第二十五話「それぞれの思惑」
「クソッタレが、北ギルドのやつら。やってくれるじゃないか!」
新階層攻略に向けて、ギスランの組織も中央ギルド所属の資格でいくつかのパーティーを申し込んだ。
しかしその申請の全てが、北のギルドマスターによって却下されてしまったのだ。
推薦は各ギルドだが、どこを応援に加えるかは、北ギルドの裁量になる。
ギスランは恣意的に自分のところが外されたと思わずにはいられない。最近やることなすこと、ついていないように感じる。
「あそこのギルドマスターはなんて言ったかな?」
「エルワンです」
ジェリックが答え、ギスランは首を捻って記憶を探る。
「思い出せんな……」
「私より少し上の年代ですね」
「ふん、まあいい……。どの程度金になる階層かすぐに知りたかったが――」
そして既に興味を失ったように話題を変えた。
「――俺たちのところから誰も行けないとはな。ベルの野郎はどうするんだ?」
「当然行くでしょうね」
「チッ!」
ギスランとしては金と、あくまで元勇者の動向が気になっているのだ。
ベルナールは最近、弟子の二人と、同じく元勇者の娘、Bランクの冒険者とダンジョンに潜っている。
参謀役のジェリックは既に手を打っていた。
「私が行きますよ」
「何? いったい――」
「ブランシャールのパーティーにヘルプとして入ります。了解を取りました。フィデールも参加します」
「ふん、あのお坊ちゃまも、そんなことには役に立ったな……。お前はいつも手回しがいい」
「いえ……」
ブランシャール・フィデールは自身の領地の縁故者だけを露骨に引き抜き、そのパーティーは今や三十名もの冒険者を抱えるに至っていた。
ギスランの組織からも何人か抜けていたが、特に引き留めなどはしていない。こちらとしては黙認していた。
「新開口の稼ぎにありつけないのは痛手だったな……」
全体として組織に入る報酬は減ってきている。ジェリックしても様々な手を考えていた。
「いえ、ギルドは東西共に北のラ・ロッシュにしばらく戦力を集中します。その隙に我々は他で稼ぎます」
ジェリックはそう言って地図をギスランの目の前に広げた。
「ほう……」
構築した情報網からもたらされる魔物出現の報。冒険者が出向いたが誤報を疑われる案件などに、ここ数日ジェリックが直接出向き探査を行っていた。
そうして、移動した魔物の位置などを探り当てた場所が地図に記されている。
ジェリックは優れた探査、偵察能力があり、それがギスラン率いるパーティーの力になっているのだ。
「それなりの獲物ばかりですよ。この隙に一気に刈り取りましょう」
ギスランの組織が露骨に動けば、おこぼれに預かろうというパーティーが必ず辺りをうろちょろする。ダンジョンに注目が集まるこの数日に決着を付けろと、ジェリックは既に指示を出していた。
「お前は優秀な参謀だよ」
ジェリックにはその自負があった。
しかし西の奥深くの森で、明からに軍と分かる偵察部隊と遭遇した件は黙っていた。
まだこの街で噂にもなっていない組織の動向を、いちいち説明するのは手間なだけだ。
◆
「それで、ちょっと頼みがあるんだがな……」
「遠慮しないで何でも言ってよ」
ベルナールはセシリアの店で食事をとってビールを飲んだ。
そしてカウンターで向かい合うこの店の店主、同じ元勇者に頼み事をする。
「弟子たちが着ける武具が欲しいんだ。さすがに今の格好で新階層に行くのはどうかと思ってな。お古が余ってないか?」
アレットとロシェルはただの平民服に武器を携行しているだけの格好だ。今一つ冒険者らしくない。
「お安いご用よ。いっぱいあるわ」
「私のも色々あるから」
ホールからセシールが戻り、話に加わる。
「ボロでもいいよ。修理するから」
「二人に似合うのを適当に見繕っておくわ」
「悪いね」
翌日の午前中、ベルナールは店を訪ねる。
「あの時はお金があったから色々と買ったわねー」
セシリアは店のテーブルに山積みになっている、様々な衣装や防具を眺める。
「似合うのと、最近の流行もあるから選ぶわね」
「ベル、お茶を入れるわ。食事も用意したから」
「悪いな」
セシールがお古の山と格闘し、セシリアは厨房に行く。
ベルナールはカウンターに座り、熱いお茶を飲み、出されたパン、スープ、野菜、焼かれた卵などを頂いた。
「セシールを預かってもらって助かったわ。毎日家にいて暇そうにしてたのよ」
「いや、こっちだって大助かりさ。しかし、いずれはちゃんとしたパーティーを見つけたいな」
「そうよねえ……」
母親としては、やはり娘のことは心配だ。
セシールが選んだのはそれぞれ用の、厚い布地の上着、グローブ、革の簡易装甲各種、その他などだ。それぞれ二人に合いそうなサイズが選ばれている。
「胸当てはこれね。私も使ってたわ」
「ん? 大きくないか?」
「すぐにこれぐらいにはなるわよ」
「いやあ、さすがに……」
と言ったがこの案件はベルナールにとっては専門外だ。おとなしくセシリアに指示に従うことにする。
「いくつか用意してあるから、ボタンで付け替えれるのよ。アレットのお下がりをロシェルが使えばいいわ」
「なるほどね……」
それらが入った袋を抱えて、ベルナールはいつもの武器屋へと行く。
革紐類は念の為全交換とする。戦闘中に切れては問題だ。合うサイズを物色した。
「弟子用か?」
「ああ、新品を買わなくて悪いね」
「いやいや、新階層突入に参加する冒険者たちが、剣を研ぎに出したり買い換えたりしている。矢も売れているし、この業界も久しぶりに景気が良いよ」
老店主は機嫌良く、そう言った。
やはりダンジョン攻略の為に作られた街には、ダンジョンの攻略が一番似合う。
可愛い弟子たちがこの戦いで何をつかむのかも、ベルナールにとっては楽しみであった。




