第三十四話「三つ巴の戦闘」
頭部への一撃は、ジャバウォックが作り出した魔力障壁に阻まれた。これがA級の力である。ベルナールが説明していたので、これはデフロットとしても想定の範囲内だ。
首は蛇に近く、頭部は後方に二本の角が伸びドラゴンと酷似している。その口が赤く開かれ喉の奥に赤い炎がチラチラと見えた。ブレス攻撃だ。
ジャバウォックが放つ炎が壁面を焼く。後退するデフロットの障壁にも直撃し、いくつもの火球が弾けた。
「きゃっ!」
「すご~い!」
アレットは小さな悲鳴を上げるが、ロシェルはわくわくしながら戦いを見ているようだ。
「あれは炎じゃないんだ。魔力の攻撃だからこちらの障壁でも十分に防げる。心配ない」
視覚としては炎に見えるが、それはジャバウォックが作り出した魔力で現実の火ではない。
「デフロットも考えてくれてますね」
「ああ」
あくまで頭部への攻撃にこだわるそぶりを見せ、上空に留まっている。その隙をついてバスティとアレクは魔力を込めた剣を胴体に叩き込んだ。
悲鳴らしき叫びを上げるジャバウォック。飛び退くアレクに爪をむき出した攻撃が襲いかかる。
避けることもできたが、彼女は鎧で守られた右肩を突き出し、障壁を重ねあえてその攻撃を正面から受けて見せた。
「ほう、たいしたものですねえ」
「剣闘士らしい戦いだよ。闘志あふれるリーダーだ」
エルワンは初めて見たのか感心している。
その更なる隙をついて剣の魔力が収束した。バスティは引いた剣をジャバウォックの腹に突き刺す。しかし魔力を湛える鱗がそれを阻む。あの収束でも破れない鎧なのだ。
「バスティがリーダーじゃないんだ……」
「そうだな。パーティーには色々と事情があるのさ」
不思議そうに言うセシールにベルナールが返す。戦いは一旦仕切り直しとなった。
デフロットは地上に降り立ち、弓使いが弓を引き絞った。パーティーの魔力支援はそちらに切り替わったようだ。
魔法使いと魔導士が二人で魔力の塊を作り出す。
「へえ……、聞いたことがあるけどあれをやるんだ」
その塊がジャバウォックへと放たれ、続けて矢が追随する。頭部には障壁が張られていたが中和され、そこに矢が突き刺さった。
B級相手では過剰なので、最近ではあまり使われない技だ。誰に教わったのかは分からないが、これはデフロットたちの新たな試みだった。
「こっちの方が簡単ね。先にロシェルとこれを試しましょうか」
セシールなりに完成形に持って行ける自信があるようだ。セシリアは最初から自分の矢に魔力を込めていたので、この技は使ってはいなかった。
顔、側面に突き刺さった矢からチロチロと魔力が燃えている。炸裂するはずがこれもまた中和されていた。
ジャバウォックが翼をはばたかせる。竜種なので背中には翼が生えているが、それは退化して飛行能力は発揮しない。それ故に地上を目指さないのかどうかは分からないが――。
その動きは新たな攻撃だ。ホール内に風が巻き起こる。
「後退しますか?」
「いや、全方位障壁でしのぐか。セシール、大丈夫かな?」
「うん、出来るわ」
エルワンの言うように一度ホールから出る選択もあるが、ここは戦いを見続けたい。
「よし、皆、かたまれ」
バスティとデフロットもパーティー単位で集合する。風が強くなりジャバウォックの口から火炎が吐き出され、空間内に火災の旋風が巻き起こる。
黒い体躯から発する魔力も合わさり、猛烈な業火と風がベルナールたちを襲う。
このホールの主とて、この場に出現した魔物と戦い座を守っている。これは大勢の小物を駆逐する技なのだ。しかしここに来た冒険者たちは小物ではない。
障壁内に留まるだけの、じりじりとした時間が過ぎて炎と風が収まってくる。
先に仕掛けたのはまたもデフロットだ。愚直にも同じ攻撃を繰り出す。一度の失敗で諦める訳にはいかなかった。バスティたちもまた、地上を疾走する。
デフロットの剣技から魔力の炎が吹き上がる。そして収束し剣は一回り長さを増した。
「ふん、まあ、あれはあれでいいな……」
「そうなの?」
「本来は同じ長さが一番だよ。しかし炎のままよりはずっと良い……」
セシールの疑問に、ベルナールはアレットにも言い聞かせた。駆け出しの剣士、少女は真剣なまなざしでデフロットの剣を見つめている。
その剣を大上段に構え、ジャバウォックに振り下ろす。それは障壁を破壊し頭部を直撃した。一方バスティたち二人は胴の一点に、剣を同時に突き立てる。
「やったわっ!」
「いや、A級ともなると再生能力がある。戦いが長引けば振り出しに戻るだけなんだ」
「ああんっ、じれったいわね。それで一撃必殺の技が必要なのね? S級キラーのような」
「そうだ……」
セシールのようなBランクの上級者にしても、この戦いはA級を相手にする未知の領域だ。勉強になるだろう。
パーティーは連携せずに、今は上下に攻撃を分けている。ジャバウォックの弱点は魔核を抱える胴体ではあるが、攻撃力の矛は頭部だ。
互いに協力して戦いたいが、どちらへの対処もおろそかにできないのが、悩ましいところだ。
戦いながらもバスティは上、デフロットに向けて何やら叫んでいる。それに向けてデフロットも返している。
様々なパーティーを見たが、やはりチームワークこそが強さだとベルナールは思った。
それが結論でなければ冒険者たちがパーティーを組む意味はない。そして自分はずいぶん長く一人でやっていたと苦笑した。
「さて、次の一手はどうする?」
「そろそろ、その手を出してあげたらどうです?」
両者に問いかけたベルナールに、エルワンは焦れたように言う。
「もう少し、このショーを楽しもうじゃないか」




