルは弓を背負ったままで剣を構え、接近する小物に集中している。


「森の中は見通しがきかないし、弓で実戦の訓練は無理よ。剣に自信が持てないと敵が接近しても弓で戦おうとするクセが付いちゃうの! それが上手くいくとますます弓矢に頼るようになる……」

「うん……」


 セシールはまるで自分のことを噛みしめるように言う。


「母親に教わったか?」

「ううん、あの人はゼロ距離でも矢を射るのが、弓使い(アーチャー)の仕事だって言ってるわ」

「それは、それは……」


 セシールらしい持論だと、ベルナールは苦笑いするしかない。


 そしてロシェルは、飛び出した一体の小物を危なげなく片付ける。


「まだ一体だけね。アレットは三体までなら同時に戦えるわ」

「三体!?」


 ベルナールは自分の師匠を思い出す。鍛えてはもらい感謝はしているが、何が何やら分からないアドバイスも多かった。


 力の差は理解力の格差も生む。しかしセシールはそのような壁などは感じさせないように、二人の弟子を教えているようだ。


「よしっ! 二人で周辺の索敵をして来て。気を付けてね」

「「はいっ!」」


 アレットとロシェルは剣を握ったまま左右へ散って行った。


「二人で大丈夫なのか?」

「うん、近くにはもう小物もいないわ。何もいない場所を探査する練習ね」

「お前は本当に教師向きだな……」


 しばしの沈黙の後、セシールはためらいがちに口を開く。


「ねえ、お母さんと一緒に森に行ったんですって?」

「何のことだ?」

「とぼけなくてもいいのよ。午前中は店を留守にしていたし、森で採ったお茶を干していたら行ったって分かるわよ」

「まあなあ……」


 ベルナールの視線は中を彷徨う。セシールに隠し事をしていた負い目はあった。


「今のお母さんってどうだった?」

「ん? どうって?」

「強いかってことよ」

「ああ、強いよ。蒼穹は健在だ」

「私よりも?」

「そうだな……」


 しばしの沈黙――。セシールが何を考えているか、ベルナールには何となく分かった。


「そう――」

「今の俺より強いんだからなあ……。当然だろ?」

「――私って才能ないのかなー。なんてね……」


 セシールは寂しげに笑う。ベルナールにはその気持ちが良く分かった。強い仲間は心強くもあるが、時に自身の心も砕く。


「気にするなよ。俺はそうしてきた」

「そうね。私は私よね」


 セシールにはセシールなりに十分な才能がある。上を見れば切りなどない。


「お前には強い。誰かと比べないことだな」

「うん!」


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