第二十九話「様々な魔物」
「なんだよ、こりゃ……」
少し狭くなった回廊は天井も壁も床も一面の緑に埋め尽くされていた。
「マンドレイクかあ?」
「地上じゃ、これ程の群生にはお目に掛かれんがな……」
マンドレイクはC級の魔物で、植物のようであるが植物ではない。森の中で見掛ける個体はせいぜい数株が生い茂る程度だ。土の中に魔核が埋まっている。
「これをせっせと刈り取るのかよ……」
デフロットは呆れたように言う。確かに地上ではそうするが――。
「いや、これだけの中に迂闊に足を踏み入れてはいけないな。ロシェル、撃ってみろ」
「はい」
大勢の冒険者が見守る中、ロシェルは緊張しつつその中に矢を射った。魔力の炸裂に、キャーとまるで人の悲鳴のような音が響き渡る。
マンドレイクを刈り取った時と同じだった。それに反応した群生がいくつかにザワザワと集まり始める。
「なんだよ……」
「初めて見るか。これがマンドレイクの本当の姿だよ」
そして人型の塊になった集合体がいくつか現われた。
「群生地の中に入るとあの緑が人を包み込む。そうなると厄介なんだ」
ベルナールは周囲の冒険者たちに説明するように言う。
「なるほどな。で、あいつの力はどうなんだ?」
「C級さ……」
デフロットは一人で進み、次々に個体となったマンドレイクを打ち倒した。切りつけられたマンドレイクは破裂するように弾けて、細かい魔核が壁や天井に張り付く。
「さあ、先に行こうぜ!」
◆
バスティが進んだ集団にはエルワンが合流していた。
大きく広がった回廊からはいくつもの支道が放射状に伸びている。一団はここに留まり一つ一つ中を伺っていた。
「バスティ! B級がいたよ。行ってもらえるか?」
「もちろんです。相手は……」
「スプリガンだ。大丈夫かな?」
以前、王都のダンジョンでやり合った相手だ。あの時は軍のパーティーと共同撃破だったが――。
「大丈夫です」
――今のバスティたちならば、たいした苦になどならない相手だった。
細い隧道の奥の広間にそいつはいた。ひょろ長い体躯の巨人は妙に右腕が太い。
スプリガンは巨人と小人のつがい、二つで一つの魔物なのだ。
人の三倍ほどの体長が俯いて立っている。不自然に太い右腕が千切れ落ちてそれは人型に変化した。
「さて……」
この魔物への対処は打ち合わせ済みだ。バスティとアレクがいつもと同じく全面に出る。
小さな人型は意外にも筋肉質の体で、力押しで向かって来た。剣闘士のアレクが迎え撃ち、魔導闘士のイヴェットも支援をしつつ剣を抜いて戦う。
突進してくる小型を二人が止め、バスティは大型に向けて飛翔した。魔法使いのリュリュから魔力と攻撃の支援を受けつつ戦う。
鋭い爪を持つ細長い腕を振り回す大型の方は、このサイズで意外にも素早い動きが特徴だ。
バスティは繰り出される右の爪と打ち合い、左の爪をかわす。リュリュの支援魔法で空中を機動しながら、自身の魔力を攻撃に集中させた。
アレクは防御魔力を掛けた鎧を盾に果敢に接近戦を挑む。大男ほどの相手に力負けしないように、イヴェットが支援をしながら剣技でも牽制する。
大型の腕の一振りがバスティを捉えた。剣で防ぎつつそのまま跳ばされホールの側面に着地する。
そして隙を見つけ、猛然と頭部に肉薄。右の爪をかわし左の攻撃を剣でなぎ払い、首を落としてそのまま反対の側面に再び着地した。
しかしこれは致命傷にはならない。弱点はあくまで中心部の魔核だ。
視覚を奪われた大型スプリガンは、バスティの位置が分からず腕を振り回すが隙だらけだった。
再生を始めた頭部に剣を振り下ろし、そのまま胴体を引き裂く。しかし簡単には、剣は魔核まで届かない。
「くそっ! 力が足りない。まだまだっ」
バスティは剣の切っ先に集中した。リュリュも魔力を流し込む。
一方小型と対峙するアレクとイヴェットは、大型の様子を伺いながら戦う。
「バスティがやったわ!」
「こいつも動きますね」
「ええっ、その時は――」
小型のスプリガンは一度アレクたちを押し出して後退し、大型が屈み手で小型をすくう。これは失った頭部に合体させる為の行動だった。
バスティの剣が魔核に届き、大型の腹部からゴロリと地面に落ちる。
これは合体により小型の魔核で大型の体を維持させる本能のような行動だ。
「させないわよっ!」
予想していたアレクたちは飛び上がりその腕を切り飛ばす。
ドサリと腕ごと地面に落ち、今度は腕と融合し一回り大きな個体になろうと変形を始めた。
それをバスティが上から飛び掛かり串刺しにする。腹が弾けて魔核が飛び出した。
バスティたちのパーティーは見事な連携でスプリガンに勝利する。




