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第三十三話「決戦の儀式」

「どうでしたか?」

「いい練習になったよ」


 ジェリックはギルドの職員と共に、帰還した冒険者たちを迎えていた。


「ウチのリーダーは少々苦戦しているようですが、大丈夫でしょう」


 ベルナールはジェリックが中央で、大きなパーティーの幹部になっていたと思い出す。元々がこんな役割でクエストに係わっているのだろう。


「先に偵察も出していますが、こちらは外れのようですね」


 要はこの先に巨大ホールはないということだ。


 ギルド職員がやって来てベルナールたちに、三つ叉の入り口までの帰還指示を出す。


「よし、戻って他の回廊に進もうか。戦力は大丈夫か?」

「十分でしょう。こちらにたいした魔物はいませんよ」


 一応、ジェリックに確認するが問題はなさそうだ。


   ◆


 ベルナールを含めた数パーティーがバリケードまで後退すると、バスティたちのパーティーも戻って来ていた。


 エルワンが同行した左の回廊が本命だったのだ。確率的には左が一番高いとある程度は分かっていたのだろう。


「大物はまだ残っていますかね?」


 バスティは少し心配そうに言う。これから駆けつけて、巨大ホールいる新階層最強の魔物が討伐された後では、確かに物足りない結末だ。


「ギルドマスターは慎重な男だよ。確実にクエストを達成するために俺たちを呼んだんだ」


 そしてデフロットたちが暴走しないように同行したのだろう。


 気が付けばもう昼時だ。昨日と同じようにギルドが用意した昼食を腹に詰め込んだ。


「昨日攻略したダンジョンは今日も順調に進んでいる。残りはこの左だけさ。俺たちはここで待機だ。久しぶりにA級との戦いを見られないのはつまらんな……」


 マークスはダンジョン守備隊としての仕事があるので仕方ない。昔は冒険者として新階層攻略に参加していたので、時の流れが立場を変えた形だ。


「俺だって戦いは若い連中に任せて見学中心さ。行ってくるよ」

「ああ、気を付けてな」


 守備隊員たちに見送られて、ベルナールたちは左の回廊へと進んだ。



「S級キラーの技を見せて下さいよ」

「どうかな? 出番があるようでは、若手の実力不足ってことだぞ」

「参ったなあ……、それはそうですが」


 ベルナールとバスティしそんな話をしながら先へと進む。広々とした回廊では多くの冒険者たちが魔物と戦っていた。


「それほどの相手はいないですね」

「うむ、ここは彼らに任せて先に進もうか」


 乱戦の最中、ベルナールたちは何事もないように歩を進めた。冒険者たちは戦いながらも一行をチラリと見やる。


 その表情は羨ましそうでもあり、ホットしたように気が緩んでいたり、悔しそうだったり様々であった。


 そして誰もがベルナールたちの戦いで、この攻略クエストが一段落すると思っているようだ。


 アレットとロシェルは他のパーティーの戦いを、キョロキョロと興味深そうに見回し、セシールは危機に陥っている者がいないかと視線を走らせた。


 二日に渡った戦いも、もうすぐ終わる。



 回廊が細くなり戦いの喧騒も消えた。薄明かりの中、先に人影が見える。エルワンとデフロットたちのパーティーだ。


「おせーな、おっさん」

「こっちはハズレを引いたんだ。ぶつくさ言うな。この先がそうなのか?」


 エルワンは様々な書き込みが追記された地図を眺めている。


「ええ、偵察隊の話ではホールのサイズはこれ位ですね」


 そして地図上、おおよそのサイズを指でなぞった。


「大きいですねえ。さすが第六階層だ」


 ダンジョンの下へ行けば行くほど巨大ホールは大きくなると、バスティは知っていた。


「相手はジャバウォック、A級です」

「う~ん……」


 デフロットが唸り、皆も首を傾げたり顔を見合わせたりしている。


 ジャバウォックは竜の亜種であるが、ドラゴンのように地上に出ることはしない。故にこの街の若手は見たことがないのだ。


 ベルナールは特性や習性、知っている限りの対応策を説明した。Bランクの冒険者ならば理解できるはずだ。


「ギルドから作戦の指示はあるか?」

「特にありませんよ。皆、私より実力のある冒険者たちなのですから……」


 エルワンはそう言って肩をすくめた。自嘲しているのではない。自身が責任者としての、初めての下層攻略を心底嬉しく思っているのだ。


 そしてベルナールたちを激励している。


「デフロットとバスティで連携して当たれ。俺たちは後方で必要ならば支援をする」

「おっさんに命令される筋合いはないな。だけど従わせてもらうぜっ!」


デフロットらしい物言いだ。こいつはこれで良い。


「パーティーでの集団戦にはなれています。大丈夫です」


 王都での作戦を経験しているバスティたちにはよく分かっているのだろう。何よりの経験者だ。


「セシールたちは俺と後方で待機だ」


 アレット、ロシェルの三人と、エルワンも無言で頷いた。


「よし、行くぞっ!」

「「「「はいっ!」」」」


 意外にも全員の返事が一致した。



 そこは本当に巨大なホールだった。天井にはまるで夜空のように魔核が煌めいている。壁には帯のように魔核が光っていて中は明るかった。


 最深部の奥に巨大な黒い塊が鎮座している。あれがA級のジャバウォックだ。


 デフロットは左、バスティたちは右へと分かれて、ゆっくりと進んで行く。ベルナールたちは入ってすぐの場所で戦いを見守る。


「エルワン、何でお前まで返事をする?」

「つい昔を思い出しました。第四階層攻略でこんな場面があったんですよ」

「そうだったか?」

「そうです」


 と、いつものドヤ顔で言う。ベルナールはその場面を思い出そうとするが、それは後回しだと止めて今の戦いに集中する。


「セシールは二人の障壁を張ってくれ。俺は大丈夫だ――、エルワンは……」

「自分の身を守るくらいの力はあります」

「失礼した……」


 ジャバウォックは始めてこの地を訪れた魔力、人間を感じてゆっくりと立ち上がった。


 人の背丈の数倍はある巨体は黒光りする鱗に覆われ、魔核の光を(あや)しく反射している。


 固まっていた両拳の鋭い爪が突然開かれた。人間を敵と認識したようだ。それを受けて若き冒険者たちも戦闘態勢を作る。


「ふふふ……」


 ベルナールには戦いの、おおよその想像がつく。


 デフロットは支援魔法で一気に跳躍し、頭部に攻撃を仕掛けた。それを受けてバスティとアレクは地上を疾走して下半身を狙う。


「さて……、見せてもらうぞ」


 まるで自分の戦いのように、ベルナールの胸は高鳴った。


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