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第十三話 「魔境大解放」

「お久しぶりですねえ、調子はどうですか?」

「久しぶりでもないだろう。普通だよ」


 ベルナールがいつもの行き付けの店に入ると、なぜかカウンターではエルワンが一人で飲んでいた。


「天下のギルドマスター殿がなんでこんな店にいるんだい?」

「やめて下さいよ。ここではエルワンと呼んで下さい」


 立場上、ギルド周辺では飲まないのが普通だ。酔った冒険者たちに絡まれるのがオチだからだ。


「デフロットの件、聞きましたよ。助かりました」

「いや……」


 本人がベルナールに助けられてヘルプの金を払いました、とは言わないだろう。


 たぶん出費をパーティーの誰かに問い詰められてデフロットが話し、そして人伝にギルドマスターにまで伝わったのだろう。


「ロートルにもちゃんと役割があるだろ?」

「私は分かってますよ。分かっていないのはギルドの上層部ですから」


 エルワンは少々ムキになって言う。自分の本意ではないと強調したいようだ。


「分かった分かった。で、何の用だい? 世間話をしに来たんじゃないんだろ?」


 ベルナールはマスターから差し出されたビールに口を付ける。


「バスティたちのこと、知っていますよね?」

「もちろんさ、あいらは良いパーティーになるよ。それが?」

「彼はエーグ・モルトのギルドで冒険者登録をしてパーティーを組んでから、次に王都に行って仕事をしているんです」


 エーグ・モルト、その街の名は聞いたことがある。山岳の奥深くから湧く魔物を狩るために作られた冒険者の街だ。

そしてバスティたちは、そこから危機の王都に急行して仕事をしていたのだ。


魔境大解放ダンジョン・クライシスか……」


 それは王都トゥーレーヌの山岳部で起こった事件だった。ビッグ・ダンジョンの開口部が突然開いて大量の魔物が王都に迫ったのだ。


 王立軍と、周辺の街からかき集められた冒険者たちが動員され、防衛戦を繰り広げたと聞いていた。


「どうも引っ掛かるんですよね……」

「ん? エーグ・モルトの街は王都と同じベアルン州にある。距離も近いし何かおかしいか?」

「いや、その通りです。しかしあそこから直接この街、サン・サヴァンに来たのは彼らのパーティーだけなんですよ?」

「ふむ、あいつらだけとは意外だな?」

「はい、引き続き多くの冒険者たちが王都に留め置かれています。新ダンジョンはまだ第二階層を攻略中ですからね」


 そんな最中、バスティのパーティーだけがこの街へと来ているのだ。


 不自然な気もするが、だからといって気にしすぎではないか? ギルドマスターともなれば色々と気を回さなければならないのは、ベルナールにも分かるが。


「何か不穏な動きでもあるのか?」

「それはないですけどねえ。ただ……」


 エルワンは何やら言いにくそうだ。


「ただ?」

「何か王都の冒険者ギルドから依頼でも受けているのではないかと……。それに冒険者に年齢制限が出来たりもしました。上が何を考えているのかギルド職員たちも不安がっているのですよ」

「ほっときゃいいだろ。なるようになるさ……」


 バスティたちが王都の上層部から何か指示を受けているなど、気にしすぎのエルワンにベルナールは呆れ顔だ。


「彼は勇者を尊敬しています。若き冒険者としてですね。それとなく話を聞いてもらえませんかねえ……」

「えっ、俺がかかあ? 直接聞けばいいんじゃないのか?」

「そうもいきませんよ。立場もありますから」

「それで俺がこんな間諜(スパイ)みたいなことを、させられるのか?」

「大袈裟ですねえ。世間話をしてくれればいいんですよ。ここの支払いは私が持ちますから」

「安く上げやがって!」

「それからこれ、商隊の護衛です」


 エルワンは紙片を差し出した。


「商隊?」

「仕事を紹介しますよ」


 そう言ってドヤが顔で話を続ける。


「実は極秘で王都の軍が動いているのです。訓練も兼ねて近郊で未確認開口部(ロスト・マウス)を探索するそうです」

「軍が! この近くでか?」

「小部隊ですがね。その駐屯地への輸送ですよ」


 商隊は軍需物資なのだ。それにしても王都がまだ臨戦態勢なのに腑に落ちないと、ベルナールは(いぶか)しんだ。


「報酬ははずみますよ。バスティたちも参加しますから……。一応、彼らのヘルプになります」

「こいつめ……」


 確かに不自然な話ではある。


 エルワンはギルドとして正式に動けないので、それを世間話からこちらに振っているとベルナールは理解した。俺を上手く使うつもりだな――と。


 相手は何だかんだと言ってもギルドマスターだ。権力にも近く、様々な手練手管も経験している。表だって動けないなら裏を使えばよい。


「アンディックさんはまだ王都にいるんですよね?」


 エルワンは突然に、ベルナールの昔の仲間の名を口にする。そっちもか、とベルナールは苦笑した。


「ああ、まだいるだろ。俺みたいに戦力外通告を受けていなければな」

「きついなあ、こうやって仕事も紹介してるじゃないですか」

「おまえさんじゃないよ。ギルドに対しての嫌みさ」

「分かってますけどね」

「そうだなあ……、冒険者をやめたって手紙を出してみるか。バスティの件もそれとなく書いてみるよ。それとその軍か……」


 要はそちらからも情報仕入れて欲しい、とのことだ。その仲間は王都ではそれなりの要職についていた。


「頼みます」

「分かった、分かった!」


 ベルナールは気苦労の多いギルドマスターの為、一肌脱ぐことにした。


「中間管理職も色々と大変だな」

「そうなんです。冒険者の才能がない若い衆に、それとなく引退を進めたり、就職先を探したり……、大変なんですから!」

「分かった。分かった」

「あなたが面倒をみている二人の娘だって……」


 ギルドマスターは、今度はあの二人に話を振る。


「あの二人、ランクはどうなんだ?」

「知らないんですか? 二人共にFランクのままですよ」

「そうか……、そろそろ次に進むか」

「二人にも早く他の仕事を目指すように……」

「あいつらはすぐにCランクには行くよ」

「え~っ! まさか?」

「鍛えるのも順序が必要なんだ」


 しばし間が空く。エルワンが感心したような表情になった。


「ベルさん。ギルドで働きませんか? 嘱託か顧問で……」

「冒険者に復帰させてくれればな」

「そうしたいですが、それは無理です」

「で、俺のようなロートル冒険者たちをクビにした効果はあったのかい?」

「ありましたね。あっちこっちの街で百人前後の冒険者を抱える大型パーティーが分裂していますから」

「そうなのか?」

「はい、まとまって脱退して新たなパーティーを作ったり、辞めたやつらが他のパーティーに参加したりです。今まで苦労して組んでた冒険者たちも、そのうち編成が楽になりますよ」

「ふーーん……」


 自分がクビになるような制度で助かる冒険者が大勢いる。


 ベルナールは釈然としないが、これはもう仕方のないことだと諦める。


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