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第十五話「かつての宿敵」

 中央ギルドにほど近い石造りの建物。ここは百人近くの冒険者を束ねる巨大パーティーが所有していた。


 最上階、三階の豪華な調度品が並ぶ一室で、この部屋の主は顔を歪めて怒鳴るように叫ぶ。


「ベルナールの野郎が来ただって?」

「はっ、はい……。元勇者の――」

「そんなことは知っているっ!」


 胴間声(どうまごえ)で怒鳴られた若者は身を縮める。


「すっ、すいません……」


 北の魔境開口部、ラ・ロッシュの守備隊員は、一括され消え入るような声で答えた。


「……ウチの隊長と何か話してました……」

「何を話てたんだっ?!」

「さっ、さあ。遠巻きに見てたんでそこまでは――。わっ、分かりません……」


 数々の死線をくぐり抜けてきた、元A級冒険者の威圧感。怒鳴るように話すこの男に若者は更に萎縮して答えた。


「ちっ!」


 ギスランは露骨に顔をしかめる。


 各ダンジョンの若い守備隊員には時々小遣いを渡し、必要な情報を持って来た場合は相応の金を渡していた。


 この情報網を使って旨味のある魔物などか出現した時は、いち早く必要な能力を持つ冒険者たちでパーティーを組み派遣する。


 そして確実に仕留める。そのような方法でギスランの巨大パーティーは稼いできた。


 先日も未確認開口部(ロスト・マウス)から出現したB級、三匹の魔物の内二匹をギスランのパーティーが討伐していたのだ。


 人手が必要な大きなクエストなど、露骨に介入し妨害をして報酬をつり上げたりもした。


 あえてギルドに敵対しても高額な報酬を得るのが、自分の勤めだと信じて疑わない。


 それは若い頃に見た光景。


 雀の涙程度の金で命を落とす冒険者や、真面目にクエストをこなしても、たいした金にならない現実などを見ていたからだ。


「近くにいた奴に聞きましたけど、挨拶をした後、あっちに行けと言われたそうです」


 人に聞かれてはまずい話でもしたのかと、ギスランは勝手に想像した。


「おい、少しばかりはずんで(・・・・)やれ!」

「はい……」


 隣にいる参謀役のジェリックは、革袋から数枚の銀貨を出してテーブルの上に置く。


「ベルの野郎が来たら知らせるんだ。誰と組んで何を探るのかを調べろ」

「分かりました……」

「行っていいぞ」

「失礼します」


 隊員の若者は金をつかんで逃げるように部屋から出て行く。


 このような方法、ギスランの信念は当初は喜ばれていた。


 安全で討伐の確率も上がった。経験が浅くとも強者の戦いを間近に見て、力をつけてきた若手も大勢いたからだ。そして何よりまんべんなく稼げた。


 しかし、それはいつまでも長くは続かなかった。魔物の出現低下。強くなった冒険者たちの反発、独立志向。


 強い者が稼ぐだけの原則に従いたい人間は大勢いたのだ。誰もが勇者になりたかった。


 そして今――。


「俺たちはそんなおっさん(・・・・)が入る互助会には興味ないっすよ」


 実力のある若手からは、軽んじられる存在になっていた。


 デフロットとかいう北の若造が、そんなことを言っていたと思い出し腹が立ってくる。


 それに最近では王都から来たという若手が頭角を現し、スカウトを派遣したが、そちらにもにべもなく(・・・・)断られていた。


 ギスランはベルナールと同年代のベテラン冒険者だった。今は元冒険者となってしまい影響力は更に低下した。


「どいつもこいつも俺様を安くみやがって……」


 ギスランには起死回生の秘策があった。うさんくさい話ではあるが乗ってみようかと考えていた。


 あのバカ息子もこの話に乗るそうだ。どんなエサをぶら下げられたのかは知らないが本当にバカだと思う。


 上手く行けばこの街の守護者が誰かを知らしめ、もう一度名声を高められる。


 成功をした時のことを思い描いて、ギスランは思わずほくそ笑む。


「ベルナールめ……、あいつ、またダンジョンに潜るつもりなのか?」

「順当に考えればそうでしょう。どこかのパーティーのヘルプにでも付くのでは?」


 ジェリックは少ししらけた(・・・・)ように静かに言う。


「ふん……」


 二人は若い頃、ライバルでもあった。ベルナールはパーティーのメンバーに恵まれ勇者と呼ばれるほどに活躍した。


 一方ギスランはたいして変わらない力を持っていながら、運にも仲間にも恵まれず、それでもAランクの冒険者にはなったのだが、ついぞ勇者と呼ばれることはなかった。


「くそっ!」


 そしてあの頃、ギルドでベルナールの冗談に頬を膨らまし、ムキになって反論する蒼穹の髪色の少女。そのやり取りを優しく見守る二人の仲間。


 同じパーティーでも互いに足を引っ張り合い裏切り合い、他人より早くランクを駆け上がろうと足掻いた日々。


 猜疑心と死の恐怖に叫び出したくなるのを心に押し込んで戦った毎日。


 ベルナールのパーティーはそんなギスランのことなど歯牙にも掛けずに、勇者へと上り詰めて行ったのだ。


「許せるわけないだろう。なあ?」

「はい……」


 またいつもの話かと思いながら、ジェリックは小さな相槌を打つ。


「前にベルの野郎が食肉関係の仕事をやってるって言ってたよな?」

「はい……」

「それも潰せ」

「……分かりました」



 食肉ギルドには息の掛かった元冒険者たちが何人もいる。もう人を送らないと言えばこちらの言うことを聞くだろう。


 これに何の意味があるんだ? と思いつつもボスがやりたいのだからと、ジェリックは溜息を押し殺した。


 こんな男でもかつては輝いていた日々があったと思い出す。


 派手さはないが黙々とクエストをこなし、地道にランクを上げてAランクの冒険者になった。


 燻し銀、玄人、通好み。密かにそう呼ばれていたこの男に憧れていた若手冒険者は何人もいたのだ。自分もそうだった。


 だからこそ、この組織はここまできた。若手が育ち、ギスランの交渉で今までよりワリの良い報酬を得る。


 無理なクエストを強いるギルドにも、ギスランは正面からぶつかっていった。ジェリックは今と同じように傍らに立ち、それを誇りに思ったものだ。


 しかし今のギスランはもう別人だった。


 目の前にいるのは若い頃を、過去を、昔をいつまでも引きずっている元冒険者のただ(・・)のおっさんだ。


 ジェリックは再び溜息を押し殺す。


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