第三十話「様々な戦い」
ベルナールたちの一団もまた、分岐している空間に対処して回っていた。この場所が進むダンジョンの終点地となっている。
ある小隧道を進むと、五人組のパーティーが九つの首を持った蛇の魔物、ヒュドラと対戦していた。見るところB級程度の個体だ。
壁を背に追い詰められたヒュドラを剣闘士、魔法使い、魔導士の三人が前に出て圧迫している。一人の弓使いが後方から矢を射掛けるが効果は薄かった。
そして一人の冒険者が離れて戦いの様子を見守っている。
「ふむ……」
ヒュドラは九つの口にそれぞれ障壁を作り出し、器用に攻撃を防いでいる。
剣闘士は腰が引けながら戦っているが、それでも危険だった。障壁で守られた口が攻撃に転じれば人の半身を容易に飲み込む。
「あんたは加勢しないのか?」
「手を出すなとあのリーダーに厳命されてましてね」
そう答える男には見覚えがあった。以前北のギルドにいたが、確か中央に移籍した冒険者だ。
「私はヘルプですから。おまえは探査だけをしていれば良いと言われているのですよ……」
ベルナールは思い出す。特に探査魔力に秀でている男で名前は――、確かジェリックと呼ばれていた。
「そうはいかんだろう。新階層攻略は共同クエストなんだからな」
「まだ大丈夫ですよ。あの剣闘士は少々危なっかしいですけどね。魔法使いと魔導士はすぐに助けられるように戦っています」
確かに、いざとなったら即撤退できるような戦いぶりではある。魔導士が防護の魔力で剣闘士を守っていた。
この前衛三人は牽制で、後方の弓使いが致命傷を与える陣形だ。
「なるほどな……」
しかし生彩を欠いた魔法攻撃では敵に隙を作れない。矢の威力も弱いようだ。
「ああんっ、もう! 手伝うわ。フィデール!」
焦れたセシールは弓と矢を取り出して前に出る。
「セシール! 君は追放されたんだっ! 手を出すな!」
どうやら以前セシールが在席していた、例のパーティーのようだ。
「このクエストにそんなルールはないわ。あれをやるわよ! 皆は引いて支援に回って!」
「ちっ! 余計なことを……」
舌打ちするリーダーにパーティーのメンバーたちは逡巡し、どうするか決められないでいる。
「早くっ!」
「……いいだろう。皆、引くんだ。元勇者の偉い娘に従おうじゃないか……」
すこぶる嫌みな言い方だ。ベルナールにはセシールの抱えていた事情がだいたい分かった。
「ふん……」
ジェリックが隣で鼻白む。探査だけをしていろ、などと言うこんなリーダーのお守りでシラけているようだ。
セシール、フィデール共に弓を引き絞る。それぞれの仲間が魔力支援を掛けた。
「むっ……」
二つの矢が互いに共鳴する唸りが微かに響いた。それは徐々に甲高くなり、二本は同時に放たれ一体となる。
防御に回るヒュドラの障壁が首と共に次々打ち砕かれる。その矢は胴体に突き刺さり中心の魔核まで体をえぐった。
「やるじゃないか。セシリアも使っていた技だな」
弓以外の魔力で同調させる方法もあるが、難易度は高い。
「まだ弓使いとしか出来ないのよ。今度ロシェルと練習してみるわね」
「ああ、ぜひそうしてくれ」
母親のセシリアはベルナールの魔力と同調して矢を射れたし、パーティー全員で放つこともあった。魔力四重奏の矢は遠距離でA級の魔物すら打ち砕いていたのだ。
◆
ベルナールたちは支道よりも細い他の隧道のへと侵入する。その先ではお馴染みのパーティーが戦っていた。
「デフロット! 支援は?」
「もうちょっと抑えてくれっ!」
魔法使いの少女が注ぎ込む魔力を下げると、剣の炎が収束した。
「少しは考えているな……」
デフロットは今まで自分でも制御不能の魔力を支援させ、それを敵にぶつけるだけの戦いをするばかりであった。これでは自身も仲間もすぐに魔力を枯渇させてしまう。
今は完璧に操れる範囲でのみ支援を受けているようだ。
相手の魔物はグレンデル。A級種もいるが今の相手はB級程度だ。赤黒い表皮は金属の質感で魔力障壁でもある。強固な体を持つ人型の巨人であった。
「でやあっ!」
グレンデルが振り回す鉄拳をかいくぐり、飛び上がったデフロットは胸に目がけて剣を突き立てる。しかし魔力の収束は不安定だった。
鋼鉄のような胸板に剣は弾かれ後ろに飛び退く。
「もう一度だっ!」
そう気を吐くがグレンデルの鉄拳が垂直に振り下ろされ、障壁が砕かれる。が、既にデフロットは脱出しことなきを得た。
「少しはできるようになったんだな……」
「なっ、またおっさんか!? また獲物を横取り――」
「相手はたかがB級の中位だ。仕留めてみせろっ! 弱点を突くんだ」
グレンデルの金属の質感がない部分は間接部分や首筋などだ。そこならば今の剣技でもダメージを与えられる。一番強固な胸を狙うなど愚の骨頂だった。
「言われなくても……」
デフロットは闘志を絶やさず敵に向き合う。
戦いは続き、デフロットは辛勝ながらも見事グレンデルを打ち倒す。しかしパーティーの消耗は激しかった。しばらく休憩が必要だろう。
「お前の戦いぶりは遠く勇者には及ばないな」
「うるせえ!」
いつものようにヘタリ込んでいるデフロットは、いつものように悪態をつく。
「それならそれでいい」
「……」
「もう少し頭を使え。仲間に頼れ」
「仲間のことは信頼している……。頼っているさ」
「それは分かる。しかしそれは魔力支援だけではないと言うことだ」
「……」




