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第三十一話「初日の終り」

 指示が出たのでベルナールたちは一度侵入地点に戻り、そしてギルドが用意したサンドイッチの遅い昼食にありつく。


 デフロットたちは食事の配達を受けて、まだ先端に留まっていた。この際、若者には働いてもらおう。ロートルと駆け出しに無理は禁物だ。


 このようなパーティーでセシールには悪いと、ベルナールは少しすまなく思った。


「斥候を出したがなあ……。こっちは先が三つに分かれているんだ。どれが主回廊なのかよく分からん」


 マークスも忙しかったのか今頃サンドイッチにかぶりついている。そう言いいながらバリケードを指差す。


「明日も楽しめそうじゃないか……」

「まだまだ勇者は健在って訳だな」

「いや、若い連中の戦いは見ていても楽しいよ」

「ああ、どうしてもひとこと言いたくなるがな。うるさがられるだけだし、我慢しているよ」


 もちろんマークスも必要なアドバイスはしているのだろう。


 そんな話をしているとギルドマスターのエルワンも戻って来た。


「そっちはどうだった?」

「順調ですね。怪我をした者もいますが少ないです。午後は封鎖線を少し押し上げますか……。三つ叉の手前までですね」

「おうっ」

「バスティたちが少ししたら戻りますから。それからやりましょう」


 ざわつきに視線を向けると、B級を含むC級の魔物数体がバリケードに殺到し始めた。待機していた冒険者たちが迎撃に向かう。


   ◆


「俺はちょっと一人で先を見てくるか――、構わないか?」


 バリケードの前は静けさを取り戻していた。食事も終り手持ち無沙汰にバリケードの先を見ていたベルナールは言った。


「ええ、いいですよ。勇者に偵察なんて悪いですね」


 そんな提案に、エルワンは冗談ともつかず勇者と持ち上げてみせる。


「一人は危ないわ。私も付き合うから」


 ベルナールとしては身軽が一番なのだが、セシール一人が来るならば問題はない。


「う~ん、そうだな。すぐ戻るからアレットとロシェルは留守番だ」


 弟子の二人は渋々といった感じで頷く。


「偵察任務は危険なんだ。まだお前たちには無理さ」



「あれが前にいたパーティーか?」


 二人は警戒しつつ世間話などをしながら回廊をゆっくりと進む。


「まあね、悪い人じゃないんだけど、やっぱり貴族としてのプライドもあるしね」

「悪い人じゃないか……」


 数体のC級を倒して、その三つ叉をうかがう地点まで来た。サイズとしてはどれも大差ない。


「どの先にメインホールがあると思う?」

「私の探査じゃ分からないわ……」


 セシールの専門外の話だ。ジェリックがいればとベルナールは思った。


「だけど一番右に魔物が沢山いるわね」

「そうか……」


 ベルナールもそう思った。しかしその先に、この階層最強が冒険者たちを待っているとは限らない。


 その気配が、みるみるこちらに近づいてくる。


「明日の仕事だな。戻ろうか」

「うん……」


 帰り道、支道の開口からC級の魔物が現われるが、ベルナールたちは戦わず帰りを急いだ。切りがないほどの量だ。


 ベルナールとセシールがバリケードに戻ると、待機していた冒険者たちが殺到し始めた魔物に立ち向かう。


   ◆


「良いですよ。食事をとったら行きますよ。魔力も温存してますから行けます」

「悪いが頼むよ」


 戻ると食事を頬張るバスティたちとエルワンがそんな話をしていた。


「どうでしたか?」

「斥候の情報とたいして変わらないな。続きは明日さ」

「ですね。今日だけで半分は攻略したのですから上々ですよ」


 順調にクエストが進み、責任者のエルワンとしても気持ちが楽なのだろう。


 その後、バスティたちを中心としたB級の数パーティーが打って出てバリケードを押し上げる。ベルナールたちも途中の支道に入り魔物を掃討した。


   ◆


 エルワンが低い音色の笛を吹くと、ダンジョンの奥からギルド職員の返信の笛が返って来る。


 攻略戦の初日は無事に終わり、集まった冒険者が順に地上へと帰還を始めた。ベルナールたち第一列は殿(しんがり)を務める。


 デフロットのパーティーは疲労困憊といった感じで、アレット、ロシェルも共に疲れは隠せない。ここまで魔力の消費したのは初めてだから無理もない話だ。


「S級キラーとは何なのですか?」


 バスティは比較的元気であった。帰りがけにそんなことを問い掛ける。


「誰がそんなことを言い始めたのかな……」


 ベルナールとて誰が最初に言ったのか、などはもう忘れてしまっていた。


「要は魔力の制御と発揮だ。収束させて攻撃力にするんだよ」

「それは俺にも分かります。王都の連中にもAクラスはいますから。特にそんな異名が付いていた技はありませんでしたが……」

「ははっ、そりゃそうだ。俺の特性を発揮しただけだ。俺には結局これしか残らなかった」


 それは仲間がいなければたいして役にたたない力なのだ。ベルナールはバスティに説明する。


「それこそが勇者の資質なのでは?」

「そうかもしれん。小物をたくさん狩って生活したい俺には不要な力なんだけどな」

「人は自由には生きられません」

「ふむ……」


 平凡な人生を望んでも魔力があれば周囲は冒険者としての道をすすめる。そして冒険者となる。どんな人間でも自分の思惑だけでは道を選べない。


 人は産まれた時から運命が決まっているとも言えた。


「貴族として産まれれば、貴族として生きなければならないしなあ。そんなモノか……」

「ええ、まあ……」


 そして魔力を持てば冒険者だった。


「俺にもできますかね?」

「できるさ」

「S級キラー。絶対にモノにして見せますよ」


 バスティの表情は決意そのものだった。ベルナールはパーティーのメンバーを伺う。なぜかは分からないが皆、複雑な表情をしていた。


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