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第三十七話「特別種との出会い」

 今までは少し遅い時間に、自宅で弟子たちを待てばよかったのだが、気合い十分のセシールに約束させられ、ベルナールは早朝のギルドを訪れた。


「ったく、こんな朝っぱらから……」


 そう言ってあくびを噛み殺す。


「何言ってるのよ! 普通よ」

「まあ、なあ……」


 ベルナールとて全盛期はこんな時間から来ていたのだ。


「さっ、掲示板を見ましょうよ」

「ああ……」


 セシールは張り切りまくっていた。意外にも、いや、普通なのだかデフロットとバスティのパーティーも来ている。


「よう、感心だな」

「おっ、おっさん! どうしたんだ。こんな時間に?」


 他のメンバーはベルナールにペコリと頭を下げる。


「ウチのリーダーが出勤時間にうるさくてな。ダンジョンには潜らないのか?」

「今日は魔物より冒険者の方が多いくらいだろ。俺たちに出番はないな。外で色々試してみる」

「そうか……」

「これなんかどうかしら?」


 魔法使い(ウィザード)が指すそこには、東の森で飛行する魔物の目撃例が書かれていた。


「ドルフィル、ローレットとあれ(・・)を試すのには最適よ!」


 あれとは昨日やった、魔法と矢の複合攻撃のことだろう。


「よしっ! 今日は俺が支援に回ってみるか。これにしよう」


 デフロットはそう言ってクエスト票を外す。


「そうか、東には苦戦する冒険者がいるかもな」

「相手はC級だ。じゃましに来るなよ」


 ベルナールは肩をすくめる。デフロットたちは受付カウンターに向かった。


「バスティはどうするんだ?」

「北の先まで行ってみます。C級が増えているってありますね」

「そうか、未確認開口部(ロスト・マウス)から掘り出し物が出てるかもな。新階層を開けた時の現象さ」

「そうですか! なるほど……」


 それは事実だった。確たる理由は分からないが、閉じ込められた魔力の消失が、他のダンジョンにも影響を及ぼすらしい。


 バスティはそのクエスト票を外す。


「それじゃあ行ってきます」

「ああ」


 そして受付に向かった。


「なら私たちは西の森ね。ホントにあの人たち、ダンジョンには行かないのね」

「あいつらは自分の強さが分かっているのさ」


 セシールは西の森の探索と書かれている紙を外した。


「ん?」


 二階からエルワンがあくびをしながら下りて来た。ベルナールたちの姿に気が付き受付カウンターに向かってくる。


「どうしたんですか、こんなに早くから? こっちは泊まり込みで報酬の計算ですよ……」

「御苦労だな。セシールにせかされて今日は真面目なヘルプをやるよ。こいつは何だ?」


 ベルナールはセシールからクエスト票を受取りエルワンに見せた。


「ああ、これですか。補足が難しいB級が数体いたんですがね。ここ二日でほとんど討伐されました」

「なんだ、そうなのか……」

「うーん、打漏らしが、たぶんまだ一体はいたかなあ……」


 エルワンは寝ぼけ眼のまま大儀そうに言う。既にたいした案件ではないようだ。


「ならそいつを探してみるか……」


 ややっこしいクエストでなければ問題ない。


   ◆


 ベルナールたちは森の中を西へと進んだ。


「跳んで行きましょうか?」

「大丈夫か? 俺は、今はせいぜい一往復程度と、向きの制御が出来るくらいだが……」


 昔は大空を飛翔して魔物を追っていたが、現在のベルナールはそれが限界だった。


「大丈夫よ。二人で一日くらいなら私一人でも支援できるから。今日はたいした敵とも戦わないしね」


 さすがは蒼穹の娘だ。ベルナールは魔力のアシストで体が軽くなったように感じた。


「行きましょう」


 二人は大きく跳躍し、体で空気を抱え込むように大空を滑空する。



「あれ、何かしら?」


 遠くに黒い小さな点がいくつか見えた。


「ワイバーンの小さいのだな……」


 黒い体に二本の足。姿は似ているが、ドラゴンやジャバウォックのようなブレス攻撃はない。


「ちょっと遠いわね。魔力を消費しちゃうわ」

「今日は偵察に徹しようか」

「うんっ」


 ベルナールは久しぶりに、大空の散歩を楽しむ。



 二人は小高く見晴らしのよい丘に降り立った。


「ダメねえ。探知に掛かるのはC級ばかりね」

「ああ、B級の打漏らしとやらはいないな……」


 セシールの探査能力がベルナールを超えて久しい。


「東のずっと先に冒険者が何人かいるわ。あんな遠くでクエスト? そんなのあったかしら?」


 そしてベルナールよりもかなりの遠方を探る。そして首を捻った。


「軍の連中だよ。未確認開口部(ロスト・マウス)を探している」

「えっ?」


 別段秘密でもなんでもない。ベルナールは事情を説明した。


「そう、そうなの――あっ!」


 セシールは突然に叫ぶ。


「どうした?」

「B? でもこれは――、分からない。でも強力な魔物よ。いるわ」

「何だと?」


 セシールの言い方は意味不明ではあるが、言っている意味は、ベルナールには分かった。


 しかし、もう今のベルナールにそれ(・・)は感じられない。


「そこに行ってみよう。様子を見るだけだ。戦わないからな」

「……うん」


 困惑するセシールの先導で跳び、二人は森に降りる。そしてしばらく歩き、その魔物を感じた。


 深い森が(ひら)け草原に出る。そこには一頭の白馬が(たたず)んでいた。


「こいつが打ち漏らしの正体か……」

「これはA級? でもそうは感じない……」


 それはそうだ。よく分からないとのセシールの見立ては正しい。ベルナールとて会うのは久しぶりだった。


「分類不能の特別種。S級のユニコーンだ」

「えっ! これが――S級??」


 頭部に特徴的な細い一角、白い馬体からは威圧感はまるで感じない。しかしそれ以外の何かがベルナールたちを包み込む。


「綺麗……」


セシールは両手を広げて、何かに魅入られたようにフラフラと歩み出た。


「おいっ!」

「えっ? わっ、私ったら……」

「いや、話をしたいんだよ。それだけだ……。意識をしっかりと保て」

「話? きゃっ」


 あなたはなぜ戦うのですか? なぜこの男といっしょに――、とセシールの頭の中に、別の思考が渦巻く。


「あっ、ああ……、そんなことは分からないわ……。何を?」


 頭の中で会話する違和感にセシールは顔を覆った。


「ふふっ、まあこんなもんだろ……」


 ユニコーンは白いつむじ風となって空に消えた。あれが相手では打漏らしたのも当然だ。



 店に戻ってから、セシールは必死にユニコーンとの出会いを、母親に説明する。


「私もずいぶんと、そんなのに会ったわ。色々よ……」


 セシリアは話をはぐらかし、セシールは配膳のため厨房へと向かった。


「あのユニコーンったら、まだこの辺りにいるのね……」

「セシールを蒼穹の娘と認めたようだ」

「どうかしらね?」


 悪戯っぽく笑う母親は、満更でもない表情でもある。


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