第四十四話「様々な事後処理」
サン・サヴァンの街に帰り着いたベルナールは、まずは依頼主のマダムシャングリラを訪ねた。
「仕事は無事終わったよ」
ベルナールは開拓地、シャングリラでの出来事を詳細に話す。戦い以外、ディオンのことや老人にもう少し顔を出せ、と言われたことなども含めて全てを語った。
ここまでが自分への依頼だと思っていたからだ。
マダムシャングリラ、レスティナは微笑を浮かべながら楽しそうに聞く。
「あなたがおじいちゃんになったら、あっちに住む方が良いのかしら?」
そう言って首を傾げる。ベルナールも今回の一件でそんな気がした。もう冒険者ではないのだし、終末はあの森で魔物と戦い、最後は朽ち果てるのが自分らしい。
「そうかもな。ディオンが来たら俺の部屋を使わせてくれ」
「うふふ、シャングリラの子だしね。これ、報酬よ……」
差し出されたずっしりと重い革袋を開けると、中にはぎっしりと金貨が入っていた。
「こんなにもらえない――」
「いいの、これからのことも含めての報酬よ。時々は開拓地を訪ねなさい」
「……分かった」
レスティナの性格からして、一度出した物は引っ込めない。一時ベルナールが預かっているとしてもいいのだ。
それにこれから開拓地に、何か物資などが必要になるかもしれない。その時にでも使えばいい。
「ありがたくいただいておくよ。マダム……」
レスティナはにっこりと微笑んだ。
そして次は冒険者ギルドだった。ベルナールは受付嬢にギルドマスターへの取り次ぎを求める。
二階から下りてきたエルワンと共に、いつもの部屋の隅にあるテーブルへと移動した。
「シャングリラ開拓地へ行ってきた」
「ギルドで止めておけば、ベルさんに話が行くと思ってましたよ」
「ふん――」
ベルナールは不満げに鼻を鳴らす。もう少しは親身に考えてもらいたいと思った。
「だってそちらの仕事を横取りするみたいじゃないですか……。こちらへはあくまで相談のレベルだったんです」
「まあ、なあ……」
エルワンなりの考えがあっての対応だったようだ。それにマダムシャングリラとしても、暗にベルナールに話が行けば、と考えていたかもしれない。
あの店とあの地に長い間、顔を出していなかったのはベルナール自身だった。もちろん親身にも考えていなかった。
「時々は顔を出しても良いんじゃないですか? 店も開拓地も……」
ベルナールは図星を突かれてしまう。やはり人の上に立つエルワンは、気遣いが他の人間とは違う。この件はベルナールの負けだ。
「ああ、そうするよ……」
続けてベルナールは軍の様子なども話した。こちらの方がギルドマスターにとっては重要事項だ。
「子供の騎士が訓練ですか……。色々な噂を聞きましたが、やっぱり噂ですかねえ……」
「ああ、力はあるのだろうがまだ若輩だよ。経験を積む為にここを選んだろう」
他には以前見た輜重隊による、某貴族の領地拡大程度の理由などがあるのだろう。
「その件については了解です。そんなことより相談があるんですよ。王都から監査官が来るんです」
「うん?」
エルワンはそう言って身を乗り出す。ベルナールにとってはこちらの話の方が厄介ごとになる場合が多い。
「それが何か問題なのか?」
新ダンジョンが開口された場合、昔から監察官が来て内部を見聞する。ギルドは護衛の冒険者を出し案内するのだが、行政の儀式のようなもので気を揉むような仕事ではない。
「今回は下層への開口部を見つける為、魔導士か魔法使いが監察官として来るんです」
「ふむ……」
以前はすぐにベルナールたちのパーティー、魔導士のアンディクがその強力な魔力で下層への入り口を発見していた。
「今はこの街でそれ程の力を持つ冒険者がいないのですから、仕方ないのですがね……」
要は王都から大物が来るかもしれないので、その接待が憂鬱なようだ。
「お供代わりの護衛、頼めますかね?」
「それくらいはやるさ……」
たとえ強力な魔導士であっても、そんなに面倒くさい相手が来るとも思えない。
三人娘の声が聞えたので振り返ると、セシールたちがクエストを終えて帰って来た。
「それじゃあ行くぞ」
「ええ、ベルさん抜きでもあの三人は頑張っていますよ。監察官が来たら情報を流します」
「分かった」
エルワンなりにセシールたちにも気を配ってくれていたようだ。ベルナールは席を立つ。
「ベルさん! 仕事が終わったのね!」
「ああ、そっちの調子はどうだった?」
「うんっ、順調よ! ダンジョンに潜ってたけど獲物は多いし――。今日はC級を二体共同で倒したわ」
セシールの顔も二人の弟子の顔も明るい。戦果も上々で、いっぱしの冒険者の顔だった。
「アレット、明日は俺が稽古をつけてやる」
「はいっ、魔撃も少しだけ遠くに飛ばせるようになりました」
「そうか! ロシェルはどうだ?」
「上手くなったよ~」
「うむ」
二人の顔は自信に満ちている。順調にダンジョンでの戦いに慣れてきているのだ。
次にベルナールはギーザーに出向く。今回の仕事はここの口利きなので報告の義務がある。
「まっ、先に一杯飲め。意外に早く片づいたな。さすが勇者だよ」
「ついてたのさ。それに軍の――指揮官が話の分かるやつだった」
ベルナールは戦いの様子と見立てを詳しく説明する。よからぬ噂ばかりが一人歩きするのは良くない。
「ふ~ん、緊迫感もないようだし、何か特別な事情があるようには思えんな」
「俺もそう思うよ」
「ああ」
この街を制圧するつもり、他国の軍に対処する為、なんてありえないとベルナールは思っていた。マスターも同意するように頷く。
二人の子供――自称騎士も指揮官も、訓練以外を気に掛けているふうではなかった。




